2018年09月10日
日本人は戦後50年で幸せになっていない?
物質的に豊かになれば皆幸せになれる、との志を抱き、エンジニア・科学者として民間企業や大学院で、カメラ、ロボットなどの研究・製作に取り組んでいた前野隆司さん。
しかし、日本人の生活満足度に関するアンケート結果に愕然させられます。戦後50年の高度経済成長の中で、GDPは約6倍になっていたにも拘わらず、生活の満足度、つまり幸せ度は横ばいで、全く変わっていなかったのです。
そして、自分は人々の生活が豊かになるよう頑張ってきたのに、なぜ幸福度は上がっていないのか、人間の幸せとは何だろうかという疑問を抱き、前野さんは2008年46歳の時に、本格的に「幸福学」の研究に取り組むようになったのでした。
「ある時、科学技術は本当に人々を幸せにしているのだろうかという疑問が湧いてきたのです。というのは、生活の満足度についてアンケートを取った結果を見ると、日本の実質GDPは50年で約6倍になっているにも拘らず、生活の満足度は横ばいになっていたからです。物はどんどん豊かになってきたのに、日本人の生活への満足度、つまり幸せ度は、1950年代と最近とでほとんど変わっていなかったのです。
いくらよいカメラやロボットをつくっても、人々の幸せに貢献していないとしたら、自分はエンジニアとして何をしてきたのか。足元を掬われた思いがしました。
そこで私は、人間の幸せをしっかりと考えた製品やサービスの設計をしていく必要性を痛感し、そのために人間の心、幸せを感じるメカニズムを明らかにする研究に移っていったのです」
幸せな人に共通する「4つの因子」
前野さんはエンジニア出身ということもあり、「幸せ」に関して哲学者や心理学者とは違ったアプローチを試みます。世界中の幸せに関する膨大な研究やデータ等を調べ、それらを「因子分析」という手法で統計的に体系化したのです。
そうして導き出されたのが、この要素を満たせば誰もが幸せになれるという「幸せの4つの因子」でした。
「学生たちとともに因子分析を行った結果、2012年頃、この要因を満たせば誰もが幸せになれるという因子が得られました。
それは次の4つの因子です。
・第一因子『「やってみよう!」因子』(自己実現と成長の因子)
・第二因子『「ありがとう!」因子』(繋がりと感謝の因子)
・第三因子『「なんとかなる!」因子』(前向きと楽観の因子)
・第四因子『「ありのままに!」因子』(独立と自分らしさの因子)」
前野さんは統計的に厳密に導き出した上記の「4つの因子」を満たせば本当に幸せになれるのか、様々な企業や組織に入って研究を続けるのですが、徳島の西精工など、業績や社員が生き生きと働いている企業・組織は、確かに「4つの因子」を満たしていることが分かったのです。
いま企業など様々な分野で不正やパワハラなど、多くの問題が起こっていますが、それも前野先生が導き出した「4つの因子」を満たすような経営や組織運営をしていけば、解決することができるはずです。そうすれば、皆が本当の意味で幸せに働き、生き、社会を豊かにしてけるでしょう。
【21世紀の幸福学が教える「幸せの法則」の読みどころ】
・物は豊かになったのに、日本人は幸せになっていまい
・因子分析で明らかになった幸せになる四つの因子
・幸せの4つの因子を満たす会社経営や製品づくり
・人の幸福度は簡単に高めることができる
(※本記事は『致知』2018年10月号「人生の法則」に掲載された記事の一部を抜粋・編集したものです。各界のリーダーたちもご愛読、人生や経営のヒントが満載、人間力を高める月刊『致知』の詳細・ご購読はこちらから)
◇前野隆司(まえの・たかし)
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昭和37年山口県生まれ。東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授。『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)『幸福学×経営学』(中外出版社)など著書多数。