2026年08月30日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
2作で40万部を超える大ベストセラーとなった、「1日1話シリーズ」の第3弾『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』。本日は、致知出版社社員が選んだ、イチオシの一日一話をご紹介いたします。第三回は、書籍営業部員・Sのイチオシです。
(本記事は、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』から一部抜粋・編集しています)
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一生を一日として計算しなさい
1月4日
意識だけは教えることができないんです。これだけは人が変えてあげることはできないと思います。
あとは素直に人の話を聞くことですかね。私は割と先輩方に可愛がられ、厳しくされた覚えがないんです。通りすがりの先輩に、「おまえ、その襟の合わせじゃだめだよ」「裾がこれじゃだめだよ」「頭はこうだよ」「顔の仕方がこうだよ」って皆さんよく言ってくださったんですよ。それは明くる日、すぐ直しました。
これはうちの養父の教育がそうでした。守田の祖父(十三代目守田勘彌 )が草履の紐が解けたまま花道から出ていく役があったんですって。それを通りすがりの端役の俳優さんが「旦那、草履の紐、解けてますよ」と言ったので、「あ、そう。ありがとう」と言って、その場で結わいて、直前に解いて舞台に出て行った。それを見ていた養父が後で「お父さん、なぜあそこで結わいたのですか」と聞いたら、「〝これは解けているもんだよ〟と言ったら、その人は何かあっても二度と教えてくれないだろう。〝ありがとう〟と言って聞かなきゃいけない」と。そのように養父が何度も語っていたことを思い出します。
いまの私をつくったのは出会いです。私は恵まれた人間でした。ゼロのところから、こんな光の当たるところにまで連れてきていただいた。それは本当に稀な人生だと思います。これは運命です。私の努力とは関係ない。努力は私以上にしている人はたくさんいます。努力が報われた、なんて一切思っていないです。
運命とは、逃れられないもの、決まっているもの、です。運命は変えられない。でも、解釈を変えることはできるでしょう。私が小さい時に体が弱く、小児麻痺になったというマイナスのカードを持っていたことは不運であったともいえますが、それが歌舞伎への道へ導いたと考えると、幸運だったともいえます。
同じようにいまは豊かで便利な時代になりましたけど、これから生きていく人は気の毒かもしれません。不幸であることも深く感じない代わり、幸せも薄いでしょう。よくも悪くも人生観が薄いということかもしれません。ただ、こんなことを言いながら私は意外と楽天的なので、日本の若者にも歌舞伎の将来にも絶望はしていないんです。私はこのところずっとこう思っています。こういうものって、飛び火すると。
直に会っていないのに伝わることってあるんです。逆に直に伝えたがために伝わらないこともある。私が先人から教えていただいた歌舞伎の精神のようなものが、いつかどこかで誰かに飛び火して、オン・オフの時代にも飽き足らず、道を求める若者が出てくるんじゃないかって。
だから、私はいま自分がしっかり生きていくことだって思っています。もうそれしかないです。残された時間が短いですから。私があと二十歳若ければ全国各地飛び歩いて指導することもできるでしょうけれど、それはもうできません。飛び火することを祈って、きょうに最善を尽くし、行き届いた時間を過ごすしかないんです。
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