【追悼】「銀座マツナガ」創業者・松永巳喜男が次の世代に遺したメッセージ

支店や姉妹店を国内外22店舗に構える高級理容店・銀座マツナガの創業者・松永巳喜男氏がお亡くなりになりました。中学卒業後、理容師の修行に入り、27歳で独立を果たしてから、50年以上理容の道一筋に生きた松永氏。生前のご厚情に感謝を表し、松永氏が『致知』で語った「銀座マツナガ」創業秘話と、後から来る世代へのメッセージをお届けします。
(本記事は『致知』2017年5月号連載「20代をどう生きるか」より一部を抜粋・編集したものです)

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常に全力を尽くすことで道が開けた

理容業界で成功を収めている大先輩はどのような歩みを辿ってきたのか。当時そういう本があったわけではないが、自分なりに研究をしていくと、どうもお客様の支援で独立を果たしているケースが多いことに気づいた。

23歳で上京したのは、大阪より東京のほうがさらにチャンスが広がるのではないかと考えたからである。どの店に就職するかもよく思案した。新潟で4年、大阪で3年、もうこれ以上勉強することはないくらい修業を積んだ自負があった。ゆえに、自分の実力を存分に発揮できるところへ行きたいと思い、あえて有名店を避けて新規開業の店を選んだ。

すると、どうだろう。就職して僅か2~3か月で私に目をかけてくださるお客様が現れたのである。そのお客様は店の主人のお客様で、私はアシスタントとして、カットした後のシャンプーやシェービングを担当していただけにすぎない。にもかかわらず、私に目をかけてくださったのはきっと私の誠意が伝わったからだろう。

その人間がどんな気持ちでシャンプーやシェービングをしているかは、10本の指先をとおして必ずお客様に伝わる。要するに、髪の毛の洗い方や顔の剃り方一つに、その人間の心の状態や人間性がすべて現れるのだ。私は限られた時間の中で自分ができる最高のものをとことん誠実にやること、お客様に小さな感動を味わっていただくことを、2人の師匠から徹底的に叩き込まれてきた。そこを買ってくださったのだと思う。

「きみ、将来自分の店を持ちたいんだろう」

「はい。そのとおりです」

「じゃあこれから毎月、私の言う銀行に貯金しなさい」

この言葉に、私は腹を決めた。当時婚約中だった妻の賛同を得て、自分の給料を開業資金として全額貯金し、妻の給料で生活費をやりくりした。四畳半一間のアパートに引っ越し、基本的に外食せず、妻が仕事と両立して食事をつくってくれた。ユニフォーム1枚あれば仕事ができる職業なので、洋服や靴、装飾品なども一切買わない。そういう日々を4年半過ごした。その間、結婚して子供も生まれたが、独立する前月まで全額貯金し続けた。

傍から見ると苦しそうに感じるかもしれないが、私には何の苦痛もなく、むしろいつ夢が実現できるのだろうという期待感で胸がいっぱいだった。オリンピック選手がハードな練習を重ねて本番の舞台に臨む時と同じ感覚なのかもしれない。目的が明確に定まっていれば、誘惑に負けることはないし、代償を支払うことを厭わないのだ。

かくして27歳の時、銀座中央通りに面した12坪の場所に、1号店をオープンしたのである。おかげさまで、修業時代に知り合ったお客様が遠方から足繁く通ってくださり、そのお客様が周りに紹介してくださるという連鎖で店はすぐに繁盛した。常に全力を尽くしてきた結果なのだと思う。

未来ある20代へ伝えたいこと

「自分の人生は自分の思い描いたとおりになる」

これはジョセフ・マーフィーの名言だが、私自身の実感でもあり、いま若いスタッフたちに繰り返し伝えていることだ。他人の人生はどうすることもできないけれど、自分の人生であれば努力と心掛け次第で自分の思い描いたとおりになる。まさに絶対的な真理である。

だからこそ、未来ある20代の皆さんには大きな夢を持ち、その夢に向かって諦めずに努力の歩みを続けていただきたい。

その時、忘れてはならないのは、サミュエル・スマイルズが「天は自ら助くる者を助く」と述べているように、人頼みの姿勢で生きるのではなく、精神的にも技術的にも自分の力で生きていく気構えを持つことだ。それが原点にない者によき出逢いやチャンス、天の助けは巡ってこないのである。


(本記事は『致知』2017年5月号連載「20代をどう生きるか」より一部を抜粋・編集したものです)

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◆現役であり続けられる理由
◆両親の背中を見て育つ
◆師匠の金言①「修業は忍耐だ」
◆師匠の金言②「理容は芸術だ」
◆常に全力を尽くすことで道が開けた
◆未来ある20代へ伝えたいこと

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