【第21回】佐藤勝人 快刀乱麻を断つ 仕事と人生に役立つ実践的問答 ——「ドラマ『白い巨塔』から学んだ真のリーダー像」

栃木県内に商圏を絞り、「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るサトーカメラ。同社副社長の佐藤勝人さんはビジネス書作家として12作目を出し、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」と情報発信を含め、全国各地の商工会議所で講演やセミナー、さらに企業や商店の現場へ出向いて個別支援をし、経営者育成塾「勝人塾」も主宰されています。

本連載ではそんな佐藤さんに、現代ビジネスマンから寄せられた悩みや胸の内の葛藤、さらには社会情勢までも「勝人節」でズバッと答えていただきます。

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ミイラ取りがミイラになった

いまさらながら、2003年版テレビドラマ『白い巨塔』をNetflixで鑑賞し、勉強させられました。権力や名誉欲に翻弄される天才外科医の財前五郎。人の命を無欲で救いつづける内科医の里見脩二。対照的な二人の生き様と、彼らを取り巻く人間たちの濃密なドラマを通して現代医療の持つ問題点、人間の愚かさと弱さ、人間の不可解さに迫っています。

財前五郎は悪で、里見脩二は善。そんな単純な見方では、この物語の本質は見えてきません。財前にも財前の正義があり、里見にも里見の正義がある。人間は誰もが、自分の置かれた前提条件の中で、「自分は正しい」と思って生きています。だから私は、どちらが正しいかではなく、「その正しさで、何を変えたのか」を見ます。

財前には圧倒的な医療技術と実績があり、さらに教授という権力まで手に入れました。私は、権力を持つこと自体が悪いとは思いません。組織を変えるには、組織を動かす権限が必要だからです。

人事を変える。制度を変える。教育を変える。仕組みを変える。古い慣習を壊し、組織構造そのものをつくり直す。正論を言っているだけでは、人も組織も動きません。改革には理念だけでなく、実力と権限、そして実行力が必要なのです。だからこそ財前には、大学病院を変えられる可能性があった。ところが彼は、権力を握って古い大学病院を変えるどころか、自分自身が古い権力構造に取り込まれてしまいました。

ミイラ取りがミイラになったのです。

最初は理想を実現するために権力を求めたはずが、最後には権力を守るために自分の人生を使うようになってしまった。組織を変えるために上に立つのではなく、上に立つこと自体が目的になった。これが財前の敗北です。

私はここに、マウントを取りたがる人と同じ構造を感じます。「人より上に立ちたい」「自分の凄さを認めさせたい」。そんな人に私はこう言います。「それなら、人の三倍勉強してみたらいい」。中途半端な知識と狭い経験の中にいるうちは、「自分は優秀だ」と周囲を見下すことができます。

しかし、本気で勉強し、仕事と真正面から向き合えば、世の中には、どうやっても追いつけないほど凄い人がいることに気づきます。しかも、そういう人ほど、さらに勉強し、さらに仕事をしている。そこで初めて、自分がどれだけ知らないかを思い知らされるのです。そこから先は、生き方の選択です。

自分より下だと思える人たちで周囲を固め、「俺は凄い」「俺が一番分かっている」とマウントを取り続けるのか。それとも、「上には上がいる」という現実を、自分の成長の入口に変えるのか。耳の痛いことを言う人を遠ざけ、自分を褒めてくれる人ばかりを集めれば、やがて裸の王様になります。財前の悲劇は、権力を持ったことではありません。学ぶことより勝つこと。自分を成長させることより、自分の正しさを証明することに夢中になったことです。

財前の権力に、里見の理念を入れろ

一方の里見は、患者を第一に考え、事実を曲げず、権力にも忖度しない。誰にも評価されなくても、自分の理念に従える強さを持っています。しかし、正しいことと、組織を変えられることは違います。目の前の患者は救えても、大学病院や医療界の構造までは変えられない。理念を持つだけでなく、その理念を制度や仕組みに変え、組織に根づかせる力が必要なのです。

会社経営も同じです。 理念だけを語っても、会社は変わらない。数字だけを追いかけても、会社はよくならない。現場で汗を流すだけでも、事業構造までは変えられない。市場を読み、数字を理解し、現場を知り、人を育て、仕組みをつくる。そして必要な時には、嫌われる覚悟を持って決断する。そこまでやって初めて、経営です。

私自身、現場で実績をつくり、人と組織を動かす力を求めてきました。しかし、権力を持つほど、自分の正しさを疑い、その権力を何のために使うのかを問い続ける理念が必要になる。権力を持つことが問題なのではありません。その権力を律する理念を失うことが問題なのです。

財前には、組織を動かす権力があった。しかし、その権力を律する理念を失った。里見には、揺るがない理念があった。しかし、その理念を組織を動かす力に変えるところまでは届かなかった。どちらかを選ぶ話ではありません。「里見の理念を持って、財前の権力を使う」。もっと乱暴に言えば、「財前の権力に、里見の理念を入れろ」ということです。

理念なき権力は、人も組織も壊します。しかし、実行力なき理念では、組織の構造を変えられません。上に立つことを目的にせず、「上には上がいる」を成長の入口に変える。そして手にした権力を、自分のためではなく、人と組織の未来のために使い切る。人を動かす前に、自分を律する。自分は何のために権力を求め、その権力を何のために使うのか。それを問い続けることが私自身への戒めであり、私たちが目指す「真のリーダー像」なのだと、改めて気づかされました。


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。 

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