2017年09月12日
毎年夏になると取り上げられる学校での「平和教育」。
そこにはどんな問題が潜んでいるのか、
占部先生にメスを入れていただきました。
占部 賢志(中村学園大学教授)
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※『致知』2017年10月号
※連載「日本の教育を取り戻す」P130
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【占部】
少し戦後の平和教育の実態に触れておきましょう。
学校現場では、長年にわたって「教え子を再び戦場に送るな」
というスローガンのもと、手を替え品を替えて様々な
材料が教室に持ち込まれ、「平和教育」「反戦教育」が
繰り返されてきました。
私が過ごした昭和40年代前半の高校時代には、
とりわけヴェトナム戦争と『きけわだつみのこえ』が
頻繁に取り上げられていたのを覚えています。
この本はいまだに現場教師にとって
「平和教育」のバイブルと言ってよいでしょう。
【教師B】
一部だけですが読んだことがあります。
大学時代の授業で読後感を書かされました。
【占部】
私が問題にしたいのは、この本に収録されている
戦没学徒の文章ではありません。その編集意図です。
【教師C】
どんな意図でしょうか。
【占部】
これは文芸評論家の小林秀雄さんの本で知ったのですが、
戦時下の若者の心情に対して、あの本の編集者たちはあまりに
一面的な取り扱いをしたのですよ。
【PTA役員】
一面的とは?
【占部】
それはこういうことです。
戦争に疑念を抱き、最期まで戦争を呪って死んでいった
学生の手記は採用されたが、祖国の危急に臨んで決然と
出陣し散華した学生の手記はボツとされたのです。
当時、「歴史的記録を世に発表したい」
との呼びかけに応えて遺族から
寄せられた遺稿は309人分に
のぼったといいます。
その中から取捨選択され75人分が一本にまとめられて
刊行されることになったのですが、
そこには意図的な区分けが施されていたというわけです。
【教師C】
なるほど、あり得ますね。
【占部】
ですから、本書が刊行されるや、特攻隊員として散華した子を
持つ遺族の一人が、このような編集に対して
厳しく異議を唱えたのです。
「真にわだつみのこえと題するならば全部の遺墨(いぼく)の中から
それぞれ異なれる性格思想或(ある)いは戦争観或いは死生観を
網羅(もうら)して編集してこそ『きけわだつみのこえ』
でなければならないのである」
「斯(かか)る事は……幾百万の戦死者の霊と
其の遺族に対する侮辱にして剰(あまつさ)え社会の良識を誤らしむる
残酷行為と言わざるを得ない」
【教師A】
公正さに欠けているというわけですね。
【占部】
ええ。この問題で最も鋭い指摘をしたのは小林さんでした。