国際情勢を捉える上で大切な三つの視点【櫻井よしこ×中西輝政】

 

日本が抱える内憂外患は深刻さを増しています。そのような時代を生きる私たちにとって大切なことは何か、どうすれば時代の潮流を見抜くことができるのか、保守論壇の重鎮である櫻井よしこさんと中西輝政さんに日本が進むべき道筋、国際情勢を捉える上で大切な三つの視点についてお話し合いいただきました。

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国際情勢を紐解く要諦

【櫻井】 

きょう中西先生に教えていただきたいと思ったのは、一つは日本にとって決定的な影響力を持つアメリカを私たちはどう理解したらいいのか、もう一つは日米同盟の戦略を考える上で、米英関係の本質をどのように見たらいいのか、ということです。

 

地政学の泰斗ニコラス・スパイクマンの本を読んで衝撃を受けたのは、地球上の一番大きな大陸であるユーラシア大陸のハートランド(中核地域)を支配すれば、リムランド(沿岸地域)の国々はその勢力に降ってしまうだろうと。

 

【中西】 

スパイクマンの時代というのは1940年代ですね。

 

【櫻井】 

当時、ユーラシア大陸の勢力というのは旧ソ連と国民党の中国でした。この二つの勢力が結びついてハートランドを支配されることはアメリカにとって脅威であるから、二つの勢力を結びつけないようにすべきであると。また、日本が真珠湾攻撃をした年にシカゴで開かれた学会で、日本を戦略的パートナーとすべきということまで言っているんですね。

 

翻っていまの中国とロシアの関係を見ると、スパイクマンの危惧した方向に進みつつあるんじゃないかと思うんです。この二か国がハートランドを支配すれば、それによってヨーロッパ諸国や地中海諸国、ひいては東南アジア諸国や日本も影響を受けざるを得ない。そしてアメリカが孤立していく。それは何としても回避しなければいけないですし、そこで同盟国の力がすごく重要になるわけですが、アメリカ自身がこういった現状の国際情勢をどのように捉えているのかがちょっと掴つかめないんです。

 

【中西】 

その通り。これは現代の国際政治の最も核心的な問題の一つだと思います。

 

古代ギリシャ以来、大英帝国に至るまで、大国の命運というのは坂を上っていってピークに達して坂を下っていくパターンをずっと辿ってきました。衰退期そのときの覇権国が膨張するランド・パワーを抑え込むのは、いつの時代もとても難しいものです。ただ、いまのアメリカがどこまで力を残しているか。

 

歴史というのは予測が本当に難しい。ユーラシアのリムランドの一角を占め、中露とアメリカの中間地帯にいる日本やドイツをパートナーに引きつけようというのは、理性的に考えればその通りなんですよね。

 

だけど、スパイクマンの時代、実際は米ソ中が同盟して日独と戦う、という第二次世界大戦が起こってしまったわけで、あれは、本当の意味で「間違った戦争」だったんですね。しかし歴史にはそんなことが起こり得る。つまり本筋と明らかに違う経路を辿らざるを得ない時があるのです。

 

ビスマルクが「外交は流砂の如き世界である」と言っているように、ひとたび風が吹くと砂丘はあっという間に誰も予測できなかった形に変わってしまう。これこそ歴史が教える国際情勢の本質なんです。その上で私がいつも言っているのは、次の三つの視点を押さえていたら当面、足元と目の前の国際情勢はだいたい予見できると。

 

一つは、「中露の結託は決して弱まらない」。中露が仲違いしてくれるだろう、そうなったら北方領土も返してくれるだろう。こういった楽観は絶対に禁物です。

 

二つは、「米露の対立は緩和しない」。アメリカはプーチンの支配を絶対許せない。いまも昔も、アメリカ外交にとって一番の脅威は、詰まるところヨーロッパがロシアに侵されることです。こうなったら世界秩序は崩壊し、第二次大戦前と同じ状況になり歴史は大きな悲劇のサイクルに陥ります。

 

三つは、「米中は決定的な対決には至らない」。対立はするけれども、抜き差しならぬところに来ると必ずストッパーがかかる。

【櫻井】 

なるほど、納得です。

【中西】 

アメリカはいま立ち止まっていますよ。次の一歩をどっちの方向に踏み出してくるか。トランプ的なアメリカには出口がない。バイデン的なアメリカにも国民はついていかないでしょう。

現状のように、シンガポールやトルコは民主主義じゃないからサミットに呼ばないなんてことは、冷戦期のアメリカならやりませんでしたよ。60年代、韓国に朴正熙(パクチョンヒ)独裁政権ができた時も、地政学的に韓国を守らないと西側の民主主義や国際秩序が保てないということで、アメリカは妥協して韓国を抱きかかえてきた。それがいまの韓国の民主化と発展に繋がった。

冷戦が終わる1987年頃に、私はスタンフォード大学にいたんですけど、その時にキッシンジャーとブレジンスキーという大御所二人が主宰する調査プロジェクトの末端に参加したことがあります。侃々諤々(かんかんがくがく)の大議論の末に、冷戦後の世界を睨んだ米政権の『選択的抑止の長期戦略』という報告書にまとまりました。

あの頃のアメリカに戻って、地政学的に大事なところには選択的に介入していくという、限度のある慎重さと寛容さを伴った世界戦略の旗印を掲げ直してもらわないと、アメリカはトランプ的な乱暴な孤立主義の方向に流されていってしまいます。

★本記事は『致知』2024年2月号「立志立国」掲載記事の一部を抜粋・編集したものです。

◎櫻井さんと中西さんの対談には、

・イスラエルとパレスチナ 争いの本質

・日本のメディアを覆う対米ルサンチマン

・短期の悲観、長期の楽観

・米英関係に学ぶ 日本の生きる道筋

など、現在の複雑な国際情勢を紐解き、これからの日本の生きる道を探ります。全文は『致知』2月号「立志立国」をご覧ください。詳細はこちら 

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◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)

ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスターなどを経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年に国家基本問題研究所を設立し、理事長に就任。23年第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。近刊に『異形の敵 中国』(新潮社)『安倍晋三が生きた日本史』(産経新聞出版)。

◇中西輝政(なかにし・てるまさ)

昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)など多数。近刊に『偽りの夜明けを超えて』(PHP研究所)。

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