【取材手記】津波で会社の9割を失い、半年で被災地に光を灯した社長の「生きる理由」(かわむら・川村賢壽会長)

~本記事は月刊『致知』2026年9月号特集「めざすものを持つ」に掲載のインタビュー(死に方は選べなくても、生き方は選べる)の取材手記です~

東日本大震災15年の節目に

2011年3月11日14時46分。三陸沖で発生した大地震によって、東北地方、特に太平洋沿岸は、それまでの景色が一変するような津波に襲われました。

その後、3月が来るたびに鎮魂が叫ばれ、15年が経ちましたが、いまも現地の皆さんが負った悲しみや苦しみは癒えたとは言えません。

そうした中で、月刊『致知』2026年6月号の「致知随想」に登場された田中敦子さん(映像プロダクション SORA1代表)と出逢いました。

田中さんは、創設間もない円谷プロダクションで空想特撮シリーズ「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」にスクリプターとして参画した業界の伝説的人物です。独立数、フリーで数多くのドラマやドキュメンタリー、CMを手掛けますが、2011年の震災の惨状を目の当たりにして〝震災の記憶は映像に残さなければ、風化して消えてしまう。それでは誰も教訓を得ることはできない〟との思いから、翌月被災地入り。苛酷な撮影環境のなか、自分の貯金を切り崩しながら、壊滅的被害を受けた水産加工業者ほか現地企業の密着取材を続け、復興の軌跡を追ってこられました。

実に15年をその活動に投じてきた田中さんが、考え方や生き方がとりわけ素晴らしいとお話しされていたのが、宮城県気仙沼市の水産加工業「かわむら」の川村賢壽(けんじゅ)会長その人でした。

どんな方なのかと気になって調べてみたところ、驚きました。三陸の海岸に面した気仙沼市と、隣の岩手県陸前高田市に工場や事務所を展開する「かわむら」グループは、津波によって計27か所あった拠点のうち25か所が流失・壊滅していました。

しかし、どちらの町も会社や民家が瓦礫の山と化し、行方不明者の捜索が終わらない状況だったにもかかわらず、川村会長は事業再開を決断、何と半年後の10月1日には複数の工場を再建して光を灯しています。それはまさに、現地の住民の皆さんにとっても希望の光だったに違いありません。

こんな方がいらっしゃったのか――。その感動がまず湧いてきました。

そうして取材のご依頼をしたのは4月、ワカメ漁の繁忙期とあってその時は叶いませんでした。それでも、川村会長のご体験や言葉をお届けしたく考え、時期を開けて再びご連絡したところ、何かを感じてくださったのかご快諾いただけることとなりました。

取材当日のJR気仙沼駅

一生悔やみ続ける人生か、失敗しても悔いなく死ねる人生か

取材は7月頭に行いました。気仙沼市街までは、東京から片道5時間ほど。最寄りのJR気仙沼駅から先は線路が津波の被害を受けて撤去されており、代行バスでの移動となりました。

そうして辿り着いた川村会長が経営するグループ会社である「加和喜(かわき)フーズ」本社は、水産加工業者が集うという周辺の景観を見てもひときわ存在感を放っていました。

到着してしばらくすると、川村会長が現れ、移動の労をねぎらってくださり、途中の通路に飾ってあった震災前と現在の比較パネルの説明をしてくださいました。被害を受けた各工場や事務所の写真で当時の惨状を見ていくと、それだけで易々と「もう一度頑張ろう」とは思えませんでした。

津波で壊滅した25施設のうちの1つ、岩手第一工場の惨状

しかも、それが25か所……。川村会長は2011年、62歳になる歳だったとのことですが、当時の心境はどうだったのでしょうか。

〈川村〉
私は生ワカメ・生コンブを主に扱う「かわむら」と、鮭やイクラを主に扱う「加和喜フーズ」、冷蔵庫の「冷水」の計3社を経営していましてね。社員は全体で270人ほど。電話が通じない中、10日かけて情報を集めました。

結果、残念なことに3社のうち一人だけ、若く真面目な社員が犠牲になりましたが、彼以外は全員無事でした。普段から県の研修会を受けて、津波を想定した訓練をしていた成果だと思います。

ところが、本社を含め、27あった事務所や工場のうち25か所が壊れていました。加えて、40億円分の在庫もダメになってしまいました。

正直、「これはもう無理だな」とも思いましたよ。居てもたってもいられず、毎日3時に起きては瓦礫の山になった気仙沼の本社跡や、工場のあった岩手の陸前高田の町を見て歩いてね。何度歩いても、何も残っていませんよ。

普通であれば、何十年と力を注いで培ってきた事業とその基盤となる地域自体が、還暦を過ぎて壊滅してしまったとなれば、絶望してもおかしくありません。また、それを責める人は誰もいないはずです。

けれども、次のような言葉を伺い、その覚悟の深さに言葉が出ませんでした。

〈川村〉
でも、3月の下旬、私は結論を出しました。

人は誰でも、死に際に横たわって、人生を振り返ると言うでしょ。ここで会社を畳(たた)んだら、朝目覚める度に「もう一度やればよかったかな」と悔やみ続けることになる。それでは生きている価値がないですよ。

たとえ潰れたって、挑戦したなら、死に際に「悔いはない」と言い切れる。そうしたら最高の人生じゃないかと。それで、再開を決めたんです。

会長は二十歳で事業を興し、実に40年この道一筋に歩んでこられました。だからこそ、そこでやめてしまえば、何もなかったのと同じになってしまう、ということを何度もおっしゃいました。そうなればきっと、「やっておけばよかったかな」と毎朝目が覚める度に考え続けることになる。ある意味、生きているようで死んでいる人生になってしまうということです。しかし、たとえ失敗しても、挑戦した結果であれば「悔いはない」と言って死ぬことができる――。それが、会長の出した結論でした。

あの極限状態で、誰もができる決断ではないでしょう。再開すればより大きな負債を背負うリスクもあったと思います。学ぶべきことの一つは、そういう苦しい境遇でも、自問自答を繰り返し、納得できる人生の道を自ら選んで、前に進まれたことではないかと感じます。

幾重にも立ち塞がる壁との闘い

再開の決断は大変重いものだったと言えますが、現実には幾重にも壁が立ち塞がっていました。

第一に、生産能力の復旧の問題です。工場の掃除、瓦礫の撤去をしていると、ご遺体が見つかることもあったそうです。幸いに社員は無事だったとはいえ、9割の拠点が稼働停止に陥っている以上、何とかそれを立て直さなければなりません。

ところが、ただでさえ地元の建設業者は被災し、働き手も他の地域に避難するなどして流出していました。そこに各地から建設の要望が入ったことで、当時は残った近隣の業者が手いっぱいとなり、建築資材も異常に高騰したといいます。

ただ、それでも川村会長は社員の皆さんと共に、岩手の盛岡まで縁を辿り、さらに北海道までネットワークを繋げていきます。そうして遂に、引き受け手となる業者を見つけ、まだ港の堤防の再建も終わらない半年のうちに稼働再開を実現するのです。

その一部始終について、詳しくは本誌をご覧いただきたいですが、そこには社屋の建て直しによって大きな負債を抱え込むリスクがありました。しかし、まさに『致知』の前号(8月号)で紹介した「時務を識る者は俊傑に在り」という言葉のように、いま何を優先すべきか、どんな判断をすべきかという〝時務〟を見極め、腹を括って突き進まれたところに、川村会長の胆力を見る思いがします。

さらに驚くのは、自社の立て直しでさえ大変な中にあって、翌年、地元の水産加工業者を束ねて「気仙沼鹿折加工協同組合」を設立されたことです。これによって、一面瓦礫の山となった地域の復興を加速させ、日本国内はもとより海外に向けて「三陸ブランド」を発信し、実際に人気を獲得してこられました。

〈川村会長が理事長を務める気仙沼鹿折加工協同組合〉

実は、川村会長は徒手空拳で創業された若い頃から、人と群れること、名ばかりの組合活動というものを好まず、距離を置いてこられたそうです。震災までは、周囲の同業者とも積極的にコミュニケーションを取ることもなかったといいます。

けれども、この非常時にあって、生き残るという必須のミッションのため、復興計画から取り残されそうになった気仙沼を立て直すため、自ら同業者に声をかけて回られました。「震災前と同じ考え方では、生き残れない」。自分の性格や好き嫌いにあぐらをかかず、有事の際には「君子豹変す」で即断即行する。これも肝に銘じたいリーダーの在り方です。

最後に、インタビューで心に残った言葉を紹介します。

川村〉
ありがたいことに、私は人生に一つも悔いはない。これからも自然体で、水産都市気仙沼の復興に尽くして、「生き切った」と言って死ねたら、最高だなあ。

奇しくも今年は、東日本大震災15年、熊本地震10年の節目であったかと思えば、7月に熊本で再び大地震があり、目下復旧の取り組みが行われています。

人間、何が起きても、その状況の中で生き方は自分で選ぶことができる。震災で被害に遭われた方が一刻も早く安心できる環境に戻れることを祈念しますと共に、この記事が何らかの力になれば幸いです。

~本記事の内容~
◇築き上げたものを一瞬で押し流されて
◇二流だからこそ進化できる
◇先が見えない暗闇で腹を括ること
◇会社の生命線を何が何でも守る
◇一人ではなく、組合で本当の復興を目指す


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