2016年06月15日
東洋思想研究者の田口佳史さんは、若い頃、
ドキュメンタリー映画の監督でした。
タイで水牛を撮影していた時、
悲劇は起こります。
田口さんは水牛に襲われ、
生死を彷徨う瀕死の重傷を負うのです。
田口さんがはどのようにして
その絶望的状況を
乗り越えたのでしょうか?
────────[今日の注目の人]───
★ ビジネスマンよ、腹中に書を持て ★
田口 佳史(東洋思想研究者)
※『致知』2016年7月号【最新号】
※特集「腹中書あり」
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私は大学を出ると映画会社に入社し、
そこでドキュメンタリー映画の
監督をやっていました。
昭和42年、
ベトナム戦争の最中でしたが、
戦争の映画を作りたいと思って
タイのバンコクに飛びました。
撮影は順調に進んでいて、
その時、目の前に
立派な二頭の水牛が現れたんです。
私は何としても
カメラに収めたいと思って
近づいて撮影し、
車に戻ろうとした瞬間、
後ろからいきなり襲われたんです。
鋭い角でボンと持ち上げられるように
串刺しになり、
内臓が飛び出す重傷を負いました。
自分で飛び出した内臓を
身体の中に入れて、
バンコクの病院に
運んでもらったのですが、
そのおかげで本当に
奇跡的に一命を取り留めることが
できたんです。
ただ、しばらくは
生死を彷徨っている状態で、
きょう目を閉じて眠れば
死んでしまうのではないかという
恐怖感に苛まれていましたね。
しばらくしたら、
私の事故を伝え聞いた在留邦人の皆さんが
梅干しや本などいろいろのものを
差し入れてくださって、
そういうものの中に
『論語』と『老子』が入っていたんです。
『論語』はあまり印象に
残らなかったのですが、
『老子』を読むと、
とても心が落ち着くわけです。
いま思うと、そこで説かれている
死生観が私の心に
深く沁み入っていったのでしょうね。
『老子』は
人間は道という根源から生まれ出てきて、
亡くなるとまたその道に帰る
と説いています。
道とは何かといえば、
郷里の肝っ玉母さんのような存在なんです。
つまり、死とは決して恐怖の対象ではなく、
母親の温かい懐に帰ることなんだと。
そう考えることで心が穏やかになり、
病状も非常によくなってきました。
※生死を彷徨った時だったからこそ、
古典の教えが
田口さんの心に
深く浸透していったのでしょうね。
古典の魅力を、
ぜひ『致知』七月号で感じてみてください。