あなたはここまで人を許せますか? ——のらねこ学かん・塩見志満子の壮絶な人生体験

愛媛県西条市に「のらねこ学かん」という知的障碍者のための通所施設があります。ここを自費で運営し、ハンディのある人たちの人生の花を開かせている塩見志満子さん。そんな塩見さんの人生は、まさに試練に次ぐ試練の連続でした。壮絶かつ感動的な人生体験、そこから掴まれた信条を学ぼうと、いま全国各地から講演の依頼が舞い込んでいます。掲載当時大反響をいただいたインタビューをご紹介します。

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白血病で失った長男

──そこから学かんの立ち上げまではどのように進むのですか。

〈塩見〉
一つのきっかけとなったのは私が38歳の時に、小学2年生の長男を白血病で失ったことです。白血病というのは大変な痛みが伴うんですよ。「痛い、痛い」と叫ぶと脊髄から髄液を抜く。そうすると痛みが少し和らぐ。それを繰り返すわけですよ。ある時、長男はあまりの痛さに耐えかねて、そんなこと言う子じゃないんですが「痛いが(痛いぞ)、ボロ医者」と大声で叫んだんです。主治医の先生は30代のとても立派な方で「ごめんよ、ボク、ごめんよ」と手を震わせておられた。長男はその2か月半後に亡くなりました。

49日が済んだ後、主人と2人、お世話をかけたその主治医の先生に御礼を言うために病院に行きました。ところが、いらっしゃらないんです。聞いてみたら、長男が死んだ後、「僕は小児がんの研究をするためにアメリカに渡る」とすぐにその病院を辞められたと。私たちは「ボロ医者」という長男の一言が、この先生をいたく傷つけたかもしれないと思うと申し訳なさでいっぱいでした。

後で知ったのには、その先生は10年間アメリカで小児がんの研究をした後、小児がんの権威となり日本の国立小児病院に帰ってこられたそうです。いま思い出しても本当に素敵な先生でしたね。

──そうでしたか。

〈塩見〉
長男が小学2年生で亡くなりましたので、4人兄弟姉妹の末っ子の二男が3年生になった時、私たちは「ああこの子は大丈夫じゃ。お兄ちゃんのように死んだりはしない」と喜んでいたんです。ところが、その二男もその年の夏にプールの時間に沈んで亡くなってしまった。長男が亡くなって8年後の同じ7月でした。

「この子は心臓麻痺で 死んだことにしとこうや」

〈塩見〉
近くの高校に勤めていた私のもとに「はよう来てください」と連絡があって、タクシーで駆けつけたらもう亡くなっていました。子供たちが集まってきて「ごめんよ、おばちゃん、ごめんよ」と。「どうしたんや」と聞いたら10分の休み時間に誰かに背中を押されてコンクリートに頭をぶつけて、沈んでしまったと話してくれました。

母親は馬鹿ですね。「押したのは誰だ。犯人を見つけるまでは、学校も友達も絶対に許さんぞ」という怒りが込み上げてくるんです。

新聞社が来て、テレビ局が来て大騒ぎになった時、同じく高校の教師だった主人が大泣きしながら駆けつけてきました。そして、私を裏の倉庫に連れていって、こう話したんです。

「これは辛く悲しいことや。だけど見方を変えてみろ。犯人を見つけたら、その子の両親はこれから、過ちとはいえ自分の子は友達を殺してしまった、という罪を背負って生きてかないかん。わしらは死んだ子をいつかは忘れることがあるけん、わしら2人が我慢しようや。

うちの子が心臓麻痺で死んだことにして、校医の先生に心臓麻痺で死んだという診断書さえ書いてもろうたら、学校も友達も許してやれるやないか。そうしようや。そうしようや」

私はビックリしてしもうて、この人は何を言うんやろかと。だけど、主人が何度も強くそう言うものだから、仕方がないと思いました。それで許したんです。友達も学校も……。

──普通の人にはできないことだと思います。

〈塩見〉
こんな時、男性は強いと思いましたね。でも、いま考えたらお父さんの言うとおりでした。争うてお金をもろうたり、裁判して勝ってそれが何になる……。

許してあげてよかったなぁと思うのは、命日の7月2日に墓前に花がない年が1年もないんです。30年も前の話なのに、毎年友達が花を手向けてタワシで墓を磨いてくれている。もし、私があの時学校を訴えていたら、お金はもらえてもこんな優しい人を育てることはできなかった。そういう人が生活する町にはできなかった。心からそう思います。


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(本記事は月刊誌『致知』2014年7月号 特集「自分の花を咲かせる」から一部抜粋・編集したものです

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◇塩見志満子(しおみ・しまこ)
昭和11年愛媛県生まれ。日本女子体育大学卒業後、東京都立中学校教師、愛媛県立高校教師、同養護学校教師を歴任。教員を退職後、平成3年に自宅横に知的障碍者が集える「のらねこ学かん」を設立。講演を続けながら、その運営に当たる。

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