【取材手記】年間20万人が訪れるArk館ヶ森の魅力とは?? ~人と地球にやさしい循環型農業を実践する~ 上甲晃×橋本志津

~本記事は月刊誌『致知』2026年11月号 特集「夢なき者に成功なし」に掲載の対談(志あるところに必ず道はできる)の取材手記です~

雄大な自然に囲まれたArk館ヶ森

100ヘクタール、野球場約100個分に及ぶ広大な敷地に広がるArk館ヶ森(岩手県一関市)。この自然溢れる牧場を、いまは亡き創業者と共に一からつくり上げたのが、Ark館ヶ森会長の橋本志津さんです。

Ark館ヶ森では、自然や動物たちと触れ合えるだけでなく、無添加・無農薬で、生産者が丹精込めて育てた安心・安全の豚肉や羊肉、放し飼いの卵、野菜を堪能できる生産農場、ファーマーズマーケットとして人気を集め、年間20万人が訪れると言います。

また、有機肥料センター「(株)若葉」も運営し、養豚場の排泄物やレストランから出る生ごみなどを集めて完熟発酵させたJAS(日本農林規格)認定の有機肥料を生産。その高品質の有機肥料を畑の土づくりに使用することで、循環型農業を実践しているのです。

人々の健康、自然環境を守る「未来の農業」はいかにして実現したのでしょうか。月刊『致知』2026年11月号「夢なき者に成功なし」では、橋本会長にArk館ヶ森の原点、ここまでの山あり谷ありの道のりをお話しいただきました。

「食はいのち」の理念は橋本家の食卓から

取材のきっかけは、志ネットワーク「青年塾」代表の上甲晃さんから、「志を実践している素晴らしい農場がある」とご紹介いただいたことでした。さっそく取材依頼をし、2026年8月半ば、上甲さんと共に、岩手県一関市へ。

〈100ヘクタール、野球場100個分の広大な敷地に広がるArk館ヶ森の全景〉

最寄りのJR一ノ関駅から車で約40分、谷を越え、川を越え、山道を登っていくと、開けた地にArk館ヶ森の広大な敷地に広がる牧場が見えてきました。あまりに雄大で美しい自然に編集部員も思わず感嘆の声を上げました。

現地では、橋本会長をはじめ、ご子息(次男)で専務の橋本友厚さん、社員の方々が温かく迎えてくださり、まず約3時間かけて施設内を案内してくださいました。橋本会長自慢のハーブガーデン、近年取り組み始めたというワインの原料となるブドウ畑、自然の中で伸び伸びと育っている羊や鶏たち。そして、完全無添加を貫くハム・ソーセージ工房、循環型農業の要となっている有機肥料工場など、Ark館ヶ森の魅力、ものづくりの哲学を見て、学ぶことができました。

牧場案内の後は、場所を自然食レストラン「ティルズ」に移し、対談取材へ。上甲さんが聞き役となり、Ark館ヶ森の原点に迫りました。

〈夢を追い続けた創業者の橋本輝雄氏〉

すべてのはじまりは、1971年、橋本会長が創業者・橋本輝雄さんとお見合い結婚をしたことでした。創業者のプロポーズの言葉は、「Open the door by my golden key(私の黄金の鍵で、あなたの人生のドアを開きましょう)」だったそうです。

日本一の養豚家を志していた創業者は、大学卒業後、獣医師の資格を取り、地元埼玉で小さな養豚場を創業します。その後、さらなる規模拡大を目指し、大学の恩師のご縁で現在の地に橋本ファーム岩手牧場を開設します。これが後のArk館ヶ森に繋がっていきます。

無添加・無農薬、安心・安全のものづくりに取り組みはじめた原点は、意外にも橋本家の食卓でした。当時のことを橋本会長は次のように振り返っています。

実は岩手に来るまでは、それほど強い関心はなかったんです。でも、藤沢町でまた一から事業を始めることになった時、私は家事・育児、会社事務、来客対応などの仕事に加え、新しく来てくれた高卒の若い社員たちの生活も見るようになったんですね。

当時、社員は寮生活をしていましたが、食事は家族と一緒でした。子供たち、食べ盛りの若者たちの三度の食事をつくり、楽しく食卓を囲む中で、私の料理が皆の心と体の健康をつくっていることを強く感じるようになったんです。

また、その頃、高度経済成長に伴う公害、農薬や化学肥料、食品添加物が及ぼす影響について社会的な関心が高まっていて、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』や有吉佐和子さんの『複合汚染』などを読み、勉強するようになったことも大きかったと思います。

ですから、アーク(Ark館ヶ森の運営会社)の理念「食はいのち」は「我が家の食卓から生まれた」とよく言っています。

夫も養豚家として「おいしくて安全性の高い豚肉をつくる」という思いを持ち、いろいろと熱心に勉強していましたから、お互い「食はいのちの源である」との考え方が自然と共通のものとなっていったんですね。夫はよく次のように語っていました。

「自分の愛する家族に安心して食べさせられるもの、そういうものだけをつくること。そうすれば、自信を持って、お客様に食べていただけるのだから」

愛する家族に安心して食べさせられるものだけをつくる。この思いは、私たちの理念に哲学としてしっかり受け継がれています。

日本が高度経済成長期を迎え、社会全体で経済性を優先していた時代風潮の中で、いちはやく「食はいのち」という理念を掲げ、実践していった創業者と橋本会長。しかしその道のりは決して平坦ではありませんでした。

挑戦に次ぐ挑戦の軌跡

一つの転機になったのは、1982年に岩手県藤沢町で400ヘクタールに及ぶ国営農地開発事業がはじまったことでした。創業者は、リスクを考慮しつつも、「広大な土地を利用して夢のある農業を実現する」との志を胸に、最初は5ヘクタール、後に100ヘクタールの国営開発農地を引き受けることを決断します。

とはいえ、引き受けた土地は、「山を削っただけのごつごつした岩が転がる赤土の荒涼とした土地」で、橋本会長は社員皆で協力して、少しずつ開墾、植樹をするところから取り組みをスタートさせたのです。

〈Ark館ヶ森で真心込めてつくられたブランド豚「館ヶ森高原豚」や 無添加無農薬のハム・ソーセージ・野菜、放し飼い有精卵〉

また同じ頃に、無添加の手づくりハム・ソーセージ事業にも着手し、本場・ドイツの職人を招聘するなどしながら、10年の試行錯誤の歳月をかけて、ようやく無添加シリーズの製造へと舵を切ります。しかし、賞味期限が短い無添加の商品を扱ってくれる事業者の方々の理解を得るのも大変で、「無添加の商品は扱わない」と言っていたお取組先様を説得できたのは、2023年だったと言います。すべてのハム・ソーセージを無添加でつくれるようになるまで約30年。志を実現するには根気が必要であることを創業者、橋本会長の実践は教えてくれます。

こうして徐々に現在のArk館ヶ森の姿ができあがっていくのですが、バイオマス発電の挫折、創業者の急逝、有機肥料の自社生産、循環型農業への挑戦など、橋本会長は創業者の志を継承し、二人のご子息、現社長の長男・普栄さん、次男・友厚さん、社員たちと共に、一丸となって様々な困難を乗り越えていきます。

対談後には、先述の自然食レストラン「ティルズ」にて、Ark館ヶ森でつくられた安心・安全の食材をふんだんに使った料理をいただきました。そのあまりの美味しさに、Ark館ヶ森の志、実践が本物であることを教えられました。全文はぜひ本誌でご覧ください。

~本記事の内容~
◇時代を先取りしたArk館ヶ森の実践
◇〝金色の鍵〟からすべては始まった
◇食卓から生まれた理念「食はいのち」
◇無添加、手づくりのハム・ソーセージへの挑戦
◇魅力ある場所に、必ず人は集まってくる
◇よりよい未来をつくる農業の方舟を目指して
◇試練を乗り越え、創業者の志を形に
◇志が道なきところに道を創る原動力になる

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