難病と向き合い続けた篠沢秀夫さん

人気クイズ番組の回答者として知られていた
学習院大学名誉教授の篠沢秀夫さんが亡くなりました。

この10年ほど、ALS(筋萎縮症側索硬化症)という難病と
向き合い続けてこられました。
声を失い、動くこともできない日々を
篠沢さんはどのような思いで乗り越えてこられたのでしょうか。


篠沢 秀夫(学習院大学名誉教授)
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※『致知』2012年3月号
※特集「常に前進」P18
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話すことができず、動くことも困難になったいま、
私は「古代の心」で生きています。
 
現代は情報が多く、自分と他人とを比べてしまいがちです。
子供の育ち方が平均以下と思って殺してしまう母親の話など、
目を覆いたくなるニュースが溢れています。

一方、身の回りしか見えない古代の人は呑気だったことでしょう。
余計な情報がないので、
他と比較して豊かだとか貧しいとか考える必要もありません。

ありのままの自然環境を受け入れて、
伸びやかに仲良く生きていたであろう古代人。古代の心では、
目に見えることしか分かりません。それでいいのです。

現代も全人類の奥底に眠っているこの古代の心で、
いまを否定するのではなく、いまを楽しむ。それを提起するのが、
ALSの発症後に着想した、新古代主義・ネオアルカイスムです。

「こうならなければよかった」
「元気な人が羨ましい」などと思うと、
心が沈み、体が重くなります。

けれども私のいまある姿は、
人工呼吸器を付けたことにせよ、自分で選んだ結果です。



他人を思い煩うことなく、我が道を行く。
そう心に決めて、この一瞬の自分の体に満足すれば、
お天気がいいだけでも嬉しいと感じます。


声が出せなくても、心の中で好きだったフランス語の詩を吟じ、
フランス民謡を歌っていられます。
 
そして、いましようとすることを決めて、
一つ上の目標を定めると、心が躍ります。

ベッド暮らしになってからは、
毎日2時間は執筆に充てると決め、既に
『ぶる ぶる ぶる ブルターニュ大好き』
『美しい日本語の響き』
『命尽くるとも 「古代の心」で難病ALSと闘う』
の3冊の本の刊行が実現しました。
 
昨年は『クイズダービー』以来の知人である女優の長山藍子さんから、
陽気で社交的な私の妻・礼子を、劇で演じたいとのお申し出がありました。
劇の脚本の土台とするべく、
夫婦自伝物語『明るいはみ出し』を半年かけて書き上げました。

妻との出会いからいままでを楽しく綴り、
大変な分量になりましたが、既に校正刷りとなり出版は間近です。


 (中略)


人生、何事も上手くいくとは限りません。

一時の成功も振り返れば大したことではないと気づいたり、
失敗して打ちひしがれることもあります。
けれども心の苦しみについては、語らないことで耐えるしかありません。
 
悲しみは口にしないでじっとこらえ、
やり直して明るく前へ進めばいいのです。


困難に遭うたび、私は自分にそう言い聞かせて乗り越えてきました。
「前進 前進 また前進」はいまも昔も私の行動原理です。