2017年10月23日
毎号、その道で活躍されている
方々の人生をギュッと凝縮して
お伝えしている「致知随想」。
最新号を彩る5つの物語から
生きた人間学を学びます。
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「ゴールなき道を常に前進す」
広井 政昭(江戸独楽職人)
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曲独楽──。扇子や日本刀の上で
華麗に独楽を回す曲芸をご存じだろうか。
江戸時代に考案され、
絶大な人気を誇ってきた寄席演芸である。
私は木地玩具職人の家系に四代目として生まれ、
木製の玩具をつくり生計を立てる傍ら、
半世紀以上この曲独楽づくりに懸けてきた。
1980年代からは活動が海外に広まり、
私の作品はフランスのルーブル美術館に
200点以上永久保存されるなど、
ありがたい評価をいただいている。
曲独楽の世界は一般的な独楽とは一線を画す。
形はシンプルだが、バランスが命であり、
重さを均等にするのが非常に難しく、
職人の腕が試される。
(中略)
独楽の基本の形は轆轤で
2時間ほどでできあがるものの、
仕上げ作業にかかる時間は約一週間。
完成までには高い集中力と、
経験に基づく職人としての勘が求められる。
もちろん、設計図はない。
先代である父親からは、
「職人は目の中に物差しを持て」
と繰り返し教えられた。
また、「曲独楽だけはやるな」と忠告し、
それを遺言のように残して75歳で亡くなった。
難しい上に調子が悪くなると
すぐに調節しなくてはならず、
それでいて芸人は収入の少ない人が多いので
妥当な対価が得にくい商売。
自分の貧しい生活を振り返っての
アドバイスだったと思う。……
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「自国を愛せない人に他国は愛せない」
赤塚 高仁(赤塚建設社長)
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人は、運命が変わる前に危機が先行する──
私は自らの体験を通じてそう確信しています。
私は若い頃、世間体を気にする母の影響で、
よい学校を出てよい会社に入り、
定年まで勤め上げれば幸せになれると信じていました。
ところが就職した大手企業では、
仕事を獲得するため、接待や選挙応援など、
本業とかけ離れた仕事に明け暮れる毎日。
それが社会の現実とはいえ、
無垢な若者にはあまりにも理不尽に映り、
心の内で葛藤を重ねるうちに徐々に体調を崩し、
鬱病に陥ってしまったのです。
結局その会社は退職し、
家業の工務店に入りましたが
うまく溶け込めずに鬱病は悪化。
とうとう28歳の夏に自殺を図りました。
奇跡的に一命は取り留めたものの、
よい学校を出てよい会社に入れば
幸せになれるという私の神話は、
脆くも崩れ去ったのです。
人間はなぜ生まれてくるのだろう。
心の中で膨れ上がった疑問に突き動かされ、
様々な宗教の門も叩きましたが、
納得のいく答えは見つけられませんでした。
そうして自殺未遂から一年経った昭和63年7月23日、
たまたま友人に誘われて参加したのが、
ロケット博士で知られる糸川英夫先生が
晩年にご自宅で開かれていた勉強会だったのです。
テキストは……