稲盛和夫が即答した「人生で一番大事なもの」

 稲盛和夫氏。たぐいまれな経営手腕と哲学を通じ、産業界のみならず広く市井の人にまで感化を与えた日本を代表する経営者がお亡くなりになりました。
 稲盛氏は京セラやKDDIを創業し、それぞれ1.5兆円、4.9兆円を超える大企業に育成。倒産したJALの会長に就任すると、僅か2年8か月で再上場へと導きました。
 功績はそれだけに留まりません。中小企業経営者の勉強会「盛和塾」の塾長を務めた他、日本発の国際賞「京都賞」を創設し、人類社会に多大な貢献をもたらした人物の顕彰にも尽力されました。
 その多岐にわたる活動に通底しているもの。それは「利他の心」でした。〝新・経営の神様〟の呼び声高い氏が月刊『致知』の独占取材で明かした「人生で一番大切なもの」とは――。
〈写真=菅野勝男〉

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「新・経営の神様」からいま私たちが学ぶべきこと

2017年11月27日、京都市内にある稲盛財団の一室で待機していると、約束の時間より10分早く稲盛和夫さんは姿を現しました。

与えられた取材時間は1時間。ご体調があまり芳しくないとの理由で広報の方から事前にそう伝えられていました。

ところが、どうでしょう。本誌編集長(当時:藤尾秀昭)が質問を発するごとに、どんどん稲盛さんの表情がほぐれ、生気が漲り、時には満面の笑みを、時には真剣に質問の答えを考えられる仕草を見せられ、実際には1時間15分に及ぶ白熱の取材となったのです。

広報の方が「取材でこんなに笑顔の稲盛を見たのは久しぶりです」と驚嘆するほどでした。

そこで語られた内容は、京都賞を創設した理由、京都賞受賞者の共通点に始まり、松風工業での修業時代の日々、そこでの転機と心掛け、京セラ創業のドラマ、経営理念に込めた思い、さらには、働くことの大切さ、盛和塾で訴えかけていること、KDDI創業のいきさつと成功秘話、JALを奇跡の再生に導いた鍵など、稲盛さんの生き方、働き方、考え方のエッセンスをまさに凝縮したもの。

「新・経営の神様」の異名を取る稲盛さんから、いま私たちが学ぶべきこととは何でしょうか。

仕事の不平不満を消し去る唯一の方法

稲盛さんは京セラの創業者であり、経営破綻に陥った日本航空を僅か2年8か月で再上場に導いた名経営者です。

その稲盛さんが新卒で入社した会社はスト続きで給料は遅配。嫌気がさした稲盛さんは自衛隊に転職しようとしますが、実兄の反対を受け、そのまま会社に止まりました。鬱々とした日が続きました。会社から寮への帰り道、「故郷」を歌うと思わず涙がこぼれたといいます。

こぼれた涙を拭って、こんな生活をしていても仕方がない、と稲盛さんは思い直します。自分は素晴らしい会社に勤めているのだ、素晴らしい仕事をしているのだ、と思うことにしたのです。無理矢理そう思い込み、仕事に励みました。

すると不思議なもので、あれほど嫌だった会社が好きになり、仕事が面白くなってくるではありませんか。通勤の時間が惜しくなり、布団や鍋釜を工場に持ち込み、寝泊まりして仕事に打ち込むようになります。仕事が楽しくてならなくなったのです。そのうちに一つの部署のリーダーを任され、赤字続きの会社で唯一黒字を出す部門にまで成長させました。

新卒社員の3割が3年以内に離職すると言われて久しいのですが、稲盛さんは当時のご自身の体験を踏まえて、こう言います。

「いまの若い人たちの中に、自分が望んでいる道を選ぶことができなかった人がいたとしても、いまある目の前の仕事に脇目も振らず、全身全霊を懸けることによって、必ずや新しい世界が展開していくことを理解してほしいですね。
 ですから、不平不満を漏らさず、いま自分がやらなければならない仕事に一所懸命打ち込んでいただきたい。それが人生を輝かしいものにしていく唯一の方法と言っても過言ではありません」

これこそまさに稲盛流成功哲学の要諦と言えるでしょう。

人生で一番大事なものは何か

稲盛さんが最後に語られた言葉もまた忘れられません。

取材の締め括りに、「今日まで86年間歩んでこられて、人生で一番大事なものは何だと感じられていますか?」と質問をしたところ、稲盛さんは間を置かず即座に、なおかつ熱を込めて、要旨次のように答えられました。

「やっぱり人生で一番大事なものというのは、1つは、どんな環境にあろうとも真面目に一所懸命生きること。それともう1つは、人間は常に〝自分がよくなりたい〟という思いを本能として持っていますけれども、やはり利他の心、皆を幸せにしてあげたいということを強く自分に意識して、それを心の中に描いて生きていくことです」

私たちもこの2つの条件を満たすべく、自己研鑽に努めていきたいものです。


(本記事は月刊『致知』2018年5月号 特集「利他に生きる」より一部を抜粋・編集したものです

◆本インタビューを『致知』2022年12月号にて再録しました。
電子版での閲覧は下の記事見本をクリック!

◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書は人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』『致知新書 何のために生きるのか『稲盛和夫一日一言』(いずれも致知出版社)など多数。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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