2026年05月15日

三苫薫、田中碧、板倉滉、権田修一。サッカー日本代表としてカタールワールドカップで中心的な役割を果たした4選手を一度に輩出した、稀有な街クラブがあります。神奈川県川崎市に拠点を置くさぎぬまサッカークラブ(SC)です。世界で躍動する選手たちは、サッカーキャリアの原点とも呼べるこのクラブで、どのような日々を過ごしてきたのか。20年以上にわたってクラブの代表を務め、幼き頃から彼らの姿を見守ってきた澤田秀治さんにお話を伺いました。
(本記事は『致知』2026年3月号 特集「是の処即ち是れ道場」より一部を抜粋・編集したものです)
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日本代表戦士を生んだ街クラブで貫いてきた指導
〈澤田〉
2022年、カタールの地で行われたサッカーワールドカップ。名立たる強豪国と激闘を繰り広げ、世界中を沸かせた日本代表の中心に、当クラブ出身の4名の姿がありました。
権田修一、板倉滉、三苫薫、田中碧。彼らは小学生時代、神奈川県川崎市宮前区鷺沼に拠点を置く「さぎぬまSC」に在籍していました。セレクション(入団選抜試験)もしない、いわゆる街クラブから、いかにしてトップ選手たちが誕生し得たのか。46歳より21年間、代表としてクラブ運営に携わってきた経験から振り返りたいと思います。
まず1つは、言うまでもなく、選手本人の「誰よりもうまくなりたい」という向上心です。思い出されるのは、当時、幼稚園児だった田中選手が入部体験会に参加した時のことです。練習中に彼が泣き始めたので弱音を吐いたのかと思いきや、「こんな練習はつまらない」という、思いもよらない答えが返ってきました。年齢を考えれば妥当な練習内容だったにも拘らず、もっと難しい練習がしたいと言ってきた彼の成長意欲には驚かされたものです。
板倉選手もまた、上級生主体の試合で点を決めても、「もっと練習して、もっと点を決めたい」と、飽くなき向上心を見せていました。この2人に限らず4人は共通して、才能に恵まれていただけでなく、練習外でも誰よりも練習をする選手たちでした。
そのように、現在の活躍は本人たちの努力による部分が大きく、クラブとしてどれだけ力になれたかは分かりませんが、何か影響を与えることができたとすれば、1つは、保護者・卒業生参加型の運営体制にあると思います。
当クラブは、小学生男子一学年ごと計6チーム、女子1チーム、約170名で活動しています。各学年のチーム監督を保護者が務めることが特徴で、ほとんどの保護者が4級審判の資格を取得し、審判として活躍します。さらに家庭内でも、親子で朝練をするケースや、栄養バランスを重視した食事づくりなど、保護者が積極的にクラブ運営に参画する伝統が根づいています。
そこには、サッカーを通じて親子の交流を深めてほしいという願いがあり、実際に保護者のサポートを通じて、親子の絆や技術の深まりはもちろん、精神面における子供たちの成長を実感しています。保護者の全力のサポートを受けた子供たちの中には、次第に感謝の心が芽生えていくのです。
私にも、少年野球時代に両親が献身的にサポートしてくれた記憶があり、自分に子供ができた時には同様に全力でサポートしようという気持ちになりました。そうした両親への感謝が原動力となって、子供が入団した際に、実際に私もクラブの監督、代表の道へと進んだのです。
保護者のみならず、クラブの卒業生数名がコーチとして指導に入ってくれるのも大きな特徴です。そこでもまた、卒業生が親身になって指導に当たることで、自然と子供たちに感謝と憧れの念が芽生え、卒業後にコーチとして戻ってきてくれる好循環が生まれています。
日本代表選手に脚光が当たりがちですが、当クラブからは、Jリーグ選手が過去に約10名、さらに高校サッカー選手権出場選手や大学サッカー部の主将を務めた選手を数えれば、かなりの数になります。
彼らを育てる上で大切にしてきたのは、目の前の勝利より将来の成長を見据えた指導をすることです。
私自身、サッカー経験は全くありませんでした。確かにルールの勉強をして審判資格を取ったり、講習会に参加して指導者に必要なノウハウを学んできましたが、やはり技術面の指導は卒業生の存在に頼る部分も多く、私は子供たちが将来大きく成長するための環境づくりに力を注いできました。
よく保護者の方に伝えるのは、「いまお子さんがベンチメンバーだとしても、将来社会に出て、例えばスタメンの子と同じ会社に入った時、立場が逆転して上司と部下になる可能性もあります。目の前の勝ち負けに囚われるのではなく、子供の将来に目を向け、活躍するために必要な力を育てていきましょう」ということです。
サッカーで最も大切なのは基礎練習です。基礎がないまま身体能力だけでプレーしても、いずれ限界がきます。それは仕事など社会人生活も同じではないでしょうか。その意味で、基礎練習を念入りに行ったり、子供たち自身が話し合いのもとにルールを定めて行うミニゲームなど、リーダーシップや協調性といった人間力を育てる工夫を凝らしているのです。
いまでも忘れられないのは、クラブでベンチメンバーだった子が、卒業後に訪ねてきてくれ、「監督、僕はいまキャプテンを務めていますよ!」と嬉しそうに教えてくれた時のことです。彼の成長ぶりに涙し、また、子供の未来を見据えた指導がいかに大切かを再認識した瞬間でもありました。
日本代表選手の活躍もあり、選手第一の方針のもとに実績を挙げた街クラブの理想的な例として、2024年の元旦に国立競技場で日本サッカー協会から特別表彰を受ける幸運に恵まれました。
今後もその名誉に恥じぬよう、保護者や卒業生と一体になって子供の成長に向き合い、それぞれの才能を花開かせるお手伝いができれば幸いです。
◇澤田秀治(さわだ・ひでじ)
体育大学を卒業後、大手スポーツメーカーに就職。ご子息の入団を機に、2005年からさぎぬまSCの代表を務める。
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