【取材手記】QRコードと世界一の顔認証技術はいかにして生まれたのか——原 昌宏×今岡 仁

~本記事は月刊誌『致知』2026年9月号 特集「めざすものを持つ」に掲載の対談(QRコード・顔認証 世界標準はかくして生まれた)の取材手記です~

技術開発の最前線を走り続ける一流技術者が相まみえる

ここに、現代社会に欠かせない技術を生み出した2人の日本人技術者がいます。

大容量の情報を迅速かつ正確に読み取ることができる二次元コード「QRコード」。コンビニや飲食店を筆頭としたあらゆる場所で使われ、情報社会に一大革命を起こしたこのコードを2年間に及ぶ苦闘の末に開発した原 昌宏さん。

スマホのロック解除、空港の入国審査、テーマパークの入場ゲートをはじめ、様々な場所で安全・安心な社会の実現に貢献する顔認証技術。生体認証の分野では後発だったNECの顔認証技術を世界一の認証精度へと押し上げた今岡 仁さん。

QRコードも顔認証も、いまや世界中に普及し、日常生活で見ない日はないでしょう。しかしながら、世界標準の技術がどのような思いで開発されたのか、どのような苦境を乗り越えて今日の発展に至っているのか、意外と知られていないかもしれません。

世界標準の夢に挑み続けた両氏が語り合う挑戦の軌跡、人生・仕事の流儀とは――。

月刊『致知』最新号(2026年9月号)特集「めざすものを持つ」の締め括りに、原 昌宏さんと今岡 仁さんの対談記事が掲載されています。対談のタイトルは「QRコード・顔認証 世界標準はかくして生まれた」です。

どん底からの逆転劇に心震わされ

2025年8月と2025年11月、あるTV番組が放送されました。『新プロジェクトX~挑戦者たち~』の「QRコード誕生~夢路に咲いた世界標準~」と「マイクロソフトに挑んだ男たち~顔認証システム、世界一へ~」。そこで紹介されたQRコードと世界一の顔認証技術の開発秘話に編集者が感動したことが、今回の対談が実現した原点です。

いったい何がそこまで感動を誘ったのか。それは、共に大手企業の片隅で開発に着手し、時に周囲から「そんな技術が役に立つのか」「無謀だ」と冷笑されながらも、困っている現場の方々を救いたい、よりよい世界をつくりたいというビジョンに向かって、決して諦めることなく愚直な努力を積み重ね、実用的な最先端技術を生み出したからです。

この2つの技術を開発した立役者こそ、デンソーウェーブ エッジプロダクト事業部主席技師の原 昌宏さん、NECフェローの今岡 仁さんです。技術開発の最前線を走り続けてきた一流技術者が語り合う人間学談義に、ぜひ耳を傾けたい。そう思い至り、取材依頼を行いました。

とはいえ、弊誌で事前に調べた限りでは、お二人に親交は見当たりませんでした。お受けいただけるだろうか。一抹の不安はありましたが、その心配は杞憂に終わり、ものの数日で両氏からご快諾の連絡が入り、今回の対談が実現する運びとなりました。

対談取材は7月上旬、都内ホテルにて行われました。なぜお二人は快く今回の対談を引き受けてくださったのか。その答えは、対談冒頭にすべて凝縮されています。

〈今岡〉
実は、原さんとは今年3月に初めてお会いしたばかりなんですよね。

〈原〉
ええ。日本科学未来館で行われた「友技の会」が最初でした。

〈今岡〉
友技の会は、技術開発の最前線を走る者同士が情報を共有する場として、僕が2年前に立ち上げたコミュニティです。TOTOフェローの北角俊実さんやIBMフェローを務められていた浅川智恵子さんをはじめ、錚々たる方々が集って年4回ほど会議を開いています。

会を重ねる中でもう少し人数を増やしたいと思った際、真っ先に頭に浮かんだのが原さんでした。QRコードを開発した偉大な技術者にいつかお会いしたいと思っていましたから。そうしたら、北角さんが「知っているよ」とすぐに紹介してくださいました。

〈原〉
僕も以前から一度お目にかかりたいと思っていたので、喜んでお引き受けました。

〈今岡〉
原さんの第一印象は、とにかく謙虚のひと言に尽きます。革命的な発明を成し遂げた人ですから、勝手にギラギラした人を想像していました(笑)。ところが、実際に話をすると威張ったり、実績をひけらかしたりする素振りが一切ない。本当にすごい人だなと。

〈原〉
いやいや、とんでもない。QRコードと顔認証は、技術的には画像認識の分野で共通しています。だから、世界トップの地位を維持する難しさが分かるんですよ。開発でストレスが溜まる分、きっと気難しい人なんだろうなと思っていたら、いまのようなソフトな語り口調で非常に接しやすい。すっかり意気投合して、会議の後に2人で飲みに行きましたね。

〈今岡〉
そこから今回の対談の機会までいただけて、大変光栄です。

「こちらに同じ波長の電波を持ち合わせていなければ、良き師や友との出会いは成立しない」

お話を伺う中で脳裏を過ったのは、93歳のいまなお修行の日々を送っている禅の高僧、青山俊董さんの言葉です。お二人は同じ波長を持ち合わせていたからこそ、運命の邂逅を果たされたのでしょう。そしてこのタイミングで弊誌が対談企画を組めたことも、ご縁の尊さを感じずにはいられませんでした。

そこから2時間に及び、QRコードと世界一の顔認証技術の開発に至る道のりを振り返っていただきました。本記事では全10ページにわたって、そこで語られた内容を一つひとつ詳らかに紹介しています。

 ↓対談内容はこちら!

◇技術開発の最前線を走り続けて
◇「蒔かぬ種は生えぬ」
◇パズルと山登りに明け暮れた学生時代
◇現場体質の原点
◇退路を断って挑んだ2年間の勝負
◇32歳で踏み入れた顔認証の世界
◇泥臭い努力で掴んだ世界の頂
◇QRコード誕生秘話
◇あえて捨てて、陣地を広げる
◇世界で勝ち続けるために心懸けた3つのこと
◇人間万事塞翁が馬 夢なき者に成功なし

何としても夢を実現させると肚を括り、一歩ずつ前進し続けるバイタリティー

お二人の共通点は、僅か2名の少数精鋭のチームで開発に従事したこと、徹底した現場主義をはじめ、枚挙に遑がありません。中でも筆者が心を動かされたのは、何としても夢を実現させると肚を括り、一歩ずつ前進し続けるバイタリティーです。

原さんは大手自動車部品メーカーのデンソーでバーコードリーダーの開発に携わる中、多品種少量生産へのシフトに伴う現場の課題に直面。従来のバーコードでは膨大な情報を処理できず、作業者がいくつものコードを1個ずつ読み取らなくてはいけない問題を改善するため、大容量かつ高速で読み取れる新しいコードの開発を志しました。

「新しい情報コードの開発を専任でやらせてほしい」。そう上司に直談判しましたが、1回目は「こんなもんビジネスにできるんか」と、あっけなく断られたといいます。それでも、原さんは決して諦めませんでした。

10年間バーコードの認識技術で経験を積んでいましたし、情報化が進めば、これは人生を懸けて勝負する価値があると確信していました。もしうまくいかなかったら会社を辞める覚悟で「僕一人でも構いません。2年間だけ専念させてください」と啖呵を切ったんです。

ここで退路を断って勝負できれば本望だという覚悟で上司を説得し、後輩の渡部元秋さんと2人で開発チームを結成した原さんは、2年間でいかにしてQRコードを開発したのでしょうか。その全貌は本対談に余すところなく紹介されています。

一方の今岡さんは大学卒業後に大手電機メーカーのNECに入社し、脳の視覚情報処理に関する研究に携わりました。ところが、なかなか成果の出ない脳研究のプロジェクトは5年で凍結し、今岡さんは32歳の時に門外漢だった顔認証の部署に配属されました。

当時は顔認証技術の黎明期で、指紋認証の精度が99.9%を誇る中、顔認証の認証率は70%程度。社内からの期待も薄れ、10人弱だったチームのメンバーは次々と異動になり、気づけば今岡さんと新人の2人だけが残されました。強い挫折感を味わい、転職も考えていたという今岡さんを変えたのは、先輩の愛ある叱責でした。

「君は逃げ出すのか?」

そのひと言で、ハッと我に返りました。性能は着実に上がってきていましたし、我々の技術を求めている人たちもいる。だからこそ、ここで投げ出してはいけない。立ちはだかる高い山を一所懸命、徹底的に登り切ろうと覚悟を決めました。本気で肚を括ったのは、この時だったかもしれません。

途中で投げ出すことなく、大きな壁をじっくりと、一歩ずつ進んでいく。泥臭い作業を繰り返して認証精度を高め、米国国立標準技術研究所が主催するベンチマークテストにおいて、NECの顔認証技術を5回の世界一に導くことができたのも、徹底的に立ち向かう覚悟を決めていたからでしょう。

最後に、お二人のお話の中でとりわけ心に響いた言葉を紹介します。

〈原〉
僕には好きな言葉が2つあります。1つはかつて近鉄バファローズで300勝投手になった鈴木啓示選手の座右の銘「草魂」です。苦境に立たされても、雑草のように根気強くやり込む。

そしてもう1つは、吉田松陰の遺したとされている「夢なき者に成功なし」という言葉です。

人間は夢を持っているからこそ様々なことにチャレンジできます。目標を究極の高いレベルに置いて追求していく姿勢が思いがけない進化、ブレイクスルーに繋がる。これがかすかな光を信じ抜き、夢に挑み続けてきた僕の実感です

〈今岡〉
僕が世界で勝ち続けるために、アルゴリズムの改良に当たって心懸けたことは主に3つあります。1つは、進化の流れを読むこと。世の中の流れを把握し、5年後、10年後にどんな世界になっているのかを常に考えながら開発に取り組んでいます。

2つ目は、細部にこだわること。どんなに些細なことでも決して疎かにしてはいけない。

そして3つ目は、やるべきことを怠らないこと。顔認証の場合はデータ収集や課題の洗い出しに力を注ぎ、充実したデータベースづくりを面倒臭がらずに丁寧に取り組むことです

原さんと今岡さんが成功に至るまでの道程から、ビジョンを貪欲に追求していく姿勢が運命を開く鍵になることを教えられます。ぜひ本誌の対談記事をお読みください。

▼詳細・お申し込みはこちら

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる