前野隆司教授に聞く、幸せな人に共通する「4つの因子」

月刊『致知』に掲載され、話題を呼んだ幸福学研究の第一人者・前野隆司(慶應義塾大学大学院教授)さんのお話。「幸せな人」はある共通した〝因子〟を満たしている――「21世紀の幸福学」と呼べる幸せの法則を、教えていただきました。

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戦後50年、幸せになっていない日本人

〈前野〉
日本は小さな島国で、資源もない。だから、科学技術の力で新しい物を創り、工業の力で国を繁栄させなければならない。物が豊かになれば、国も豊かになる――。

子供の頃からそのような話をよく聞かされていた私は、「自分がこの日本を豊かにするんだ!」と理想に燃え、将来はエンジニアとして生きていこうと決めました。

そうして民間企業ではカメラのモーター、大学ではロボットの研究開発に携わりました。自分が開発したモーターが入ったカメラが世界中で愛用されているのを見ると、技術者としてこれ以上嬉しいことはありませんでした。技術者冥利に尽きるというものです。

しかし、ある時、科学技術は本当に人々を幸せにしているのだろうかという疑問が湧いてきたのです。というのは、生活の満足度についてアンケートを取った結果(左図)を見ると、日本の実質GDPは50年で約6倍になっているにも拘らず、生活の満足度は横ばいになっていたからです。

物はどんどん豊かになってきたのに、日本人の生活への満足度、つまり幸せ度は、1950年代と最近とでほとんど変わっていなかったのです。

いくらよいカメラやロボットをつくっても、人々の幸せに貢献していないとしたら、自分はエンジニアとして何をしてきたのか。足元を掬われた思いがしました。

そこで私は、人間の幸せをしっかりと考えた製品やサービスの設計をしていく必要性を痛感し、そのために人間の心、幸せを感じるメカニズムを明らかにする研究に移っていったのです。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で幸福について本格的に研究を始めたのは、2008年、46歳の時でした。

幸せな人に共通する「4つの因子」

まず取り掛かったのは、世界中の幸せに関する研究を調べることでした。

すると、「自己肯定感が高い人は幸せ」「感謝する人は幸せ」など、膨大な研究結果を得ることができました。しかし、「感謝する人は幸せ」の研究であれば、「感謝」という観点でしか幸せを捉えておらず、幸せを総合的に捉えた研究は少なくとも日本では行われていないことに気づいたのです。

一つのテーマを掘り下げていくことはもちろん大切ですが、バラバラに研究したままでは、その成果を社会で生かすことは容易ではありません。それなら、自分が過去の幸せ研究を体系化しようと思い、そのために活用したのが〝因子分析〟という手法でした。

因子分析は、多変量解析(たくさんの量的データの間の関係の解析)の一つで、多くのデータを解析し、その構造を明らかにするための手法です。

そう言うと難しそうに聞こえますが、統計ソフトを用いれば、因子分析は簡単に行えます。具体的には、幸せに関する過去の研究やアンケート結果をコンピュータにかけ、専用ソフトで計算するということを行いました。

学生たちとともに因子分析を行った結果、2012年頃、この要因を満たせば誰もが幸せになれるという因子が得られました。

それは次の四つの因子です。

・第一因子『「やってみよう!」因子』(自己実現と成長の因子)

・第二因子『「ありがとう!」因子』(繋がりと感謝の因子)

・第三因子『「なんとかなる!」因子』(前向きと楽観の因子)

・第四因子『「ありのままに!」因子』(独立と自分らしさの因子)

第一因子の『「やってみよう!」因子』は、人生の大きな目標や日々の目標を持ち、それを実現していくための自分の強みが分かっている、また、強みを生かすために学習・成長しようとしている人は幸せであることを示しています。

第二因子の『「ありがとう!」因子』は、人に感謝して、人のために何かをしたい、誰かを喜ばせたいという気持ちが強く、様々な人と交流を持っている人は幸せであるということです。第一因子が自己実現や成長といった自分に向かう幸せだったのに対して、第二因子は感謝と利他、他人に向かう幸せだといってよいでしょう。

第三因子の『「なんとかなる!」因子』は、幸せには前向きさや楽観性が必要だということを示しています。自己実現や成長、他者との繋がりを育む場合にも、「よし、何とかなる!」と、前向きで楽観的にチャレンジしていけることが必要です。そういう意味では、第三因子は幸せになるためのスパイスのようなものだと言えます。

最後の第四因子『「ありのままに!」因子』は、周りの目を気にせず、自分らしく生きることが幸せに繋がることを示しています。

例えば、第二因子の実現のために周囲の人と仲良くすることはよいのですが、それが人のペースに合わせてばかりになっては幸せになれないでしょう。人と仲良くしつつも、同時に自分らしさも持つことで幸せになれるのです。

徳島の「ホワイト企業」の事例が語る

四つの因子の話をすると、「意外に普通ですね」「当たり前ではないですか」と言う人もいますが、それはそのはず。私はあくまで皆さんが日頃漠然と考えている幸せの要因を、因子分析に基づいて統合しただけだからです。

それに、いかに合理的に飛ぶか、走るかを突き詰めてできた飛行機や新幹線の機体、車体が非常に美しい流線形をしているように、正しいこと、真実というのは、やはりシンプルであり、美しいものだと思うのです。

そして重要なことは、この四つの因子は「たぶんこうだろう」という思いつきではなく、あらゆる幸福に関する研究やアンケート結果をコンピュータにかけ、因子分析によって導き出した統計的な法則、いわば「幸せの法則」と言ってよいものだということです。

実際に、企業などの調査研究でも、社員が四つの因子を満たしている企業は、社員同士のコミュニケーションが活発で、仕事に充実感、やりがいを感じているケースが多いことが分かっています。

例えば、徳島にナットを中心としたファインパーツの製造・販売を行っている西精工という企業があります。西精工に調査研究に入り、「月曜日に会社に行きたいですか」というアンケートを取ったところ、実に九割の社員が「会社に行きたくてたまらない」「仲間に早く会いたい」と回答しました。

普通の企業では考えられない回答結果になった秘密は、独自の朝礼にありました。

西精工では、毎朝の朝礼に一時間近い時間をかけ、社員同士が数人のチームになって会社のビジョンを語り合い、自分たちの製品は社会や人々の役に立っている、だから皆で協力し合い、それぞれの個性を発揮して、よい製品をつくろうという思いを再確認してから一日の仕事を始めているのです。結果的にその取り組みが、社員たちが四つの因子を満たすことに繋がっていたのです。


(本記事は月刊『致知』2018年10月号 特集「人生の法則」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇前野隆司(まえの・たかし)
昭和37年山口県生まれ。東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授。『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)『幸福学×経営学』(中外出版社)など著書多数。

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