美しい姿勢が心をつくる ——水戸徳川家の流れを汲む高松藩松平家の末裔、松平洋史子さんに学ぶ日本の心

徳川御三家の一つである水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔として生まれ、先人たちが受け継いできた日本の心、文化伝統の素晴らしさを人々に伝え続けている松平洋史子さん。この変化の激しい時代において、いかに日本人らしく、美しく優しく逞しく生き抜いていけばよいのか、その生き方のヒントを、松平家の教えを紐解きながら教えていただきました。

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挨拶に始まり、挨拶に終わる

<松平>

私の生き方に大きな影響を与えたのは、祖母・俊子(としこ)でした。祖母は明治23(1890)年、佐賀藩の侯爵・鍋島直大(なおひろ)の六女として生まれました。直大は駐イタリア特命全権公使などを務めた人物で、日本だけでなく西洋の一流を知り尽くした教養人、趣味人でした。また、明治天皇の信任も厚く、宮中の儀式を取り仕切る式部職(しきぶしょく)の長官を務めたこともあります。

その直大に育てられた祖母は、17歳の時に伯爵・松平頼寿(よりなが)の弟である松平胖(ゆたか)と結婚します。先ほども触れましたが、徳川将軍家に最も近い親族である徳川御三家(尾張徳川家・紀州徳川家・水戸徳川家)のうち、水戸徳川家の流れを汲むのが讃岐国高松藩松平家です。

つまり祖母は、鍋島家で西洋の一流を、嫁ぎ先の松平家で礼儀作法や質素倹約を重んじる武家の精神を身につけたのでした。

祖母は社会的にも活躍した人でした。例えば、「これからは女子の教育が必要だ」と、昭和女子大学の前身の日本女子高等学院が設立される際、世田谷の土地を払い下げるなどの支援を行いました。

そして創立者の人見東明(ひとみ・とうめい)氏に招かれて校長を務め、その時に松平家に伝わる作法を「松平法式」として女子教育に取り入れ、女性が美しく逞しく生きていくことの大切さを伝え続けました。

そんな祖母から教わったことはたくさんありますが、松平家で最初に教わるのが姿勢です。武士道には「型から入って心に至る」という言葉があるように、姿勢を正せば心も変わる、物事の本質が見えるのですよと、子供の頃から言われました。

食事の時、子供たちの姿勢が崩れると、祖母や母が背中をぽんぽんと叩く。すると、背筋がぴんと伸びる。そういうことを繰り返しながら、自然に美しい姿勢を身につけていくのです。

皆さんは、会議の席などで人の話に耳だけ傾けてうつむいていることはありませんか。試しに姿勢を正してみてください。視野が広がって、周りの人の様子や話している人の表情が分かり、「この人はこんなふうに考えていたんだ」と、それまで見えなかった世界が見えてくることでしょう。

また、姿勢を正せば見た目も美しくなり、張りのある美しい声も自然に出るようになるもの。背を丸めていては見えるものも見えなくなり、目の前の幸運も逃げてしまいます。よき人生の第一歩は姿勢を正すことから始まるのです。

姿勢が真っ直ぐになれば、次は挨拶です。松平家では「挨拶に始まり、挨拶に終わる」と言われて育ちます。多くの人は頭を下げることが挨拶だと思っているのではないでしょうか。しかし、松平家では「いまからあなたとお話をします」と、相手を自分の懐(ふところ)にお迎えすることだと教わるのです。

挨拶の言葉を告げて頭を下げたあと、自分の胸元の広がりを感じながら相手を懐に迎えるようにゆっくりと頭を上げていきます。懐をつくると、自然と姿勢もよくなり、表情も明るくなりますし、相手もちゃんと自分を受け入れてくれたのだと安心してくれます。

★本記事は『致知』2024年3月号「丹田常充実」掲載記事の一部を抜粋・編集したものです。

◎松平さんの記事には

・先人の教えは生きた哲学

・丹田を鍛えて芯をつくる

・おもてなしの神髄は残心にあり

・文武両道を修めてこそ一流

など、徳川260年の歴史の中で培われた日本文化の神髄、丹田を鍛えて自らの人生・仕事を力強く切り拓いていく心得が満載です。ぜひ全文をご覧ください。詳細はこちら

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◇松平洋史子(まつだいら・よしこ)

京都府生まれ。水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔。幼少期より厳しい教育・躾を受けて育つ。国立音楽大学教育学部在学中に結婚。大日本茶道協会会長、広山流華道教授、茶懐石・宋紘流師範等を務める。祖母・松平俊子がまとめた松平家に代々伝わる生き方教本『松平法式』を受け継ぎ講演会を行う。また、場所を選ばずお点前ができる茶箱「I for You・宙」を考案し、茶道に流れる日本の心を国内外に伝える活動にも力を尽くしている。著書に『松平家 心の作法』『松平家のおかたづけ』(共に講談社)『一流の男になる松平家の教え』(日本文芸社)などがある。

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