阪急阪神東宝グループの創業者・小林一三はいかにして鉄道事業を成し遂げたのか

阪急電鉄や阪急百貨店、さらに宝塚歌劇団、東宝などの興行分野まで、独自のアイデアと不屈の行動力で数々の事業を成し遂げた、阪急東宝グループ(現・阪急阪神東宝グループ)創業者の小林一三。鉄道事業と沿線開発で地域に活力をもたらし、後に「今太閤」の一人と呼ばれるまでに至った一三の歩みを、約30年間、一三の研究を続ける向山建生氏にお話しいただきました。
(本記事は『致知』2026年2月号特集「先達に学ぶ」より一部を抜粋・編集したものです)

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一世一代の大勝負

<向山>
「今度、大阪に証券会社を立ち上げる。支配人にならないか」

大阪経済界で活躍する岩下から誘いを受けたのは1907年暮れ、一三が34歳の時でした。妻の反対を押し切ってまで銀行を辞めた一三でしたが、大阪に着いた翌日、日露戦争後の好景気から一転して大恐慌となり、証券会社の話は立ち消えになってしまいます。

岩下は責任を感じ、鉄道の仕事をしないかと持ちかけました。一三が事務所に足を運ぶと、そこに箕みの面お有あり馬ま電気軌道(後の阪急電鉄)の設立に動く資本家たちがいました。しかし、彼らは一様に不景気を理由に事業の推進に躊躇していました。

一三は、「明治の花形産業である鉄道事業を諦めていいのか」と考え、計画路線を2度歩いてみました。沿線は田畑が広がる牧歌的な風景でしたが、「大阪市はいま人口が急増して居住環境が悪い。この沿線には紅葉(箕面)や温泉(有馬)の観光名所もあり、快適な生活ができる近代的な街をつくれるのではないか」とのアイデアが湧き、それを資本家たちにぶつけたのです。

「私に任せてくれれば、資本家にも株主にも損はさせない」と啖呵を切り、岩下を説得して北浜銀行に株式の約半分を引き受けさせることに成功。一三にとってはまさに一世一代の大勝負でした。

一三の不眠不休の努力が実り、箕面電車は予定より早く開通。サイドビジネスとした沿線の住宅造成開発と分譲事業は大成功し、大きな利益をもたらしました。「銀行は企業に資金援助して育ててこそ存在意義がある」という岩下の考えを実行したのもこの時です。借り入れをもとに郊外の土地を次々に買収して住宅地開発を行い、その居住者を中心地に鉄道で運ぶことや、沿線に娯楽施設をつくって休日も利用させるという私鉄経営の考え方は、「小林一三方式」というモデルになりました。

1910年には箕面に動物園、翌年には宝塚に新温泉、さらにその2年後には宝塚少女歌劇団を創設するなど沿線開発は地域社会に活力をもたらしました。1929年、梅田駅の竣工に合わせて阪急百貨店を開店させ、ターミナル・デパート第1号となったことも特筆に値する功績でしょう。

一三の功績が東京で知られるようになると、渋沢栄一が設立した田園都市株式会社から支援要請を受け、田園調布の開発をプロデュース。さらに辞めた三井銀行から東京電力の再建を依頼され、それを成し遂げるなど「今太閤」の一人と呼ばれる成功者となっていきました。


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◆経済界の巨人の偉業を顕彰し続けて
◆「風呂屋の主人でもよい経営者になって貢献せよ」
◆鉄道事業はいかに成し遂げられたか
◆失敗をもプラスに転じる発想力、行動力

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◇向山建生(むこうやま・たてお)
昭和24年韮崎市生まれ。46年日本大学理工学部卒業。山梨日日新聞社・山梨放送経営企画室長、山梨総合研究所主任研究員、山梨大学客員教授を経て現在、特定非営利活動法人減災ネットやまなし理事長、逸翁・耳庵研究所代表、山梨総合研究所OB会会長。

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