堺屋太一が21世紀のリーダーに伝えたかったこと

優れた見識で長く日本の進むべき道を指し示してきた作家・評論家の堺屋太一さんがお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈りいたします。堺屋さんを偲び、弊誌にご登場いただいた渡部昇一さんとの対談記事をご紹介させていただきます。

日本にはガッツがない

〈堺屋〉
これからの新しい日本を導くリーダーも、カリスマ性がないといけないですね。カリスマ性を持つようなロジックを上手に組み立てなきゃいけない。その点、いまの安倍さんはこのところいろいろ言われてはいるけれども、おそらく21世紀で一番成功したリーダーでしょうね。
 
第二番目には論理的な緻密さ。ただ、あまり緻密さを前面に出してはダメです。ちょっと抜けているように見えながら実は緻密だというのがいい。池田さんはまさにそうだったと思うんです。茫洋とした緻密さというのが必要だと思いますね。
 
その上で、いまの日本に何かびっくりするようなプロジェクトを立ててもらいたいですね。日本を楽しくするプロジェクト。それは単純な思いつきでテーマパークをつくるようなことでは絶対に不可能なんです。もっと掘り下げた楽しさというものが何であるか。これを衆知を集めて考える必要があると思いますね。

〈渡部〉
私はちょっと別の面から言いますとね、戦後の教育で重んじられたのは、頭のよさ、知ですよ。それから優しい心、ハートね。本当にこの頃の子供は優しくなりました。ところが大事なものが抜けていたと思うんです。それはガッツなんですよ。

私はね、リーダーというのはガッツだと思うんです。頭がそれほどよくなくても、それを補ってくれる頭のいい参謀なんかいっぱいいますよ。それから少々強引なことをしても、周りをフォローしてくれる補佐役もいっぱいいます。ただ、ガッツだけは代わりがない。ガッツだけはどんな優秀な補佐役も、参謀も補えません。

ですから、教育も子供たちのガッツを養うことを考えるべきだと私は思うんです。明治維新で活躍した人は皆、江戸時代に育っていますから、ガッツがある。いつでも腹を切る覚悟ができていますからね。そのガッツが知恵になっているんですな、結局は。

残念ながら、いまの日本のリーダーはガッツがないですね。例えば福島の原発事故の時の東京電力の社長は何ですか、あれは。ガッツがないから表に出てこられなくて、入院したかなんだかで辞めちゃったでしょう。きっと頭はいいんでしょう。ハートもいいに決まっています。みんなに好かれて出世したんだから。だけどガッツがないから、いざ事が起こるとすぐへたってしまう。

〈堺屋〉
私はセビリア万国博覧会の時に、安土城の天守閣を再現しました。その真ん中に座って、織田信長がどんな心境で政治をやっていたか、考えてみたんです。

周りは全部金箔で、八角形の壁に描かれた釈迦十大弟子が自分を見ている。普通は仏さんに対して人間が祈るんですが、信長は仏さんに自分を祈らせた。信長がいかなる自信を持って政治をやっていたか。全責任は俺にあるという覚悟が、ひしひしと伝わってきましたね。

日本の先人の中でも信長のリーダーシップが際立っていたのは、まさに栄えるも滅ぶも全責任は俺にあるという覚悟を持って行動していたからです。そして最後に本能寺で明智光秀に襲撃された時には「是非もなし」と潔く覚悟を決めた。そういうガッツのあるリーダーに登場してほしいですね。

(本記事は月刊『致知』2015年10月号 特集「先哲遺訓」から一部抜粋・編集したものです。いまの時代に求められるのは「人間力」――人生や仕事、人材育成のヒントが満載!月刊『致知』ご購読はこちら

堺屋太一(さかいや・たいち)
昭和10年大阪府生まれ。35年東京大学経済学部卒業、通産省入省。45年日本万国博覧会を企画、開催。53年通産省を退官、作家として執筆、評論、講演活動に入る。平成10年小渕惠三内閣で経済企画庁長官に就任。その後、東京大学先端科学技術研究センター教授などを歴任し、23年大阪府(及び市)特別顧問に就任。25年安倍内閣の内閣官房参与に就任。平成31年死去。

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