少子化には観光戦略で対抗せよ——刀根健一×デービット・アトキンソン

日光東照宮建立以来の380年の歴史を持つ小西美術工藝社の経営改革に取り組み、日本の発展に繋がる様々な提言をされているデービット・アトキンソンさん。これからの日本はどう進むべきなのか――世界最古の1430年の歴史を持つ金剛組の刀根健一さんと語り合っていただきました。

神様のための仕事をしている

〈アトキンソン〉 
私が以前いたゴールドマン・サックスも百何十年続いている会社だったんですが、ああいう堅実な会社を見ていて感じるのは、やっぱり派手な会社は駄目なんですね。
 
派手なことをやろうとしている会社というのは、一時的に羽振りよく見えても、こけるのも派手です。地道にコツコツやっていくことが大事だと思います。ですから以前の会社では、一番にはなりたくないと言っていたんです。結局一番になってしまったのですが。

〈刀根〉 
あぁ、一番にはなりたくないと。

〈アトキンソン〉 
一番というのはみんな狙ってきますし、結構入れ替わるんです。けれども2番というのは誰も狙わない(笑)。世界の企業の歴史を見ても、1番と3番、1番と5番がしょっちゅう入れ替わる中で、ずーっと2番の会社って結構あるんですよ。1番の陰でずーっと2番。しかし、しょっちゅう順番が入れ替わっている会社よりも、利益の累計水準はずっと多いんです。

〈刀根〉 
なるほど、それは鋭いご指摘ですね。

〈アトキンソン〉 
ですから、当社はいまは一番ですけど、それで威張ったり、派手なことをやったり、人の仕事を気にするとか、そんなことはどうでもいい。自分たちは自分たちのやるべき仕事を納めて所有者の方に評価してもらえばいいんです。他社の風下に立つ気はないけれども、上だからどうだということはない。
 
社員にもそのことを徹底したいので私はいつも言うんです。小西美術の仕事は神様のための仕事なので、業界の中で一番だとかはどうでもいいことなのですと。

〈刀根〉 
上に神様がいるわけですね。

〈アトキンソン〉 
だから我われは、神様が満足するような仕事をしなければなりません。
 
先日、取材を受けた時に日光の仕事の現場に一緒に行きましてね。地上11メートルのところで塗り直しの作業をやっていたんですが、花の輪郭の部分で僅かに不適切な部分があったので、やり直してもらいました。側にいた記者の方は、そんな誰も見えないようなところをやり直しても意味がない、と驚いているので言ったんです。

「私たちの仕事の基準は神様です。神様のためにやっている以上は、人間の目に見える、見えないというのは関係ないのです」と。

我われの仕事は、50年後に対する挑発だと考えています。50年後、次の世代の職人が見た時に、ここまでやっているのか、と驚かれるような仕事をする。そういうマインドを次の世代に伝えていきたいんです。

〈刀根〉 
同感です。建築の場合は屋根裏に棟札を掲げて、改修した日付と、改修をした会社、棟梁の名前を記すんです。ですからやはり、百年後にそれを見た職人から、当時の人はいい仕事をしているなと言われたいですよ。

〈アトキンソン〉 
それこそが永続企業ですよね。今回限りではなく、次があって、その次もあって、その次の次もある。それを見据えた仕事をしなければなりません。

日本の道は観光産業にあり

〈アトキンソン〉 
ですから所有者さんも私どもに対して、次を育てているかということをものすごく気にされます。私は最初、熟練の職人だけが現場に行ったほうが喜ばれると思っていたんですが、それは違うんですね。
 
当社の日光の支社長を誰にするかという時に、29歳の社員がどうしてもやらせてほしいと手を挙げましてね。彼は正月も返上して打ち込むくらいこの仕事が大好きなものですから、彼に任せることにしたんです。そして東照宮の宮司さんのところに紹介に伺ったら、「あぁ、この人なら30年でも40年でも担当してもらえますね」と絶賛してくださったんです。

〈刀根〉 
それはよく分かります。

〈アトキンソン〉 
日本は年功序列的な国だといわれていますが、皆さん若い人を歓迎してくださるんです。当社は高卒の若い人を結構雇っていて、今年また18歳2名と22歳1名が入社したのですが、現場に連れて行くと所有者さんは絶賛してくれますよ。この人たちがいれば、また次も頼めますねと。

〈刀根〉 
そういう意味で、私どもの一番の心配事は少子高齢化、それに伴う若者の宗教離れです。何十年後かには市町村が何百か消滅するという話もありますが、檀家さんもどんどん減っていて、そのために朽ち果てつつあるお寺が地方にはたくさんあります。マーケットが明らかにしぼんでいて、今後の需要拡大が見込めないという現実があります。
 
ですから私どもにできることは、伝統の技術をとにかくしっかり継承していくこと。それに加えて、御用聞き営業では駄目だということ。お客様に提案する営業、お役に立つ営業が求められます。さらには、髙松建設と一緒になって、例えば土地の有効活用等々、合わせ技の営業展開なども考えていかなければなりません。

〈アトキンソン〉 
生まれてくる時にお世話になるのが神社で、死ぬ時にお世話になるのがお寺ですから、少子化の影響は神社のほうが先に受けています。子供の数はもう20年くらい前からかなり減っていて、七五三や結婚式の数も激減していますから、神社の財政は大変なんです。
 
これをどう支えていくのかということを考えた場合に、やっぱり観光で支えていくしかないと私は考えています。寺社仏閣の財政を立て直すには、檀家・氏子以外の人にもたくさん来てもらうしか方法がないだろうと。

〈刀根〉 
確かに、日本にはもっと観光客が訪れてしかるべきでしょう。

〈アトキンソン〉 
イギリスのロンドン市内には1700万人、そこにある大英博物館には420万人の人が毎年海外から訪れます。日本の京都には貴重な歴史的遺産が山ほどあるのに、190万人しか来ていません。本来なら、1000万人単位で来ていないとおかしいと思うんです。

〈刀根〉 
光の当て方が下手なんでしょうね。

〈アトキンソン〉 
当て方というよりは、当てていませんからね。例えばお寺に行っても、そのお寺について解説している人は誰もいませんよ。ここはどういうお寺なのか、なぜここに建てられたのか、親切に教えてもらえるところがほとんどない。
 
ですからもっと観光戦略に力を注いで、寺社仏閣、文化財を観光資源として再認識していく必要がありますね。最近力を入れられているアニメや漫画ばかりではなくて、日本の歴史だとか伝統芸能だとか寺社仏閣というようなところをまずちゃんとしていかなければなりません。そうしてお寺さん、神社さんが潤っていけば、それが職人にも回ってくるわけです。
 
私たちも、従来の伝統産業の発想から卒業していかなければならないと思うんです。私たちが継承してきたものの本質的な価値というのは、これまで十分アピールされてこなかったんですが、これをアピールすれば賛同してくれる人はいくらでもいると私は思います。フランスのあのベルサイユ宮殿を一番支えてきたのはアメリカ人なんですから。
 
これまで私たちの業界は、日本人1億3000万人を相手にしてきましたが、観光戦略に取り組むことを通じて、全世界の70億人にアピールしていく。これによって、減っていく日本人だけでは支えられない可能性のあるところを何とか支えていくべきだと思うんです。
  
(本記事は『致知』2015年6月号「一天地を開く」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、仕事の糧になる言葉、教えが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

刀根健一(とね・けんいち)  
昭和29年福井県生まれ。48年髙松建設入社。同社取締役、青木あすなろ建設常務執行役員、青木マリーン取締役などを経て、平成22年より金剛組の再建に携わる。24年金剛組の社長に就任。現在に至る。

David Atkinson(デービッド・アトキンソン)  
昭和40年イギリス生まれ。オックスフォード大学で日本学を専攻し、日本留学を経験。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、平成4年ゴールドマン・サックス入社。同社取締役、パートナー(共同出資者)、19年に引退、21年小西美術工藝社の会長に就任。23年同社会長兼社長。24年同社社長。著書に『イギリス人アナリスト日本の国宝を守る』(講談社+α新書)などがある。

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