2018年03月10日
川端康成という名前は誰もがよく知っていますが、
その生い立ちについて知っている人がどれほどいらっしゃるでしょうか。
幼少期から多くの肉親の死に直面し、生涯、
その孤独と向き合ってきた作家。それが川端康成です。
『致知』に連載の文学博士・鈴木秀子さんの解説から
その人となりが伝わってきます。
鈴木 秀子(国際コミュニオン学会名誉会長)
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※『致知』2018年4月号【最新号】
※連載「人生を照らす言葉」P120
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川端康成が1922年に発表した『葬式の名人』は、
川端の実体験に基づいた短編小説です。
主人公の青年は物心つく前から肉親の死に相次いで遭遇します。
深い悲しみを味わう中で、子供ながらいつしか葬式の作法を身につけてしまい、
周囲の人々から一目置かれるようになるのです。
小説は、主人公が22歳になった夏休み、
顔も見たことのない親戚の葬式に3度も参列することになった場面から始まります。
肉親を相次いで失った主人公をよく知る従兄が、
冗談交じりに「あんた、葬式の名人やさかい」と話しかけます。
「葬式の名人と笑い交りに言った従兄の言葉で私はふと自らを顧みた。
私の境遇と過去とがその言葉に聞き耳を立てた。
実に私は幼少の頃から数え切れないほど葬式に参列していた。
摂津地方の葬式の習慣を体得している。一つには肉親達の死に度々遭ったからである。
また一つには煩わしく会葬し合う田舎村で家を代表して会葬したからである。」
その言葉どおり、主人公のモデルとなった川端は1歳で父を、2歳で母を、
7歳で祖母を、10歳で姉を、14歳で祖父を亡くしています。
自分を力強く守ってくれる存在であるはずの父を失い、
そんな川端に愛情を注いでくれていた母も翌年に他界。
僅か二歳にして両親と死別するという不遇に見舞われるのです。
川端はこの時、おそらく世間から押し寄せる荒波を肌で感じ取っていたことでしょう。
親代わりだった祖父母も妹も、川端が14歳までにすべていなくなり、
最も側にいてほしい人から次々に奪われていった寂しさや悲しみ、孤独感は、
想像を遥かに超えるものがあったに違いありません。
そのことを踏まえると、小説の一文一文が大変重く迫ってくるのではないでしょうか。
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鈴木秀子さんの連載が読める月刊誌『致知』
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