2022年12月20日
社員の働きがいや幸せを実現する経営を徹底して追求し、2017年に「ホワイト企業大賞」を受賞するなど、全国から注目を浴びている西精工(徳島県)。
家業に入社して以来、改革に取り組んできた西泰宏社長は、いかにして全社員が生き生きと主体的に働く社風を創り上げてきたのでしょうか。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
率先垂範で改革に邁進
――(入社後)社風を変えるためにどのようなことに取り組まれましたか。
〈西〉
改革へのスイッチが完全にオンになったのは、現場のラジオ体操の現状を知った時でした。当時のラジオ体操は自由参加で、管理職以外の社員は半分くらいしか参加していませんでした。
そしてある日、営業部長がラジオ体操をしている前を、ポケットに手を突っ込んだ新入社員が通り過ぎましてね。営業部長が「おはよう」と声を掛けたら、彼はポケットに手を突っ込んだまま、「おー」みたいないい加減な返事をしたんです。
その光景を見た私は、「このままではいずれ会社は潰れる、だめになる」と非常に危機感を覚え、まずは挨拶運動や「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)運動」に取り組み始めたんです。
毎朝6時頃には出社して掃除をし、皆が出てくる時間帯になると、タイムカードを押す場所に立って、一人ひとりの社員に「おはようございます!」と挨拶していきました。
――まさに率先垂範ですね。
〈西〉
それから、ただ「挨拶しろ」「掃除しろ」と言うだけではだめだ、自分の仕事に誇りを持って働いてもらうためにはどうしたらよいだろうかと考え、自社製品がどれだけ世の中の役に立っているかを学ぶ勉強会も始めました。
例えば、「この製品は、あの大手メーカーの高級車に使われているんだよ。床に製品を放っている場合じゃないよね」という具合です。こうした勉強会は「企業内大学」としていまも続けられています。
あとは、人事評価や給与体系の見直しですね。当時は社員の人事評価の基準が曖昧で、どんなに頑張っても一定の水準までしか給与が上がらなかったり、どんなに優秀でも若いうちは給与が低いままでした。
それを「営業ならここまでの見積もりができる」「現場ならこの機械が一人で動かせる」というような客観的な評価項目をつくって、社員一人ひとりの頑張りやスキルが公平に給与に反映されるように変えていきました。
やっぱり、自分の成果やスキルが正当に評価されないようでは、働きがいに繋がらないと思ったんです。
社員の幸せを実現するのが経営
――改革は順調に進みましたか。
〈西〉
少しずつよくなってはいましたが、思い描いているようにはいきませんでした。いままで赤字が一度たりともなく、業績も順調なのに会社を変える必要があるのかと、社長である父もあまり理解してくれず、しょっちゅう言い合いをしていました。
一人で奮闘しているという感じでしんどかったですね。妻が言うには、この頃の私は毎夜うなされていたそうです(笑)。
――辛い状況でしたね。その壁はどう乗り越えていかれましたか。
〈西〉
大きな転機になったのは、40歳になった頃、友人の誘いで京セラ創業者・稲盛和夫さんの「盛和塾」で学ぶようになったことでした。
「盛和塾」に入る前に稲盛さんの『生き方』という本を読んだのですが、もう雷に打たれたような衝撃を受けました。『生き方』には、どうすれば儲けることができるかということではなくて、利他の心の大切さや人間としていかに生きるべきかが説かれていて、それまで抱いていた経営者に対するイメージを覆されたんですね。
――経営者として本当に大事なことは何かを教えられた。
〈西〉
そして、ある経営者の方が「盛和塾」の勉強会で自社の経営理念を発表した時に、稲盛さんは次のようにおっしゃったんですよ。
「あなたのつくった経営理念には、従業員のことが何も書いていないじゃないか。従業員を幸せにするためにあるのが経営理念なんだ」
私はその稲盛さんの言葉を聞いて、ああ、自分は間違っていたと気づきました。不平不満は社長である父に全部ぶつけ、社員には彼らの幸せを考えることなく、「ああしろ」「こうしろ」と自分の考えを上から押しつけてばかりいたと。
それに何より、当社には何のために会社が存在し、何のために働くのかを示した一番大切な「理念」がなかったんです。もちろん「社是社訓」はあったのですが、そこには「より早く、より安く製品をつくろう」といったことしか書かれていませんでした。「何のために」が欠けていれば、社員がやらされ感で働くのは当然ですよ。
――会社としての最も重要な理念が欠けていたと。
〈西〉
そのことに気づいてから、いろんな資料を読み漁り、一年かけて「経営理念」を制定し、2006年に全社員の前で経営理念発表会を行いました。理念を発表した後には、社員の幸せが自分の幸せだという私の思いを皆に伝えました。
不思議なことに、社員の幸せを実現することが経営だと思えるようになると、気持ちがすごく楽になったんです。もちろん目の前の課題に対する悩みはありましたが、以前のようなしんどさ、感性的な悩みは消えていきました。
――理念の制定で西さん自身の心の持ち方も変わったのですね。
〈西〉
その頃からです、社内の雰囲気が変わってきたなと実感するようになったのは。そして経営理念を定めた2年後、2008年に社長を引き継いだんです。
ただ、しばらくすると、経営理念を実現するためには具体的なビジョンが必要だと考えるようになって、2009年に「経営ビジョン」を定めました。さらに、2010年には父の協力のもと「創業の精神」をつくり上げました。
――「創業の精神」とはどのようなものなのですか。
〈西〉
父と2泊3日の合宿をし、祖父の働き方、当時のお客様や協力会社、地域にどんなことをしてきたかを思い出してもらい、会社として絶対に変えてはならないもの、捨ててはならないものを明確にしていったんです。「創業の精神」を守っていけば、当社はこれからも潰れることなく永続していけるはずだという思いがありました。
「創業の精神」が完成した時、父が「おまえ、お爺さんみたいだな」って言ってくれ、本当に心が震えるくらい嬉しかったですね。創業者である祖父と私の精神が繋がったような気がしました。
(本記事は月刊『致知』2020年1月号 特集「自律自助」から一部抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
〔ご案内〕
現在「社内木鶏会」は全国1,280の企業、学校で導入されています。
トップの思いが伝わりやすくなった、社員が育ち、雰囲気がよくなった、などのお声が届いています。
「社内木鶏会」を詳しく知るガイドブック(無料)はこちらからお取り寄せいただけます。
◇西 泰宏(にし・やすひろ)
昭和38年徳島県生まれ。63年神奈川大学を卒業。広告代理店の営業職を経て、平成10年西精工に入社。18年同社代表取締役専務、20年より現職。