【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第32回〉詩吟の先生宅で聞いた安徳天皇の秘話

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。道中、立ち寄った詩吟の先生宅で和尚は「安徳天皇の陵墓」の秘話を聞くことになります。

詩吟の先生宅②

数日して詩吟の会員の為近(ためちか)さんという家を尋ねた。詩吟の先生と数人でクルマに分乗してどのくらい走ったか。山の中だ。その家で御供養をした。それから、為近家の古老を囲んで雑談が始まった。安徳天皇の名前がポンポン出てくる。また、その遺品とかも見せて頂いたが、私にはピンとこない。

安徳天皇の遺品なら国宝級。それが何でこの山の中にあるのか。スンナリとは納得できない。また、その話に割り込んでまで聴くつもりもない。分からないままに、またクルマに乗り込んだ。すると更に山の奥へ奥へと突き進む。道の多少広いスペースにクルマを停めて、ここから山を登るという。細い急な山路もあったが、しばらく登ったところでこんな声が聞こえた。

「ここです。ここが安徳天皇の陵墓(りょうぼ)です」

「陵墓?」
 
「お墓です」

横に長い大きな岩が三段に重なっている。天皇皇后を葬るところを陵といい。その周辺には他の皇族を葬っていて、そこを墓という。だから、その全体が陵墓だと。安徳天皇は壇ノ浦で死んだ。その墓が、何故こんな山奥に? 私の頭は混乱したままで、全員で線香を焚いてご供養をした。それはそれで終った。

全国行脚も終えた後のこと、お堂に「安徳じゃが浮かびたい」細川幹夫著という書物が送られて来た。読むと安徳天皇が壇ノ浦で死んだのは替え玉だという。エッ? 安徳天皇は死んではいない、逃げた。その逃走した一行に随行した藤原知康の子孫が為近家だという。ほうー。私が尋ねた家だ。

その為近家が一子相伝の秘話として、逃走経路から死に至るまでの様子を克明に伝え続けてきた。だから、安徳天皇の遺品があっても可笑しくはない。陵墓も無論、安徳天皇。う~ん、そうか。それも800年伝え続けてきた。800年、これには驚いた。私はある感動に包まれ視線は天井の一点を見つめていた。

その時、私のアタマの中にお釈迦さまが浮かんだ。そのお釈迦さまの教えは2500年。800年どころではない。今日まで続いている。これは驚異ではないか。その継承する動機、それは? 為近家には安徳天皇。それが動機の全てである。ならばお釈迦さまは……悟られた。その教えを説いた。ズバリ真理を説いた。そのことから、お釈迦さまは神格化した存在として、当時としては最大級の衝撃が走ったのではないか。

心の琴線に触れる何かがあった。人間が生きるに大切な貴重な宝があると。そうでなければ、消滅していても不思議ではない。

詩吟の先生宅③

夜のことだ。お加持(かじ)を頼まれた。何事か? 加持というのは、仏と一体になってその人にとりつく邪霊を祓うことである。見ると〇○さん、のどの辺りが大きく膨れ、そこに両手をおいて俯(うつむ)いている。70幾つのお婆さんである。口を固く結び、顔は土色だ。何か異様な気配が漂う。

師匠のお加持は見慣れていても、自分でした経験はない。が、躊躇してはおれない。すぐに部屋に座ってもらいお経を唱えた。そして、不動真言を唱えながら数珠で背中を擦った。繰り返し繰り返し擦って、30分ほどか。一向に変化はない。相変わらず、のどに両手をおいたまま俯いている。大丈夫かな? 心配になった。

「のどに何か刺さってない? 大学病院で診てもらった方がいいのでは?」

というと、

「違う、違う。続けて」

という。そこでさらに続けていた。すると〇さんがいきなりしゃべり出した。憑依(ひょうい)した霊だ。

「お経の有難いのは分かる。が、坊主が勝つか、わてが勝つか一騎うちだ」

女の声である。                           
 
一騎打ちとは穏やかでない。が、私には何故か余裕があった。近くにいた数人がさんをサッと取り囲んだ。そして、その霊との会話が始まった。話は弾んでいる。
 
「そんなこと言ったって、あんたの物じゃないでしょう」
 
「知っとる」

そんな言葉がポツポツと漏れてくる。が、私には何を話しているのか分からない。しばらく続いていたがどうやら収まったか。いきなり

「もう、帰る。戸を開けて!」

という。戸といって私の背後にあるのは障子である。その障子を開けた。すると、さんがガバッと畳に倒れた。そして、胸から腹まで畳に擦り付けたまま右へ左へ蛇行を始めた。蛇だ!大蛇だ! 私はお加持を止めるわけにもいかず。そのまま真言を唱え、背中を擦って一緒に移動した。蛇行したまま廊下に出ると玄関に向かう。

こんな夜遅く道路に出たら如何しよう。心配になった。ところが玄関に来ると頭から上半身をグゥーと弓なりに迫り上げた。するとカクッと頭を前に落とした。その瞬間、その霊が出て行った。するとさんがスッと立ち上がりケロッとしている。あれ。あんなに腫れていたのどが、きれいに元に収まっている。血色もいい。ふーむ。お加持とはこういうものか。目が覚める思いであった。 

つづく

〈第33回〉雪蹊寺にて山本玄峰老師を思う

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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