新経営の神様・稲盛和夫氏はなぜ「感謝」をベースに生きるのか?

日本を代表する経営者としてその名を知らない人はいない、稲盛和夫氏。京セラやKDDIを創業し、それぞれ1.5兆円、4.9兆円を超える大企業に育て上げ、倒産したJALの会長に就任すると、僅か2年8か月で再上場へと導きました。今回は、稲盛氏がこれまでに行ってきた数々の講演をまとめた書籍『成功の要諦』(致知出版社刊)から、その生き方の根本となる「感謝」について語られた一節をご紹介します。

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

感謝の心を持つ

思い返してみますと、このように、小学校から中学校へ進学するときにお世話いただいた土井先生、新制高校から大学へ行くときにご指導いただいた辛島先生、大学時代に就職をお世話してくださり、セラミックスという世界への道を開いていただいた竹下先生、パキスタン行きを止めて、技術屋として大成するよう導いてくださった内野先生、そして私を見込んで会社をつくってくださった西枝さん。

さらには、年長者でありながら、友人のように親しく接していただき、私を導いてくださった宮村先生、堀さん、また塚本さん。

これらの方々に出会っていなければ、今の私はなかったと強く思います。また、私自身も、それらの方々の貴重なアドバイスに、素直に耳を傾けていなければ、やはり現在の自分は存在しないと断言することができます。

人生というものは、鉄道の線路のようなもので、節々のポイントで方向が切り替わっていくのだと思います。そのポイントこそが、運命的な人との出会いであり、またその人からいただく貴重なアドバイスなのです。その出会いやアドバイスを大切にすることで、人生の軌道を善き方向へと変えていくことができるのではないでしょうか。

私自身の人生、特に幼少期は挫折だらけの悲惨なものでありました。敗戦を迎えたとき、家は焼失し、結核に罹病し、中学受験を2度失敗していました。その後も、大学受験や入社試験に失敗を続けました。さらには就職した会社は、初任給が遅配する倒産寸前の会社でした。

そういう逆境と挫折ばかりが続くなかにあって、私は、斜に構え、ひねくれ、不平不満と愚痴ばかりをこぼし続ける人間として、悲惨な生涯を送っても、何ら不思議はなかったはずです。

しかし、幸いなことに、私は少年期、また青年期の節目節目で、素晴らしい方々に巡り会い、その好意と善意に満ちた助言をいただきました。そして、私自身、その好意と善意に満ちたご支援に応えるべく、懸命に努めてきました。すると、運命が大きく開けていったのです。

そのような方々のどなたかお一人との出会いが欠けても、今日の私はなかったに違いありません。そのことを思いますとき、今改めて私は、心の底から「感謝」の思いが沸き上がってまいります。

人は決して自分一人では生きていけない

思い起こせば、私が人生で、この「感謝」という思いを確かなものとして感じることができるようになったのは、25~6歳のころであったように記憶しています。

悲惨な前半生が続いていましたが、松風工業に入り、研究に打ち込み、その成果をもって、京セラという会社をつくっていただく頃になりますと、自分の人生を振り返って、今あるのも、様々な方々との出会いと助けがあったからだとはじめて思えるようになってきたのです。

そう思えるようになると、今、自分が存在することに対しても、「感謝」をしなければならないと思い始めるようになりました。特に、京セラをつくっていただいた頃には、もう不平不満を鳴らしているような自分ではなくなり、感謝の思いを強く抱くことができるようになりました。

それほど強く感謝の念が湧き起こってくれば、自分の「幸せ」というものも感じ始めるようになりました。出会った人に対して、また社会に対して、感謝すると同時に、「自分は何と幸せ者なのだろう」と思えるようになったのです。すると、さらに自分以外の人たちの幸せをも願うという、他を思いやる気持ちが自然に湧き出てくるようになってきました。

そのせいか、京セラという会社は、20歳代の若い仲間を中心に、私を含めて8人が集まってできた会社で、私自身経営というものも、また社会についても、何一つわかっていないときであったにもかかわらず、創業前にその仲間でつくった誓詞血判状には、「世のため人のために尽くす」という言葉を盛り込んでいるのです。

「自分たちは、会社をつくっていただいた。大変幸せなことだ。そのことへの感謝の思いとして、私たちも世のため人のために尽くしていかなければならない」

という趣旨の文言を記したことを、今でも覚えています。

京セラがスタートすると、そのできたばかりの会社をどのように経営していけばよいのか、私は大変悩みました。8人の仲間が集まり、20人の従業員を採用し、28名で会社を創業したのですが、経営を誤り、会社を潰せば、大変なことになります。

せっかく集った従業員たちを絶対に路頭に迷わせてはならない。そのために、私は「誰にも負けない努力」を払うことを心に誓い、今日まで必死に働いてまいりました。

やがて、会社が順調に発展し、社会で知られるようになり、同時に私の名前も、経営者として少しは世間に知られるようになってまいりました。しかし、私はそのことに慢心しないように、「謙虚にして驕らず」ということを自分自身に厳しく言い聞かせ、常に感謝の思いを忘れず、多くの方との出会いがあり、その助けに支えられ、今日があることを自らに言い聞かせてきました。

このように、「感謝」の心をベースに生きるということは、人生にとって大変大事なことではないかと思います。人は決して自分一人では生きていけません。

家族や職場の仲間、地域社会、さらには空気や水、食料など、人は自分を取り巻くあらゆる存在に支えられて生きています。いや、生きているというよりは「生かされている」のです。


(本記事は致知出版社刊『成功の要諦』より一部を抜粋・編集したものです

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