金子みすゞ「こだまでしょうか」が持つ言葉の力

10代半ばから詩をつくりはじめ、童謡雑誌に作品が掲載されるようになるも、26歳で自ら命を絶った童謡詩人・金子みすゞ。代表作の「私と小鳥と鈴と」「大漁」など遺された500篇余りの作品は、いまなお多くの人たちに愛されています。その金子みすゞの代表作“こだまでしょうか”を、児童文学作家の矢崎節夫さんに紐解いていただきました。

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いいえ、誰でも。

 「遊ぼう」っていうと

 「遊ぼう」っていう。

 「馬鹿」っていうと

 「馬鹿」っていう。

 「もう遊ばない」っていうと

 「もう遊ばない」っていう。

  そして、あとで

  さみしくなって、

 「ごめんね」っていうと

 「ごめんね」っていう。

  こだまでしょうか、

  いいえ、誰でも。

 * * * * *

512篇ある金子みすゞの詩を俯瞰(ふかん)した時、全篇を優しく包み込むような作品がこの『こだまでしょうか』ですと、私はずっと言い続けてきました。

それだけに今回の東日本大震災を受けて、CMでこの詩が流れたと聞いた時は本当に驚きました。

この詩で私が注目したいのは、「こだまでしょうか」という呼び掛けに「いいえ、誰でも」と答えている末尾の一文です。

よいことも悪いことも、投げ掛けられた言葉や思いに反応するのは「こだま」だけではなく、万人の心がそうだとみすゞは言っているのです。

この詩を耳にした日本人は、被災された多くの方々が味わった悲しみや辛い思いに対して、こだまする自分でいられるかどうかと考えたのではないでしょうか。

一人ひとりがこの震災がもたらした被害を、自分のこととして感じる一つのきっかけを与えたのが『こだまでしょうか』の詩だと思います。

こだまというのは、山から投げ掛けた言葉がそのまま返ってくるわけですから、

大自然の懐に包まれたような安心感を生み出し、私たちの心を優しくしてくれるのです。

この詩に触れ、心の内で何度もこだましているうちに、どこか優しくなれた自分を見つけることができたのでしょう。

募金活動がこれほどの大きなうねりとなり、また多くの日本人がボランティアとして被災地へと向かう後押しをしてくれたのが、「こだまでしょうか」という言葉だったのだと思います。

言葉にはこれほどの力があるということを、私は改めて教えられた気がしました。


(本記事は『致知』2011年7月号 特集「試練を越える」より記事の一部を抜粋・編集したものです)

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◇矢崎節夫(やざき・せつお)
昭和22年生まれ。児童文学作家、童謡詩人。金子みすゞ記念館館長。詩誌「ピアノとペン」に童謡を発表する。昭和57年「ほしとそらのしたで」で赤い鳥文学賞。大正末の童謡詩人金子みすゞの全作品512編を探し当て「金子みすゞ全集」にまとめて紹介し、59年日本児童文学学会特別賞。

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