稀代の棋士・羽生善治が考える〝本当の才能〟


将棋界において前人未到の7冠や通算1500勝を達成し、いまなおさらなる高みに向かって進化を続ける羽生善治さん。そんな稀代の棋士が語る本当の「才能」とは――。「炎のマエストロ」と呼ばれる世界的指揮者・小林研一郎さんと語り合っていただきました。
(本記事は月刊『致知』2023年4月号 特集「人生の四季をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

一つのことを続けるのは容易でない

〈羽生〉
私は小林先生のお姿を見ていて、いつもと変わらず指揮を続けられることの大変さや、目に見えないところで努力を重ねられることの大変さといったものを感じることがあるんですね。

この感覚は長く棋士をやってきたから分かるのかもしれません。私自身も普通に続けるということが、実はすごく大変だということを実感していて、先生をとても尊敬している大きな理由の一つはそこにあるような気がするんです。

〈小林〉
本当に光栄なお言葉です。

〈羽生〉
何十年と同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることは才能でしょうね。

将棋界の多くの先輩方を見ていても、一つのことを続けるのは容易でないことがよく分かります。

しかも、これは技術ではないんですね。テンションというものとも違う。その人の根幹的なものと関係している気がします。

個人的な感想で恐縮ですけど、小林先生は「炎のマエストロ」と呼ばれていらっしゃいます。だけど、私が見ていると、何かに祈られている感じを受けるんです。

これはきっと先生にしか分からない世界なのでしょうけれども……。

〈小林〉
いやぁ、先生のそのひと言に感動しました。実に心の内側をギュッと掴まれた感覚なのですが、僕は音楽は祈りだと思っているんです。

だから、オーケストラには「パッパーと簡単に音を出さないでください」と言います。

例えば、一瞬演奏が止まって静まり返り、空気の中に沈潜した世界、独特の余韻が残っている時間、その時間こそが祈りなんですね。実際、オーケストラに「祈り」という言葉を伝えた途端、全く違う音を出してくれるケースが多くあります。

「コバケンとその仲間たちオーケストラ」のスタッフに知的障碍の子がいます。

その子がある時、「小林先生が指揮台に上る前にちょっとお辞儀をするのは、あれは神様にお辞儀をしているんだよね」と言ったことがあって、これにはとても驚かされました。

その子も何かを感じ取ってくれたのでしょう。

〈羽生〉
葛飾北斎が90歳になって「ようやくいい絵が描けるようになってきた」と語ったという話が残っていますが、70代の頃は分からなかったことが80代になって分かったとか、そういう感覚を抱かれることはありますか。

〈小林〉
瞬間としてみれば「分かった」と思うこともあります。しかし、まだまだですね。いまでも自分の演奏の録音を聞き返す度に打ちのめされてばかりです。

僕は自分を小舟に譬えてよくお話しするのですが、ベートーヴェンという巨大な世界を求めて小舟を漕ぎ出したものの、太平洋に一人で取り残されてしまって、戻るには遠すぎるし行くにも先が見えない。行っても行っても見えるのは水平線ばかり。

そんな世界をいまも彷徨っている感覚なのですね。


(本記事は月刊『致知』2023年4月号 特集「人生の四季をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

↓ 対談内容はこちら!

◇15年続いた全交響曲連続演奏会
◇年間60回の演奏会でタクトを振る
◇AIの登場をいかに受け止めるか
◇師の姿から何を学ぶのか
◇相手のためを思った時新しい世界が開けた
◇棋士に求められるのは打たれ強さ
◇ 諦めないことで詰めることができる
◇音楽は祈りである
◇苦悩を越えて歓喜に至れ
◇新たな境地を目指して歩み続ける

詳細はこちら▼▼

 

◇小林研一郎(こばやし・けんいちろう)
昭和15年福島県生まれ。東京藝術大学作曲科、指揮科の両科を卒業。49年第1回ブダペスト国際指揮者コンクール第1位、特別賞を受賞。その後、多くの音楽祭に出演する他、ヨーロッパの一流オーケストラを多数指揮。平成14年の「プラハの春音楽祭」では、東洋人初のオープニング「わが祖国」を指揮。ハンガリー国立フィル桂冠指揮者、名古屋フィル桂冠指揮者、日本フィル音楽監督、東京藝術大学教授、東京音楽大学客員教授などを歴任。ハンガリー政府よりハンガリー国大十字功労勲章(同国最高位)等を、国内では旭日中綬章、文化庁長官表彰、恩賜賞・日本芸術院賞等を受賞。

◇羽生善治(はぶ・よしはる)
昭和45年埼玉県生まれ。6歳で将棋を始める。小学6年生で二上達也九段に師事し、奨励会(プロ棋士養成機関)に入会。中学3年生で4段となり、史上3人目の中学生プロ棋士に。平成8年7大タイトルを独占し、史上初の7冠に。30年棋士として初めて国民栄誉賞受賞。令和4年公式戦通算1500勝達成。通算タイトル獲得数は99期と単独1位。現在、タイトル100期を期して藤井聡太王将との王将戦に挑む。著書に『決断力』(角川書店)『迷いながら、強くなる』(三笠書房)など多数。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる