【取材手記】世界的なデザイナー、マエストロが語り合う 続けてこそ見えてきた世界——コシノジュンコ&小林研一郎

~本記事は月刊誌『致知』2026年7月号 特集「続けてこそ道」に掲載の対談(一道を歩み続けて拓かれてきた世界)の取材手記です~

一つの道を貫き、無限の前進を続ける

デザイナーのコシノジュンコさん、指揮者の小林研一郎さん(愛称・コバケン)と言えば、世界的な活躍で知られる、誰もが認めるその道の第一人者です。

お二人は親しい間柄ですが、特筆すべきところは、ジャンルこそ違え、半世紀以上、一つの道を貫き、名声を得たいまも、それに甘んじることなくなお無限の前進を続けられている点です。まさに『致知』7月号の特集テーマである「続けてこそ道」を体現された人生と言えるでしょう。

5月12日、東京・南青山にあるコシノさんのブティックにて対談取材は行われました。

お二人のご縁はコシノさんが小林さんのコンサートに参加し、その指揮に魅せられたこと。その後、小林さんもコシノさんに燕尾服のデザインを依頼するなど、今日まで親交を深めてこられました。

来年2027年2月9日、お二人が中心となって「iPS細胞チャリティコンサート」と銘打ったコンサートを東京・六本木のサントリーホールで開催されます。山中伸弥さんのiPS細胞の研究支援を目的としたイベントで、タイトルは「音楽で未来の命をつなぐ」。

対談取材は、このコンサートに向けた熱い思いも交えながら、大変盛り上がる時間となりました。

並外れた好奇心、探究心

今回の取材を通してまず感じたのは、年齢を感じさせないお二人の並外れた好奇心、探究心でした。それが伝わってくる言葉を本誌から紹介してみます。

〈コシノ〉
最近特に熱中しているのが絵なんです。時間があれば、いつも絵ばかり描いている。何事も徹底的に追究したくなるんですね。もちろん、好きなもの、興味あるものだけなのですが、絵なんか一枚求められたら10枚描いちゃう。止まらなくなるんです(笑)。

〈小林〉
サントリーホールは10月で開館40周年の節目を迎えるのですが、この月に僕の「500回記念コンサート」が開かれるんです。第九の演奏会をこれだけの回数続けてきた指揮者は、日本だけでなく世界中探してもおそらく僕だけでしょう。

小林さんは「好きなことだったら、惜しまずにすべての力を注ぎきる。コシノ先生と僕は本当によく似ていますね」とおっしゃっていますが、デザインや絵の真髄を極めようとするコシノさん、心の師と仰ぐベートーヴェンにどこまでも近づこうとタクトを振り続ける小林さんの姿勢には、いささかも精神的衰えというものがありません。

人間は誰でも平等に未来が見えない

小林さんは、その熱く情熱的な指揮から「炎のマエストロ」「炎のコバケン」と呼ばれてきました。しかし、近年、新たな境地を掴んだといいます。

僕はこれまでファンの皆様から「炎のコバケン」と呼ばれてきました。だけど最近、自分の中に変化が生まれてきましてね。それが「祈りの音楽」なんです。

80代も半ばとなり、自分が求める新しい世界はこれなのかなといま思っています。(中略)『致知』で将棋の羽生善治先生と対談させていただいた時、(2023年4月号)、羽生先生がこうおっしゃったのです。

「小林先生は炎のマエストロと呼ばれているけれども、私が見ていると何かに祈られている感じを受ける」と。この一言に僕は心の内側をグッと掴まれた感覚を抱きました」

この発言を受けて、コシノさんは語ります。

人間は誰でも平等に未来は見えませんから、そこでどういう世界が拓けてくるのかは分かりません。小林先生の場合、それが「祈りの音楽」であり、最近の私であれば日本の文化を海外に広めるための活動や、大阪・関西万博でのシニアアドバイザーとしての仕事などが挙げられると思います。

どのような人であっても、未来を拓く時に大切なのがやる気だと思うんです。やる気さえあれば何でもできます。健康だからできるというのではなく、やる気が先にあるからこそ可能性が見えてくる。

お二人の人生観、仕事観がよく伝わってくる言葉ではないでしょうか。

詳しくは本誌に譲りますが、お二人は戦争体験をはじめとする様々なご苦労を乗り越えながら、今日の地歩を築かれてきました。

人生を振り返りながら交わされるお二人の言葉は、様々な出来事を乗り越えながらも一道を貫き、高い頂に至った人でなくては語り得ない味わいと教訓に満ちています。そして、その一つひとつの本音の言葉は私たちの心に深く沁み入り、生きていく上での勇気や希望を与えてくれることでしょう。

ぜひ、最新号を開いてそのことを感じていただけたとしたら、担当編集者として大きな喜びです。

本記事の内容 ~全10ページ~
◇86歳渾身の指揮
◇与うるは受くるより幸いなり
◇音楽への道に反対し続けた父
◇デザイナーになるのは運命だった
◇音楽の厳しさを教えられた人生の師
◇失敗はそれを繰り返さないための財産
◇チャンスは誰にも平等に与えられている
◇心に響き続ける「続けるのよ」のひと言
◇「炎のコバケン」から「祈りの音楽」へ
◇いくつになっても人生はこれから

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