【取材手記】挫折や失敗は、飲み込んで糧にせよ! 藤岡流人生論

~本記事は月刊『致知』2026年11月号 連載「二十代をどう生きるか」の取材手記です~

画面越しの印象そのまま、否、それ以上の熱さ

「ようこそ、お越しくださいました」

幼少期から、画面の向こうの憧れの存在であった藤岡弘、さんにお目にかかったのは6月初旬のことでした。

藤岡さんといえば、1971年に放送開始した特撮テレビドラマ『仮面ライダー』で脚光を浴び、その後も大河ドラマ『勝海舟』や映画『日本沈没』への出演、さらにハリウッド映画『SFソードキル』に主演されるなど、俳優として独自の境地を切り開いてこられました。

私事ながら、テレビで『仮面ライダー』を視聴していた父の影響もあり、レンタルビデオで藤岡さん主演の初代から同シリーズを観て育ったため、その熱演は脳裏に深く刻まれていました。大学時代、古本屋ほかを巡る中で著書を計4冊手に入れ、折に触れて大切に読み返してきました。また当社への入社前、都内のバイクのショールームで開かれたトークショーに足を運び、衰えを感じさせない勇姿に感動したものです。

今年でなんと80歳、全員が俳優やモデル、歌手として活動する4人のお子さんの父としてのメディア露出も目立ちます。そんな藤岡さんのすごさを一つ挙げれば、代名詞のような作品やキャラクター、過去の栄光に寄りかからず、常に自らの心身を鍛え、前進されている。そのことが言動や姿から伝わってくることです。

いずれはお話を伺いたいと心の中で思いながら、仕事で私意を前に出すのはよくないと自制すること8年、ご縁を繋いでくださる方があり、推薦を受けたことで決心がつき、上長に提案をしたのでした。

すると数日後、ご快諾の連絡がありました。日々多忙を極める中で時間を捻出してくださり、藤岡さんが代表を務める事務所にお伺いしたのでした。ご本人のお部屋に入った際、かけていただいたのが冒頭の言葉です。

藤岡さんはインタビューを受けるために、わざわざ囲炉裏の直火で熱した湯で、ご自身が素材からこだわり抜いて商品化された『藤岡、珈琲』を淹れてくださり、感無量でした。早速、座布団の上に正座して取材の準備をしていると、こうおっしゃいました。

「ああ、足は崩してください! もうお気になさらず」

取材は相手に敬意を表し、お話を拝聴する機会です。基本的に足は崩しませんが、あまりに何度もおっしゃるので申し訳なくなり、お言葉に甘えました。相手が若輩であろうと、偉ぶらず自然体で対峙される藤岡さんの人間性を見た思いでした。

ほどなくお話が始まりましたが、実際にお会いして、全くイメージ通りの存在感と、それ以上にスマートで、静かに燃え続けている方という印象を受けました。

人格の根っこは、両親と郷土の人々の精神

多くの方が気になるところでしょうが、お名前の最後に入る「、」(読点)には、深い思いが込められています。ご本人が公言されているように「。」だとそこで終わってしまう。自分は未熟であり、精進し続けようという気概で、ある時、付け加えられたそうです。

「私はまだ、『致知』に出られる立場じゃないんですけれども」

なんと、藤岡さんは『致知』の存在をご存じでいらっしゃいました。錚々たる人が登場するから自分にはまだ早いとおっしゃるのです。そういう節々に、お名前に込めた思いの片鱗が感じられました。

今回は「二十代をどう生きるか」という連載の主旨、現代を生きる若者へのメッセージをお伺いしたいことをお伝えすると、ご自身の現在の実感からお話を始められました。

それが、記事冒頭にある「生きるとは、生き抜くとはまさしく芸術であり、いまここに生きていることは感謝するほかない奇跡だ」という思いでした。

コソボの難民キャンプを訪れた際の藤岡氏 ⓒSANKIワールドワイド

ドラマやバラエティ番組で、そのキャラクターを身近に感じている方が多いと思います。一方で、一躍有名となった20代の頃から、スーダンやイラク、カンボジア、エチオピアといった世界の貧困地域や紛争地帯を訪れ、ボランティアに勤しまれてきたことは、あまり知られていないのではないでしょうか。その過程では、国家・民族・宗教間の対立により女性や子供までが手にかけられ、遺棄された修羅場もあったといいます。

50代まで続いたという長い〝旅〟を経て、自分が「生きている」のではなく「生かされて生きている」ことに開眼された、という壮絶なご体験を明かしてくださいました。

ここで、一つの疑問が湧いてきました。なぜ、日本国内でもう十分と思われる人気、名声を得ておられたのに、海外でこれほど危険と隣り合わせの旅を続けられたのか。

その源泉は、続けて語られた幼少期にありました。終戦の翌年、地元である愛媛県の久万高原、四国八十八か所の第四十四番札所・大寶寺のお膝元に生まれた藤岡さん。八十八か所のちょうど折り返しにあたる土地柄、村の人々は道行くお遍路さんを手厚くもてなしていたとのことです。

「思いやり、労わり、慈しみ、奉仕、感謝する心……とても深い信仰がある村の人たちの中で、小さい僕は育ちました」

そのような日本の古き良き精神性が凝縮された土地、それが藤岡さんの故郷でした。それが、自分の身を投げ出して、海外ボランティアを続けられてきた原動力であり、ご自身曰くこの旅によって、自分が慣れ親しんできた日本の精神性の尊さに気づかされたということです。

藤岡さんの人生を振り返る上で、欠かせないのは明治生まれのご両親の、大変な厳しさと、愛に満ちた教育です。お伺いしていて、子を育てる親の覚悟の深さをひしひしと感じ、かつての日本人はこういう気合いで生きていたのかと、驚きました。これは誌面にみっちり紹介されていますので、ご本人の語り口を想像しながら読み進めていただきたいです。

〝運命の役〟『仮面ライダー』本郷猛

20代、必死真剣に撮影に臨んでいた 『仮面ライダー』撮影当時の藤岡氏

いまでこそ唯一無二の存在感で知られる藤岡さんですが、決して、俳優として恵まれた環境から出発されたわけではありません。

松山市内の映画館で映像の世界に魅せられ、高校卒業後、単身上京されますが、初めは言葉の訛りが抜けず、台本読みでは俳優養成所の仲間から吹き出されるという苦い経験もされています。当然初めは、何の後ろ盾もありません。文字通り何もないところから、失敗に次ぐ失敗を経て、現在の地位を確立されたといえるかもしれません。

こうした体験を踏まえて、たくさんのメッセージをいただきましたが、とてもここでは紹介し切れません。記事にご紹介した中から、あえて一つに絞ってご紹介します。

「失敗を恐れるな、勇気を持って一歩踏み出せ。挑戦し、失敗しなければ気づけないことが世の中にはたくさんある。人が避ける、嫌がることにも真剣に向き合うと、思わぬ宝が与えられるものだ」

そのような姿勢を貫く中、1971年、25歳で射止めたのが、出世作である『仮面ライダー』(石ノ森章太郎原作)の主人公・本郷猛という役でした。高いIQを持つ若き研究者であり、バイクレーサーとしても将来を嘱望された青年。悪の秘密結社ショッカーに目をつけられ、世界征服の手先として、バッタの能力を持つ改造人間にされてしまう……。

望まずして周りの人間を傷つける、人ならざる者にされてしまったという悲哀と、それでも人間の自由のために悪と闘う勇気を抱いて戦う姿が、テレビの普及した日本のお茶の間に熱狂を呼び起こしました。読者の皆様の中には、当時をご存じの方も多いことと思います。

撮影初期、ご自身がスタントも衣装もすべて自前でこなしておられました。今回は、その最中に起き、役者生命が危機に瀕した〝ある事故〟についてもお聞きしました。返ってきた答えは……これまで著書などを通して頭に入れていたどの言葉よりも力強いものでした。

御年80でなお、青春の風が吹く藤岡さん。俳優であり武道家、さらに四人のお子さんの父、そして経営者という様々な顔を有し、一見すれば満たされた環境ですが、やはり「生かされて生きている」という実感が胸にあるのでしょう。日々、武道稽古や瞑想を欠かさず、さらに常に世の中の変化にキャッチアップするため様々な雑誌や新聞に目を通し、琴線に触れた言葉や情報をびっちりとメモ。息子の藤岡真威人さんが買ってきてくれるノートはすぐに使い切ってしまうと、取材の際には使い切った何冊ものノートを見せていただきました。

日々、学び続ける。だからこそ、これほど活力がみなぎり、言葉や立ち居振る舞いに力があるのだなと感服してしまいました。

最後に、万感を込めたメッセージをいただきました。記事よりそのまま抜粋します。

「こうして80歳になったいま、人生には何一つ無駄がなかったと実感する。生きていることへの感謝が湧いてやまない。学びたいことも尽きない。心はまだまだ青春である。心臓が止まる瞬間まで、人生という旅は終わらないのだ」

私もその生き方、言葉に学び、藤岡さんにいただいたエネルギーを燃やして、より熱くこの仕事にぶつかっていきたいと思わされました。ぜひ11月号 連載「二十代をどう生きるか」をお読みください。


 

記事全文はこちらから

~本記事の内容~
◇学問は実体験でこそ磨かれる
◇父と母に注ぎ込まれた武士道
◇失敗しなければ学びも得られない
◇25歳での大事故と復活
◇実をもって虚となす

◆藤岡 弘、(ふじおか・ひろし)
昭和21年愛媛県生まれ。高校卒業後、39年単身上京。俳優養成所を経て、松竹ニューフェイスでデビュー。テレビドラマ『仮面ライダー』『特捜最前線』、映画『日本沈没』『SFソードキル』など出演作多数。近年もNHK大河ドラマ『どうする家康』等で注目を集める。空手、居合道、柔道ほか幾多の武道の段位を持つ武道家でもあり、100か国以上の紛争地帯や被災地で難民救済に当たってきた。

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