「過去は変えられなくても未来は変えられる」——出所者を雇い続ける廣瀬伸恵さんの願い

栃木県に拠点を置く建築会社「大伸ワークサポート」。同社はこれまで80人以上の出所者を雇用するなど、出所者雇用を積極的に行ってきました。社長の廣瀬伸恵さんは多発するトラブルに見舞われながらも、なぜ出所者雇用を続けるのでしょうか。ご活動に懸ける思いを語っていただきました。

会社ではなく大家族を目指して

──廣瀬さんは出所者を多く雇用されているそうですね。

〈廣瀬〉
私たち大伸ワークサポートは栃木県栃木市に拠点を置き、土木工事や建造物の解体工事業を請け負う建築会社です。約40名の社員のうち7~8割が刑務所や少年院での服役経験者で、薬物の売買や傷害、詐欺など犯罪歴は千差万別です。2018年には協力雇用主(犯罪歴を抱える人を積極的に雇用して再出発を助ける民間事業主)に登録し、これまで80人以上の出所者を雇用してきました。

悲しいことに前科者を受け入れる会社はまだまだ少なく、更生を志すも社会から拒絶された結果、再び犯罪に手を染めるケースが後を絶ちません。実際、日本の再犯率は約5割と非常に高くなっています。そういった人たちの受け皿になれればという一心で活動を続け、いまでは出所者の駆け込み寺のようになっています。

──出所者を雇い入れるのはご苦労も多いのでは?

〈廣瀬〉
トラブルは日常茶飯事で、まさに涙あり、裏切りありの毎日です。社員が突然逮捕されたり、暴力団の恨みを買い、自宅の窓ガラスを割られたこともあります。私が菓子折りを持って謝罪に駆けつけるような事件が1週間に1度のペースで起こるほどです。

それでも、私たちは営利企業としてしっかり業績を上げることができています。それは創業から13年が経ち、過去を包み隠さず打ち明けられ、皆が自分らしくイキイキと働ける社風ができあがっているからです。社員寮を完備し、出所後間もない社員も安心して働ける環境を実現する他、私の自宅を開放し、毎晩社員と食卓を囲み、くだらないことで笑い合う些細なひと時を大切にしているんです。

現に、社員から社長と呼ばれることは少なく、ママやマミーと呼ばれ、まるで大家族のような間柄です。社員の子供や彼女を連れて社員旅行に出掛けることもあるんですけど、それが私にとってこの上ない幸せなんです。

──過去に囚われず、雇用関係を超えた絆を育まれているのですね。

〈廣瀬〉
ええ。この活動の背景には私の過去が大きく関係していて、私も二度の服役経験があるんです。

◉廣瀬さんが出所者雇用を続ける背景には、ご自身の壮絶な過去がありました。

本記事では「寂しさが誘った過ちへの道」「決して見捨てたり見放したりしない」等、廣瀬さんの過去、出所者雇用に取り組むきっかけとなったある青年との出逢い、出所者を更生に導く秘訣についてお話しいただきました。

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(本記事は月刊『致知』2023年10月号連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋・編集したものです)

◇ 廣瀬伸恵(ひろせ・のぶえ)
昭和53年栃木県生まれ。平成8年18歳の時にレディース暴走族「魔罹啞」を結成、初代総長になる。覚醒剤の売人として2度服役。 29歳での獄中出産を機に更生し、22年大伸興業設立、24年大伸ワークサポート創業。30年刑務所の出所者を雇い入れる協力雇用主に登録。これまで80人以上の出所者を雇用している。

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