父親は家庭でどうあるべきか——伝説の教育者・森信三が説く父親像

日々、仕事が忙しい中で家庭で子供にどう接し、どう自分の思いを伝えたらよいのか、悩んでいるお父さんは多いことでしょう。父親はどうあるべきか――不世出の哲学、教育者と呼ばれた森信三先生は、その明確な指針を示してくれています。

★「森信三先生と『致知』」について知りたい方はこちら

父親は肚を括れ

(藤本) 

豊かな自然に囲まれた阿蘇外輪山の裾野、熊本県阿蘇郡西原村に、私が社会福祉法人「救護施設真和館」を設立したのは平成18年、62歳の時でした。もともとは熊本県庁で福祉行政や商工行政などに携わっていたのですが、定年後には、その経験を生かして現場と経営のバランスが取れた福祉施設がつくりたいという思いがあったのです。

(寺田)

いつの頃からか、父親の権威が失墜したといわれるようになりました。

ただでさえ男性は、仕事のため家族と接する時間も限られており、子供にとってあまり理解され難い存在です。家庭でどう振る舞うか、子供とどう接すべきか、というのは多くの男性が共通して抱える悩みといえましょう。

森先生は、

「父親は息子に対して、一生のうちに3度叱るか、それとも一度も叱らないか、どちらかに肚を括らなければならない」

と説かれています。

森先生は、我が子の人間教育、とりわけ基本としての躾の責任は、その9割までは日常の大半をともに過ごす母親にあり、父親の役割は、自分の人生観に基づいて人間としての生き方の方向を示すこと、言い換えれば子供に生き方の種まきをするところにあると説かれています。

そのためにはまず、我が子の一挙一動について一切小言を言わないというのが父親の根本態度であること。そこにかえって父親の威厳というのがあるとの教えです。

さらに森先生は、このことはとりわけ年頃の息子に対して心掛けなければならない、と注意を促されます。

娘の場合は異性ということもあり、父親のことが息子から見るよりはよく理解できるようですが、年頃の息子というものは、いわゆる同性の反発で、父親と向き合って座ることさえ呼吸が詰まるように思うものです。にもかかわらず、事細かにいちいち叱りつけることは、息子にとっては我慢のできない事柄なのです。

たとえよくない点があったにしても、よほどのことでない限り、心中深く納めて、それに対してあれこれ言わないこと、絶対に叱らぬという決心、つまり怒らぬ覚悟が大事であり、そこに父親としての人間修業があるのです。

その一方で、これだけは絶対許せないという問題、放っておいたら我が子の一生に関わる問題だと察知した事柄に関しては、断乎として叱るべきが、これまた父親のあるべき態度です。

しかしそういう大事な注意は子供の一生に3度を超えてはならない。かくあってこそ、当の子供の生活においても長く忘れ得ない刻印としてその心に刻まれ、生き方の上に一大光明となると説かれているのです。

この教えに私はどれほど勇気づけられ、助けられたことでしょう。4人の息子と1人の娘を持つ私が、つい小言を言いそうになる気持ちを抑えてグッと言葉を呑み込めたこと、彼らが道を踏み外しそうになった時に断乎として引き戻すことができたのは、心の中にいつも森先生の教えがあったからです。

おかげさまで子供たちはいずれも立派に独立を果たしてくれ、いまは10人の孫と3人のひ孫に恵まれるまでになりました。長男は現在58歳で、大学医学部の教授を務めています。先日、私たち両親を旅行に招待してくれ、一緒に入った旅館の風呂で背中を流してくれたのには感激しました。

父親は確かに理解されにくい存在ですが、男としてやるべきことをしっかりとやっていれば、その後ろ姿を通じて自ずと父親に畏敬の念を抱くようになるものです。真の権威というものは、権力を行使することによって生ずるものではなく、自分の生き様から醸し出される人格、品位、力量を通じて生じてくるものなのです。

しかしながら、仕事に忙しく、妻や子供と十分に接する時間を持てない男性は、コミュニケーションの不足から時に誤解を受けることもあるでしょう。

そこで生きてくるのが、先ほどご紹介した「鉄則2か条」です。

どんなに忙しくとも、家族に対してこれだけは守るという鉄則を立て、それを実践するのです。

「帰宅前に必ず連絡を入れる」

「週に一度は一緒に食事をする」

何でも構いません。各々の事情に合わせ、実行可能な約束事を自分で立て、それを貫いておれば、その誠意は家族にも必ず伝わるはずです。

(本記事は月刊『致知』2010年7月号「道をつくる」から一部抜粋・編集したものです。各界一流の方々のご体験談や珠玉の名言を多数紹介。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

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