安岡正篤師がある企業幹部に行った幻の講義

安岡正篤師が、ある企業の幹部社員向けに5回連続で行わった名講義があります。テキストは、秦の始皇帝以前のあらゆる思想を集大成した『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』。今回ご紹介する『経世の書「呂氏春秋」を読む』は東洋思想の研究に尽力し、政界・財界・皇室に絶大な影響力を持っていた安岡師の講義のエッセンスをまとめた一冊。現代人に必要な名言のみを厳選し解説しています。全5講には、人間学の原理から経世の要諦までが幅広く記されています。世の混迷がますます深まる昨今こそ、学びたい『呂氏春秋』から一部をご紹介いたします。

天の道、地の理、人の紀

「天の道を変ずることなく。地の理を絶つことなく。人の紀を乱すこと無かれ」
天道・地理・人紀、これは人間生活、人間文化の三原則であります。

天にも道がある。天をして天たらしめるものがある。これがなければ天が天でなくなる。これあるによって天が存在し、存続しておる。天にはそういう本質的なものがある。それが道である。この天道を変えてはいかぬ。変えると人が滅びる、破綻する。と同じように、地には地の筋道がある。これを理と言う。

理は玉にあるところの筋でありまして、これあるによって地が成り立っておる、これがなければ地は存在しない、というものを人間の知で考察して理と言う。これを結んで道理と言う。天道が現われて地理となっておる。

また人間にも、これが無くんば人間が存在し、生活することができないという筋道がある。

これが道理に対する人紀であります。紀は法、法則という意味です。だから、この三原則を失えば人間生活・人間文化は成り立たないわけで、この頃の科学はこれを解明しておると申してよろしい。これもしばしばお話いたしましたが、文明が発達して世界は一つになり、地理の差別がなくなった。熱帯も寒帯も温帯もなくなってしまった。そのために、われわれは坐して西洋のものも東洋のものも、熱帯のものも寒帯のものも、玩味することができる。

しかし、それだからと言って、われわれがほしいままに他国・他帯のものを食っておったらどうなるか。これは、とんでもない人間生理の破壊になる、ということがだんだん判明した。

やはり熱帯には熱帯の特徴があり、寒帯には寒帯の特徴があるわけで、人間はなるべく生を享けたところの、大きくなってからでもいつも住みなれた地域の、季節の物をその季節に飲み食いするのが一番真実である、ということがはっきりしてきた。

これが、いわゆる天道です。

あまり珍しいところのものを、季節を無視して摂取するとどうなるか。考えてみると恐ろしいことであります。

(本記事は弊社刊『安岡正篤活学選集<全10巻>』から一部抜粋・編集したものです。本書は、若い世代にもこれだけは読んでいただきたい安岡教学の代表的良書を10巻選び選集として発刊したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載! 詳しくはこちら

◇安岡正篤(やすおか・まさひろ)
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明治31年大阪市生まれ。大正11年東京帝国大学法学部政治学科卒業。昭和2年?金?学院、6年日本農士学校を設立、東洋思想の研究と後進の育成に努める。戦後、24年師友会を設立、政財界のリーダーの啓発・教化に努め、その精神的支柱となる。その教えは人物学を中心として、今日なお日本の進むべき方向を示している。58年12月死去。

 

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