「ハガキ道」創始者・坂田道信さんに聞く年賀状の効用

年の瀬が近づくにつれ、多くの人が頭を悩ませるのが、年賀状の書き方・出し方ではないでしょうか。お金も手間もかかる年賀状を書かずとも、SNSやメールで済ませてもいいのではないか――そう考える一方、これまで続けてきた年賀状を止めてしまうのはどうなのか。いままさにそんな悩みを抱えている方へ、「ハガキ道」伝道者の坂田道信さん、日本一ハガキを書いたという元郵便局長・半田正興さんの語り合いをご紹介いたします。

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郵便局の人は、ハガキを売るけど書かない

(半田)
坂田先生に初めてお会いしたのは、もう22年前になりますね。当時、私は尾道の小さな郵便局の局長でしたが、同じ広島県に郵便ハガキを「ハガキ道」として楽しんでおられる人がいると聞いていました。そしてお会いした時、先生は「ハガキを書けば手に入らないものはない」とおっしゃった。

それまで自分が当たり前のように扱っていた郵便ハガキを一所懸命を通り越して、命を懸けて取り組んでいらっしゃる。その姿にカルチャーショックを受けたのです。

(坂田)
いや、これは本当だよ。私はね、「複写ハガキ」を書けば手に入らんものはないなぁと思っています。

(半田)
それからもう一つ先生が言われたのは、郵便局の人はハガキを売るけど書く人はいないと。特に局長は書かないとはっきり明言されたので、そこまで言うなら私は書こうと思い立ったのが私とハガキとの出合いでした。

(坂田)
私は森信三先生にハガキを教えられたでしょう。その時、郵便局の人が一番ハガキを書いていると思っていた。でも、書かないんですね。

郵便局の人は配るのが仕事だからハガキは書かないんだと諦めていた頃に半田さんに出会って、日本中の郵便局の中で半田さんだけが反応してくれた。だから、半田さんが私の「郵便局の人はハガキを書かない」という考えを塗り替えてくれたんですよ。半田さんが書かれるようになって、郵便局の人もずいぶん書く人が増えたと聞いています。

(半田)
それでもまだ少ないですね。一番身近にいる人が一番ハガキの素晴らしさに気づいていない。それが残念なんです。

(坂田)
郵便局の仕事で、保険や貯金の業務は利益を生み出すんですよ。ハガキの業務は手間ばかり食って案外利益を生み出さないのでしょう。

(半田)
年賀ハガキのシーズンは儲かりますが、普段はトントンですね。

(坂田)
ハガキは人と人を結びつけるものだから、本当はたくさんの利益を生み出すんですよ。保険でも貯金でも、もっとよりよくやろうと思ったら、もっとハガキを出せばいいんです。だから、郵便局の人にはもっともっとハガキに力を入れてほしいなぁと思っているんです。

「謹賀新年」「賀正」はもったいない

(半田)
私が坂田先生に影響を受けたのは、実はハガキだけではないのです。先生は「城山だより」という一人新聞を出されていますが、この一人新聞の魅力をハガキと一緒に教えてもらったことが、私の大きなパワーになっているんです。

(坂田)
「はがき館」だよりね。

(半田)
私は郵便局にも自宅にも、いただいたハガキを展示しているので、「はがき館」となづけているんです。

(坂田)
「はがき館だより」も、もう長いでしょう。

(半田)
20年になります。最初の頃は200名近くの方に送っていましたが、昨年の3月に退職してからはちょっとしんどくなって、いまはその半分くらいに減りました。坂田先生の「城山だより」は大変な数に出されていますね。

(坂田)
多い時で6,000人くらいです。

(半田)
それでも郵便代だけで大変な金額です。毎年の年賀状も大変な数ですよね。

(坂田)
2万人です。私は酒もタバコものまんし、全部通信費なんです。毎年5月から11月まで年賀状のために100万円貯金しているんです。だから1年中年賀状のために働いているようなものですよ(笑)。同じ数だけの人から年賀状が届くから、多い時は1回でダンボール2箱くらい届きます。

(半田)
坂田先生の哲学では、年賀状は自分の仕事の宣伝をしても皆さんに受け入れられるいいチャンスだと。

(坂田)
ハガキの中でも年賀状だけなんですよ、自分の職業を目いっぱい宣伝しても相手に拒否反応が起こらんのは。例えば住宅販売の人はね、

「家は家族が幸せに暮らせる一番大事なものです。去年私はその住宅販売を通じて皆様とつながってきました。今年も家族が最高に幸せになるような家づくりを通して、社会をよりよくしていきたい」

というような年賀状を書いてほしいんです。

謹賀新年とか賀正なんていうのは、ムダっちゅうか、もったいないですよ。ちょうど家を建てたいと思っている人がいたら、謹賀新年の人よりもそっちを選ぶと思います。だから私の年賀状は、毎年「複写ハガキ」がいかにいいものかを書いているのです。

左が坂田さん、右が半田さん

受け取った年賀状の活かし方

(坂田)
半田さんはハガキを束にして、本として持ち歩いているんですよね。

(半田)
「ご縁本」と名付けているのですが、月に12回は中身を差し替えます。いまは年賀状が中心ですね。一番後ろには何も書いていない官製ハガキを何枚か入れておいて、ちょっとした時間ができたら書けるようにしているんです。

それからいただいたハガキで特に気に入ったものは縮小コピーをつなぎ合わせて、「はがき心経」として持ち歩いているんです。

(坂田)
私はね、やっぱりハガキ以上のものはないなぁと思うよね。

ハガキ以上のものは人間だけですよ。人間は宇宙の中で最高の機械です。私はこの最高の機械を貸してもらったのに、何一つ手入れをしなかったなという反省を去年あたりから抱いている。人間以外ではハガキですよ。

(半田)
私はあまり難しいことは分かりませんが、ハガキはオープンなラブレターだと思っています。もらう時も、差し上げる時もワクワクする。こんな気持ちになることは他にないんですね。ぜひ多くの人にこんなにも素敵なハガキの世界に触れていただきたいと思います。

(坂田)
みんな運命を変えるのは大変だと思っているでしょう。1枚のハガキを出すか出さないかで、その人の運命はコロッと変わります。ハガキを出して、人と結びつく。そうすれば求めているものは、いつかすべて手に入る。そして、自分の生命を輝かせ、楽天知命の人生を生きることができるのです。


(本記事は月刊『致知』2008年3月号 特集 「楽天知命」より一部抜粋したものです)

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◇坂田道信(さかた・みちのぶ)
昭和15年広島県生まれ。33年向原高校を卒業。農業のかたわら大工見習いとなる。46年森信三師と出会い、「複写ハガキ」に目覚める。現在はハガキ道伝道者として各地で講演活動に励みながら、地元広島で断食や玄米菜食など正しい食事のあり方の指導も行っている。著書に『ハガキ道に生きる』『この道を行く』(いずれも致知出版社刊)がある。

◇半田正興(はんた・まさおき)
昭和21年広島県生まれ。45年広島大学卒業後、郵便局に就職。61年坂田道信氏に出会い、ハガキ道を始める。平成19年向島西郵便局局長を最後に退職。著書に『はがきは人生を変える』(PHP研究所刊)などがある。

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