附属池田小児童殺傷事件から24年——愛娘を失った本郷由美子さんが語った〝命の価値〟

8人もの児童の命が奪われた大阪教育大学附属池田小児童殺傷事件から24年が経過しました。当時小学2年生だった愛娘の優希さんを失った母・本郷由美子さんはいま、東京下町を拠点に、人生の苦しみや悲しみを抱える人たちに寄り添う活動を続けています。事件後に起こった不思議な体験を振り返っていただきながら、命の価値について語っていただきました。対談のお相手は、本誌でお馴染みの文学博士・鈴木秀子先生です。
(本記事は『致知』2025年12月号 対談「人生の悲愁を越え命を見つめて生きる」より一部を抜粋・編集したものです)

傷ついているからこそ人は神の愛を自覚できる

<鈴木>
事件から数年間は、言葉にできないほど耐え難い毎日を過ごされたと聞いています。

<本郷>
ええ。多分これ以上辛いことはないといまも思います。精神的な瀕死状態と自分で表現していますが、目に見えるものは灰色に見える、匂いも感じられない、音もぼんやりとしか聞こえない、触るものも固い冷たいなど分からない、五感が麻痺してしまったのです。何も感じなくなりました。これ以上刺激が加わると壊れてしまう、おそらく自分の命を自分が守っていたのかもしれません。

<鈴木>
それはきっと自分を守るための本能なのでしょうね。

<本郷>
このような状況になって、自分の中にある生きる力や命の力に気づけたことは大きかったですね。このまま消えてなくなりたい、気が触れてしまったらどれだけ楽だろうと毎日思っていましたけど、それすら感じなくなった時、何か大きな命の流れの中に自分がただそこにいて、守られているという感覚を抱くことができたのです。

そして、それからしばらくして、私は不思議な体験をしました。優希が歩いた学校の廊下をいつものように訪れていた時、笑顔の優希が私に向かって走ってきたのです。「ママ!」と叫びながら走ってきた優希を「よく頑張ったね」と力強く抱き締めました。それまで娘の苦しんでいる顔しか思い浮かばなかったのに、いのちといのちが呼応したように、会うことはできないけれど、娘とは繋がっている。そう感じました。

その時、娘の思いや願いが無音の言葉になって心に響き伝わってきたのです。「命の価値は長い短いではなく、自分の命を精いっぱい生きること、人生をどう歩むか、そこに命の価値があるのではないか」と。

<鈴木>
優希ちゃんからの素晴らしい気づきのプレゼントでしたね。

<本郷>
その時に誓いました。

「辛いけれど優希が最後の力を振り絞って歩いた68歩。私も同じように生きていきます。神様どうかお願いします。優希と一緒に手を繋いで69歩目を歩ませてください」

2000年前後は、阪神・淡路大震災をきっかけに心のケアが浸透していきます。ピア・サポート(同じ経験や境遇を持つ仲間同士が、助け合い支え合う活動)などの活動も活発になってきた時期です。犯罪被害者等基本法も制定されていない時期で、犯罪被害者の人権は守られず、犯罪被害者の置かれている状況は過酷でした。事件や事故の当事者も、犯罪被害者が社会復帰をするために人権が守られることや、当然の権利である社会復帰ができるための支援を求め声を出し始めました。

犯罪被害者が社会復帰をするためには、司法の支援や生活支援、医療的な支援、心理的支援など様々な支援が必要になります。私は、心の支援の分野に自分のエネルギーを注ぎたいと思いました。事件や犯人への恨みなどマイナスに向かうエネルギーを、精神的な命を繋ぐ生きるエネルギーに変えたいと思ったんです。

そんな私を支えてくれたのがカトリック司祭ヘンリ・ナウエンの「傷ついているからこそ人は神の愛を自覚でき、そこから自分と他者へのいたわりが生まれる」という言葉でした。自分と同じように悲しんでいる人の心のケアの一助になれたらといろいろ模索する中で出合ったのが精神対話士という対話型、寄り添い型の支援です。

2005年にその資格を取得したのですが、大切な人を亡くした人たちなどに寄り添うグリーフケアへの道がそこから拓け、2011年から3年間、上智大学グリーフケア研究所の養成講座で専門的に学びました。そこで教えられたのは、心のケアは技術ではないということです。自分の価値観を一度手放して一人ひとりの人生とどう向き合うか、徹底して学びを深めました。


(本記事は『致知』2025年12月号 対談「人生の悲愁を越え命を見つめて生きる」より一部を抜粋・編集したものです)

↓ 対談内容はこちら!
◆再生の扉への招待状
◆命を見つめる優希ちゃんの眼差し
◆最後の力を振り絞って歩いた68歩
◆傷ついているからこそ人は神の愛を自覚できる
◆なぜ犯人の立場に思いを馳せられたのか
◆一人ひとりの命を輝かせる
◆深い悲しみを含んだ温かい涙
◆悲しみを受け入れた時人は立ち直ることができる
◆涙の質は変わっていく
◆幸せは心の奥深くに隠れている

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◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本にエニアグラムを紹介。本誌連載をもとにした『名作が教える幸せの見つけ方』(致知出版社)など著書多数。新刊に共著『「思考は現実化する」を量子力学で解く』(ビジネス社)。

◇本郷由美子(ほんごう・ゆみこ)
群馬県生まれ。平成13年大阪教育大学附属池田小児童殺傷事件で愛娘を失う。17年精神対話士の資格を取得。その後上智大学グリーフケア研究所で専門スピリチュアルケア師の認定を受け、同研究所で非常勤講師を務める。現在は、事件や事故の被害者、東日本大震災の被災者や身近な人を亡くした悲しみに寄り添う活動のほか講演活動に邁進。著書に『虹とひまわりの娘』(講談社)『グリーフケアとアウトリーチ かなしみを受け入れて生きて行くということ』(方丈社)など。

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