社員のやりがいを育む「3つの要素」 道頓堀ホテル再建の立役者・橋本明元専務に聞く

外国人旅行客に日本を好きになってもらいたい――。その思いのもと、日本の文化・おもてなしを体験できるサービスを提供し、人気を集めている道頓堀ホテル。かつて経営不振に陥っていた同ホテルを甦らせ、さらなる発展を築いた橋本明元氏に、改革の挑戦の中で掴んだ経営のヒントを語っていただきました。

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大事なのは社風

〈橋本〉
海外のお客様に特化するという方向を打ち立て、国際電話無料や外貨両替手数料無料のサービスを展開しようとしたんですが、その時社内から反対が挙がったんです。「専務、そんなのどこもやってませんよ」って。

要するに、経営者の発想からすれば、業界の常識を覆して新しいことをやっていくのは当たり前なんですが、社員さんはそれを押しつけられていると感じたり、変化を嫌ったりして反発する。

そう気づいた時に、私は「ああ、大事なのは社風や」と。社員さんがこの会社で働けて、この仲間と働けて幸せだと感じる。あるいは自分の会社、仕事が社会の役に立っていると誇りを持つ。そういう幸せと誇り、やりがいの溢れる会社にしたいと思ったんです。

社員のやりがいを育む3つのこと

――社員が幸せと誇り、やりがいを感じる会社づくりに向け、どんなことに着手されましたか。

そのためには大きく3つのことが大事ではないかなと思いましてね。1つは自分たちの意見を聞いてくれる土壌があるかどうか。

当時、ある女性社員から「女性化粧室に姿見を置いてほしい」と言われたんですよ。男性の私からすると、そんなの要るのかなと思ったんですけど、買ったんです。そうしたら、その鏡を誰に言われることもなく綺麗に拭くようになったんですよ。

で、同僚や後輩に「これ私の意見やで」と言っているのを聞いて、社員さんは自分の意見を聞いてほしい、会社に貢献したいと思っているんだなと。

それで、改善提案制度を導入し、目安箱に自由に意見を書いて放り込めるようにしました。一切強制はしないのに、もう改善提案の嵐ですね(笑)。最近は、改善提案したことに対して後でいちいち上役の許可を取るのもどうかなと思って、1回あたり20万円以内であれば自由に使っていいことにしています。

――社員に決裁権を与えていると。

いわゆる経営者ですよね。自分で責任を持ってお金を使うことによって経営感覚が身につくし、会社への愛着も湧くと思います。
 

2つ目が、会社や経営者が自分のことを大事にしてくれているという実感があるかどうか。

例えば福利厚生の面では、病院代は全額無料ですし、本人だけではなく、家族にも適用しています。入院しても手術しても、会社がすべて負担すると。
 
それ以外には、社員さんの誕生日はもちろん、その配偶者の方の誕生日にもプレゼントを贈っています。そこに手紙も添えて、旦那さんや奥さんの会社での活躍ぶりを綴り、それはご家族の支えのおかげですよ、と心からの感謝を伝える。そうすると、しんどい時があってもご家族が味方になってくれて、踏ん張れると思うんです。

――社員のみならず、その家族も大事にされているのですね。

そして3つ目が、使命感。自分の仕事が社会の役に立っているという実感があるかどうか。

弊社の使命は「世界中の人に日本の文化・おもてなしを体験・体感していただき、心に残る思い出づくりのお手伝いをしていきます。そして一人でも多くの方が日本を好きになっていただけるよう努力いたします」というものです。

なぜこれを使命に掲げたかというと、1つは先ほどもお話ししたように、祖父の故郷を見たこと。あの時、中国人の血が入っていることに初めて誇りを感じ、自分の使命は世界と日本の懸け橋になることだと気づいたんです。

もう1つのきっかけは東日本大震災です。あの時に海外のメディアが避難所で暮らす日本人の姿を称賛している映像を見たんですね。海外であれば支援物資が届くと取り合ったり、暴動が起きたりする。

でも、日本人は1時間も2時間も耐え忍んで列に並んだ。日本人が本来持っている心は美しいなと。そして、この心を世界の人たちに伝えたいと思ったんです。

実際、社員さんはみんな「日本を好きになってもらうんや」ってイキイキしながら、イベントの企画から運営まで全部やっています。

社会の役に立つというと、ついボランティアとか寄付とかに行きがちですよね。確かにそれは大事なことで、私たちも毎日ホテル周辺の清掃活動を自主的にやっています。

でも、それ以上に大事なのは、普段の仕事そのものが社会の役に立っているという実感を持つことじゃないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』2016年8月号 特集「思いを伝承する」から一部抜粋・編集したものです)

◉「働き方改革」が叫ばれて久しいいま、日本の世界競争力は31位にまで落ち込み、熱意を持って意欲的に働く日本人は僅か5%であるといいます。
 働き方改革から「働きがい改革」へ――。
 『致知』2022年7月号では、「日本の働き方はこれでいいのか」をテーマに、一橋大学ビジネススクール客員教授・名和高司さん、京セラ稲盛和夫さんの側近を長く務めた大田嘉仁さんに対談いただきました。

◇橋本明元(はしもと・みんげん)
昭和50年大阪府生まれ。平成10年同志社大学卒業後、川村義肢を経て、13年㈱王宮入社。14年上海大学国際交流学院に留学。その後、シャングリ・ラ ホテル青島などで営業職として勤務し、19年帰国、㈱王宮常務取締役。24年より現職。

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