人は何で生まれてくるか、知っているか——。結核の少年と先生の3分で読める感動実話

浄土真宗の僧として、また篤志面接委員として刑に服する人々に生き方を説き続ける真宗大谷派浄真寺副住職の西端春枝さんは、一燈園の三上和志さんから聞いた話がいまでも忘れられないと言います。病に冒され、余命幾ばくもないある少年が最期に残した言葉とは。3分で読める感動実話をご紹介いたします。

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余命10日の18歳の卯一という少年

〈西端〉

これはもう60年以上も前の話ですが、ある夜、お隣の佐藤さんが一燈園の三上和志先生という立派な方が来られるというので、子供を連れて行ったことがあります。分かりやすく心に響くお話という意味でも、その時、三上先生が泣きながら語られた実話を少し紹介させていただいてよろしいでしょうか。

〈坂岡〉

ぜひお聞かせください。

〈西端〉 

三上先生は警察関係の病院に招かれて入院中の人々や職員に話をされました。院長室に戻ると、院長がお礼を述べた後に、

「実は、余命10日の18歳の卯一という少年がいます。不幸な環境で育ったこともあり、暴言を吐き、皆に嫌われています。しかも開放性の結核なので、一人隔離されて病室にいるのですが、せめて先ほどのようなお話を10分でも20分でもしてやってもらえませんか」

とお願いされました。2人は少年の部屋に入ります。院長はマスクにガウンの完全防御、三上先生は粗末な作務衣のままです。卯一は、院長が「気分はどうか」と声を掛けても「うるせえ」と地の底からの声を出し相手にしようとしません。2人が諦めて部屋を出ようとした時、卯一と三上先生の目が合うんですね。その目は、燃えるような人恋しい、孤独のどん底にいる目でした。先生は病気が感染することを覚悟で、卯一を一晩看病させてほしいと頼みます。

三上先生は荒れ狂っていた卯一をなだめながら、骨と皮ばかりになった足をさすり始めました。やがて卯一は自分が生まれる前に父親が逃げたこと、母親は産後すぐに亡くなったこと、神社で寝ては賽銭を盗んで食い稼ぐ生活を続けてきたことなどを話し始めるんです。そして、一晩中足をさすり続ける先生に「おっさんの手、お母さんみたいやな」と言うんですね。

〈坂岡〉

ああ、お母さんみたいだと。

〈西端〉

そのうちに粥を食わせてくれるよう頼みます。生ぬるいお粥さんが梅干しと一緒に置かれている。幾匙か口にした後、卯一は言うんです。「もうええ。おっさんもお腹空いたやろ。俺の残り食うてくれ」と。しかし、結核患者が口にしたものです。先生は「一晩くらい食べなくてもいい」「そんな言わんと食うてくれ」「いい、いい」「おっさん、食えや」「私はお腹が空いていない」……

次第に卯一の声の調子が変わっていくんですね。「親切そうにしているけど、おまえの真心はほんまか」と。先生は長い長い合掌をして、粥をいただかれるんです。

〈坂岡〉 

合掌をしながらも、心で葛藤しておられたのでしょうね。

〈西端〉 

「我が子であればと思おうとするけど思えない」と先生は講演でおっしゃっていました。卯一が「長いこと拝むんやな、おっさん」と言ったと聞いて、私はゾクッとしました。私もその場にいれば同じだったはずですから。

粥を食べた先生に卯一は「おっさん、笑わへんか」と聞きます。「なんや、言うてみい」「いや、笑うやろ」「笑わへん」「それなら言うぞ。一回でいい。おっとうと呼ばせてくれ」一回は小さい声で「おっとう」、2回目には少し大きな声で、3回目にはありったけの声で「おっとーう!」と叫んで、声を上げて泣き崩れたそうです。

先生も一緒に泣かれて「人間は何でこの世に生まれてくるか知っているか。人に喜んでもらうために生まれてくるんやよ」と諭されるんですね。そうしたら卯一が「おっさん、俺の話も聞いてくれ。おっさんあっちこっちに講演に行くやろ? 親を大事に思わん者が哀れな最期を遂げた、と俺の話をしてほしい」と頼みます。

2人はそこで別れるのですが、卯一は「おっさーん」「おっさーん」といつまでも呼び続け、その直後にお浄土に帰っていくんですね。顔には静かに笑みを浮かべ、手は合掌していたといいます。

 

 

(本記事は『致知』2016年9月号 特集「恩を知り恩に報いる」から一部抜粋・編集したものです。)

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◇西端春枝(にしばた・はるえ)

大正11年大阪府生まれ。昭和16年大谷女子専門学校卒業後、小学校教師に。20年退職。21年西端行雄氏と結婚、夫婦で行商を始める。25年ハトヤを開業し、38年ニチイ創立。49年同社株式上場を機に退職。淨信寺副住職として今日に至る。大谷学園理事、全国女性同友会名誉会長、近畿女性同友会会長、「雑巾を縫う会」会長などを務める。著書に『熱き人生を求めるあなたへ』(ぱるす出版)など。

◇坂岡嘉代子(さかおか・かよこ)

昭和21年福井県生まれ。16歳で脳脊髄膜炎発病以来、青春を闘病生活に生きる。その間、県手話通訳を経て聾啞者、非行少年のための太鼓グループを結成。63年「和太鼓はぐるま」としてプロデビューさせる。平成2年親子の駆け込み寺「はぐるまの家」開設。裁判所や児童相談所の要請で非行、不登校、家庭内暴力を受けた子供たちなどを引き取っている。21年社会貢献支援財団より社会貢献者表彰。27年藍綬褒章受章。

卯一少年の話は『下坐に生きる』に収録されています

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