【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第29回〉雲の如く、水の如く、ご縁の中を生きる

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。今回も弘法大師のお導きによる四国路の旅が続きます。

「家もないし? 何処へ行くのか?」

 龍山荘では昨夜、そして朝の食事のご接待を頂いた。ここはやはり修行者を大切にする気風が今も残っている。お礼を申し上げて出発した。托鉢しながら二十二番平等寺をお参りして先に進んだ。

星越トンネルを抜けたところに茶屋があった。まだ明るいが、そろそろ暗くなる頃か。ここで食べておこう。中に入ってワカメうどんを注文した。ワカメがいっぱい。うどんが見えない。食べ終わると小皿にピーナツ。そしてコーヒーだ。サービスがいい。話も弾んで

「これから泊まるのですか?」

というので
「どこかありますか」

と逆に問うと紙とエンピツを持ち出して地図を書き始めた。

「ここが薬王寺さん。ここです。橋本ドライブイン。ここは〈歩き遍路〉の方を無料で泊めているんです」

願ったり叶ったりと手に地図の紙を持って歩いた。夕日も落ちて暗くなる頃。ここら辺りかと探していると前方に人影がある。頭を下げながら

「お待ちしていました。どうぞ」

と言いながら大きなドライブインの脇から駐車場へ。その駐車場を横切るように歩いていく。

「家もないし? 何処へ行くのか?」

黙って付いて行った。すると、その駐車場の片隅に軽自動車(ステーションワゴン)がある。

「こちらでお休み下さい」

と一言。そして、立ち去った。

「軽自動車か・・・」

 妙に納得した。ともかく宿泊できるのだから、有り難いと、リュック、金剛杖を入れ、行者足袋を脱いで潜り込んだ。布団がきちっと敷いてある。しかも、中は温かい。暖房が効いている。横になるとテレビまで下がっている。申し分ない。しばらくして、社長さんから声がかかる。

「温泉に行きましょう」

 私が外に出るとお風呂道具を持って待っていた。

「弘法大師御縁の千羽という温泉があるんです」

 冬には風呂、ましてや温泉となれば堪えられない。ゆっくり浸かって戻ると、

「食事ですからこちらへ」

とドライブインの店に案内して頂いた。きれいな店である。一段高くタタミが敷き詰められた一角がある。そこに座った。すると4本の足のついた立派お膳が運ばれてきた。天婦羅、刺身、茶碗蒸し等々。さらにお櫃(ひつ)。お代わりを何杯でもと。毎日がうどんだから、大変なご馳走である。

お膳を平らげ、ご飯は二杯。これが限界である。これも御大師さまの御蔭か。無条件で腹の底にジーンと染み渡った。すると、南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 と御宝号が次々湧き上がる。目を閉ざすと、御大師さまのお姿が浮かんでいる。

果物を頂いていると社長さんが来られて雑談をする。そのうちに、

「どうです。明日、薬王寺さんで托鉢されたら」

と勧められた。淡路島、生福寺の住職が

「断ってはいけませんよ。素直に受けるのですよ」

と諭された言葉が私を捉えていた。寺の門前で托鉢したことは一度もない。参拝客が多い・・・とはいえ、したことはない。実際、全国托鉢行脚をしても寺で托鉢したのはここだけである。

「分かりました。明日は薬王寺さんで」

 人生何が起こるか分からない。社長さんの一言で予定が変わった。

薬王寺での托鉢

 翌朝、薬王寺さんの事務所で許可を頂き仁王門から左に折れ、その突き当たりに立った。ただ立っているだけではと理趣経を唱えた。一巻が15分。1時間で4回である。やる以上は声を出す。出す以上は声を張り上げる。大きな声が出たらもはや羞恥心もない。一生懸命していれば自然喜捨する人も増える。

4時間ほどして軽自動車に戻った。1万5千円ほどあった。これもまたまた御大師さまの御蔭とそのまま横になって休んだ。

 夜になって社長さんが来られたので御礼を申し上げ、その晩もお食事を頂いた。その時に、奥さんが亡くなられて、歩き遍路の方に宿泊のご接待をするようになった・・・。ついては、明日、私の家でご供養をお願いしたいと。

 翌日はドライブしながらご供養して、その翌日。過分なご接待を頂いたお礼を申し上げ、ここを出発した。

 禅の修行者のことを雲水と言う。雲の如く水の如くご縁の中を生きる。僧侶とはこうしたものかと貴重な体験をさせて頂いた。

つづく

〈第30回〉橋本ドライブインから室戸、そして金剛頂寺へ

『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載!ご購読はこちら

小林義功
————————————————————————————
こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる