2018年07月10日
佐賀藩士・山本常朝の談話を書き記した、武士の修養書『葉隠』。300年以上前の江戸中期に成立した『葉隠』ですが、その教えは武士の心得のみならず、人生論から仕事論、恋愛論まで多岐にわたっています。同書を座右の書としてきたコンサルタントの本田有明さんに、その魅力と活かし方を語っていただきました。
300年前に書かれた自己啓発書
「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」の一文で広く知られる『葉隠』は、佐賀藩の武士・山本常朝の談話を後輩にあたる田代陣基がまとめた口述書です。
戦後を代表する文学者である三島由紀夫が「(『葉隠』は)自分のただ一冊の書」というほど心酔したことでも有名です。
『葉隠』は武士としてのあり方や心構えを説いた書物であると一般的に思われていますが、実際は『葉隠』には人生論や仕事論、リーダーシップ、上司と部下との関係、組織の中でうまく生きる秘訣など、現代を生きる私たちが読んでも非常に学ぶことの多い、珠玉の教えに溢れているのです。
本田さん自身も、『葉隠』の教えを次のように日常生活や仕事に生かしてきたといいます。
最も心の支えになった教えを一つ挙げるとすれば、やはり日常の意思決定の心得を説いた「七息思案」でしょう。これは、心が定まらずおろおろしていてはよい思案はできない、だから、物事の決断は七回呼吸するうちに決断しなさいというシンプルな教えです。
試しに、大きく7つ深呼吸しながら、考えに集中してみてください。時間にすると一分弱。凛とした爽やかな気分になって、大抵のことには判断がつくはずです。
また、「奉公人は四通りあるものなり、急だらり、だらり急、急々、だらりだらり」という教えも、部長職などをやっている時に大いに役立ちました。
要するに、奉公人には「急だらり」(命令した時の返事は早いが仕事がのろい者)、「だらり急」(命令に対して理解力は遅いが素早く処理する者)、「急々」(飲み込みも仕事ぶりも素早い者)、「だらりだらり」(どちらも時間が掛かる者)の四種類ある。世の中に「急々」は少なく、佐賀藩にも一人いるかいないかだ。ほとんどの人は「急だらり」と「だらりだらり」である、というのです。
この教えを知ったことで、部下を持った時に、「最初から優秀な人材などいない。『急だらり』をいかに『急々』に育てるかは自分次第なんだ」と、気持ちがリラックスし、優しい眼差しで部下に接することができるようになりました。
本田さんは、『葉隠』は300年前に書かれた「自己啓発書」「人事教育の教科書」であり、情報技術の発達などで人と人との信頼関係、コミュニケーションが薄れている現代だからこそ、私たちはその教えに真摯に耳を傾けることが大切だといいます。
そのような『葉隠』を紐解くことで、必ず生きる指針、仕事のヒントが見つかるはずです。
(本記事は『致知』最新号2018年8月号掲載の「【不朽の名著】『葉隠』に学ぶ変革の要諦」より一部抜粋したものです。全文は本誌をご覧ください。詳細・ご購読はこちらから)
★「【不朽の名著】『葉隠』に学ぶ変革の要諦」の読みどころ★
・理想とするのは「自責」タイプのリーダー
・出世は早いより遅いほうがよい
・変革は15年先を見据えて行うべし
◇本田有明(ほんだ・ありあけ)
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昭和27年兵庫県生まれ。慶應義塾大学哲学科卒業後、社団法人日本能率協会に勤務。経営事業本部、情報開発本部などに所属し、部長職を務める。平成8年44歳で人材育成コンサルタントとして独立。主に経営教育、能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事。『ヘタな人生論より葉隠』(河出書房新社)『人材育成の鉄則』(経団連出版)など著書多数。