荒くれ者を一瞬で改心させた二宮尊徳の教え

 

江戸幕末の時代に一発の銃弾も撃たず、一滴の血も流さず、600以上の村々を甦らせた偉人・二宮尊徳。その言行を高弟・富田高慶が書き残したのが『報徳記』です。中でも印象的な川崎屋孫右衛門の話には、尊徳の説く「至誠」とはいかなるものかがよく表れています。
『超訳 報徳記』(致知出版社)の著者・木村壮次さんに語っていただきました。

禍が起こるのは必ず何か原因がある

天保4(1833)年に始まった大飢饉(ききん)では、各地で飢えに苦しむ者が続出し、現在の神奈川県大磯でも多くの人たちが苦境に陥りました。彼らの一部は暴徒と化すと、米屋を営んでいた孫右衛門の蔵も破壊されてしまいます。

この乱暴狼藉に怒り狂った孫右衛門はすぐに役所に訴え出ました。ところがあべこべに彼のほうが牢獄に放り込まれてしまいます。というのも、孫右衛門は大変なケチで、以前も大飢饉があった折に、米を高く売って大儲けをしていたからでした。

牢屋で怒り狂う孫右衛門にさらなる不幸が襲います。火事で家が焼け、彼の妻は幼子を残して病で亡くなるのです。

孫右衛門の怒りは増すばかり。そんな孫右衛門を案じたのが、彼の妹でした。そこで、その妹を妻に持つ加藤宗兵衛は、以前縁のあった尊徳を訪れ、孫右衛門一家を救う手立てはないかと相談を持ち掛けたのです。

ところが尊徳は、

「そういう結果になるのは因果応報(いんがおうほう)のためで、禍が起こるのは何か原因があるからです。孫右衛門さんは天明の飢饉の折、米を高く売って大儲けをし、人々の憤(いきどお)りをかったことが原因ではないでしょうか。
 にもかかわらず、孫右衛門さんは自らを省みることなく、他人を憎むこと甚だしい。お気の毒ですが、どうすることもできません」

と、取りつく島もありません。

瞬く間に一変した孫右衛門の評価

それでも宗兵衛がすがりつくように頼み込むと、尊徳は一つだけ方法があると答えました。

それは孫右衛門の妹が牢獄にいる兄と同じように粗衣粗食(そいそしょく)で辛抱することと、持ち物すべてを売り払って生家再興を心掛けること、の二つでした。それができれば妹の至誠も通じ、兄の心を動かせるだろうと言うのです。

兄のことを思って労苦を厭(いと)わない妹の真心にほだされたのでしょう。改心が見られたことから出獄を許された孫右衛門でしたが、家の再興がままならない状況に鬱々としたものを拭えません。そんな孫右衛門に対して、尊徳の助言は至って明快でした。

「家を興そうとの心掛けはいいが、一番大事なことを忘れている。それは自分を艱難に置いて、他人の困苦を救おうとすることだ。そのためには、どうぞ貧困救済にお役立てくださいと言って、余財すべてを町の人に差し出しなさい」

するとどうでしょう。これを実践した孫右衛門の評判は瞬く間に一変し、彼の商売は再び盛んになっていったのでした。

尊徳は過去を明らかにすることで将来を察し、禍を転じて福とすることで数多くの復興事業を成功へと導いてきました。そしてその根幹には、孫右衛門の話の如く、悉く至誠を以てあたるべきことを旨としていたのです。


(本記事は『致知』2018年1月号 特集「仕事と人生」より記事の一部を抜粋・再編集したものです)

◇木村壮次(きむら・そうじ)
1944年東京都生まれ。東京都立大学卒業後、経済企画庁(現・内閣府)に入庁。退職後は東洋学園大学現代経営学部教授を務める。著書に『超訳 報徳記』(致知出版社)がある。

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