2018年09月30日
経営環境の大変化の時代を迎えている中で、経営トップとして様々な改革に挑み、大きな成果を挙げているアシックス社長CEO・尾山基さんと、J.フロントリテイリング社長の山本良一さん。お二人が語り合う、組織を変革し、発展させていくリーダーのあり方とは?
わくわくしたビジョンを示すのがリーダー
(山本)
私は、リーダーの重要な仕事の一つはビジョンをつくること。そして、そのビジョンをメンバーに浸透させることだと考えます。極端に言えば、そのビジョンが社員の肚にキチッと落ちて、目指すべきゴールが見えていれば、社員が自律的に動き、会社は動いていくと思うんです。
大事なことは、そのビジョンが社員から見てワクワクするものかどうかですね。
10年先、20年先を見据えてもう一度ビジョンを見直そうということで社内外の役員とともに一年にわたって議論し、合宿までしましてね。そこで生まれたビジョンが、「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。J.フロントリテイリング」なんです。
これから先、世の中がどんどん変わっていく中で、いままでの成功体験に胡座をかいていては百貨店はやっていけません。だからもっと常に新しいことを発明していかなければならない。これまでのような「発見」とか「提案」ではなく、皆で「発明」しようと。
とにかく、社員が見てワクワクするものを打ち出せるかどうかが一番のポイントだと思います。これだけ世の中の変化が激しくなってくると、トップダウンで社員を指示して動かすというのではスピードが遅過ぎるんですね。
現場が変化に応じて、例えばデジタル化の波が押し寄せているのであれば、すぐにスマホを使って販促してもらわなければいけないわけです。トップの指示を待っていたのでは、とてもこの変化のスピードに対応できません。
もちろん何をやってもいいというわけではなく、会社の目指すべきゴールの範囲内で、社員が自由にやれるような持っていき方ができれば、会社はいい方向に向かっていくんだろうと思うわけです。
これまでいろいろ試行錯誤してきましたけど、やはりポイントになるのは目指すべきゴール、ビジョンを社員に明示し、それを浸透させ、その範囲の中で社員が自律的にゴールに向かって動けるような体制をつくること。リーダーはそこだけはきちっと押さえておかなければならないと実感しています。
(尾山)
いまおっしゃった、ワクワク感というのは非常に大事だと私も思います。
人間っていうのは、とかくいまいる場所に留まりたがるものですから、リーダーはそこであえて壁をこしらえたり、新しいものをどんどん提案して、社員がワクワクしながらチャレンジしていける環境をつくっていくことが大事だと思います。失敗すればそれを糧にすればいいわけで、皆が怖がるのをうまく引っ張っていくのがリーダーだと思うんです。
山本さんもトップダウンではスピードが遅くなるとおっしゃいましたけど、リーダーはサッカーと同じで、部下に対してはイエローカードを2枚用意しておくだけでいいんですよ。あまり干渉し過ぎると指示待ちになって組織が硬直化してしまいますからね。
ただ、そうやって部下を上手に導いていくためには、やはりリーダーのレベルを高めていかなければなりません。
ですからレベルアップを図るために、いまは新規にシニアリーダー以上の人が入ったら、仕事を始める前に必ず1週間研修に参加させていますし、意欲のある人はエリートコースをつくって育てていく形にしたいと考えています。
どうしてもやりたいのが、管理職の3分の1を女性にすることです。これから会社のカルチャーも、従来の体育用品専門メーカーから、カジュアル全般にまで広げてゆきたいと考えていまして、そのためにも女性の力をもっと生かしていける組織にしていきたいんです。
(本記事は、月刊『致知』2017年4月号『繁栄の法則』の対談の一部を抜粋・編集したものです。月刊『致知』には経営、仕事に役立つ珠玉の記事が満載でです! 詳細・ご購入はこちら)
◇尾山基(おやま・もとい)
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昭和26年石川県生まれ。49年大阪市立大学商学部卒業。日商岩井(現・双日)に入社。57年アシックスに入社。マーケティング統括部長、アシックスヨーロッパ社長、アシックス本社取締役、常務などを経て、平成20年社長に就任。23年社長CEO。同年、世界スポーツ用品工業連盟第13代会長に就任後、現在は同副会長。
◇山本良一(やまもと・りょういち)
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昭和26年神奈川県生まれ。48年明治大学商学部卒業。大丸に入社。大阪・梅田店営業企画部長、百貨店業務本部営業改革推進室部長などを経て、平成15年社長に就任。19年大丸と松坂屋の経営統合に伴い設立された持ち株会社のJ.フロントリテイリング取締役。22年大丸松坂屋百貨店社長。25年J.フロントリテイリング社長。