2025年07月12日
~本記事は月刊『致知』2025年8月号 特集「日用心法」掲載記事の取材手記です~
90歳のいまも、いきいきと活躍
小山明子さんといえば、名女優であり、世界的な映画監督である大島渚さんの奥様としても知られています。大島さんが脳出血で倒れられた後、17年間にわたって献身的に介護を続けられました。90歳になられる現在、がんをはじめ、いくつもの病気と向き合いながらも明るくいきいきと活躍されています。そんな小山さんに神奈川県の閑静な住宅街にある喫茶店でお話を伺いました。
小山さんをご紹介くださったのは、『致知』の愛読者で、『致知』を使った勉強会・社内木鶏会実施企業でもある徳武産業(香川県さぬき市)会長の十河孝男さん。徳武産業はお年寄りのための「あゆみシューズ」を手掛けるメーカーであり、小山さんはそのイメージキャラクターを務めてこられました。小山さんと十河さんとは、家族ぐるみのお付き合いだそうです。
小山さんにお会いしてまず驚いたのは、とても90歳とは思えないその若々しさです。私たち編集者の質問にも一つ一つ丁寧に答えられていることは、インタビュー記事をお読みになればよくお分かりになるでしょう。子供時代の戦争体験により平和の尊さを実感し、20歳で女優デビュー。助監督だった大島さんとの出会いが小山さんの運命を決定づけました。
新たなスタートラインに立ったつもりで前向きに生きていく
大山さんが脳出血に見舞われたのは1996年。それまで順風満帆だっだ小山さんは突然、どん底に突き落とされます。大島さんは厳しいリハビリによって監督の仕事に復帰したものの、今度は十二指腸穿孔を患い、再び療養生活に。その頃の心境を小山さんは次のように振り返ります。
大島が亡くなる2013年までの11年間の在宅介護を振り返ると、自分でも本当によくやってきたと思います。大島が十二指腸穿孔で倒れて介護をしていた頃、私は上智大学で死生学を教えてきたアルフォンス・デーケン神父の本の中で「過去の業績や肩書に対する執着を手放し、新たなスタートラインに立ったつもりで前向きに生きていくことを心がけましょう」という言葉と出合って、ハッと目が覚める思いがしました。
デーケン神父の本もその一つですが、大島さんを介護していた頃、小山さんにとっての大きな心の支えは移動図書館で出合った多くの本と、そこにある言葉でした。厳しい環境の中で一つ一つの言葉を心に刻みながら、乗り越えてこられたことが伝わってきます。
大島がまだ入院していた頃、入院患者や付き添いの家族のための移動図書館というサービスがありました。私はそれを通して読書の喜びに目覚め、大島のベッドサイドで数え切れないほどの本を読んで、気に入った言葉を介護ノートにメモしました。……病気で次男さんを亡くされた作家・柳田邦男さんの「人間は落差に弱い」けれど「人は、不幸を受けつけながら幸せになる」という言葉などにも大きな勇気と力を与えてもらいましたね。
小山流「カキクケコ」
様々な人生の山坂を越えてこられた小山さんが、常に生き方の指針としている言葉があるそうです。それが「カキクケコ」。大島さんの介護を始めた頃、「カキクケコ」という言葉に出合って気に入り、それを自分なりにアレンジしては、日々の指針にしてこられたそうです。その小山流カキクケコとは──
「カ」は感謝と感動、
「キ」は興味、
「ク」は工夫、
「ケ」は健康、
「コ」は好奇心と、転ばないこと。
このうちの「感謝」は、倒れてからいつも周囲の人たちに「ありがとう」と口にしていた大島さんの姿から教えられたとか。大島さんは小さなことでも、してもらったことに感謝の言葉を忘れなかったとされ、頑固なイメージがある大島さんの意外な一面が伝わってきます。
小山さんはこれまでの人生を振り返りながら、最後にこう話されました。
いろいろなことがあるのが人生で、自分も含めて家族全員が健康ですべてが順調なんていう人はいません。私も大島が倒れてどん底にある時、あるパスタの店に入って年配のご夫婦がすごく楽しそうにご飯を食べている姿を見て、「ああ、自分は何でもない平凡な人生を思い描いていたんだな。それが叶わなかったんだな」と思った時に初めて泣きましたね。だけど、いまは日々起きる問題にうまく折り合いをつけながら明るく前向きに歩んでいくのが人生なんじゃないかと思っているんです。限られた命ですから、二度とやってこないきょう一日一日を大切に、これからも歩んでいきたいと思っています。
一つひとつの言葉が胸に染み渡ります。人間学を学ぶ月刊『致知』8月号の小山さんのインタビュー記事「感謝や好奇心……よき心の習慣が人生を豊かにする」では、ここで紹介しきれなかった人生の知恵が満載です。ぜひ8月号を手にとってお読みください。
~本記事の内容~
◇90歳で初めて死を意識する
◇過去の業績や肩書を手放す
◇戦争体験、そして女優への道へ
◇資金難の中で制作した忘れ難い映画『少年』
◇「ありがとう」は魔法の言葉
◇「主人を社会復帰させるのが 自分の使命」
◇人生最高のハイライト
◇マイナスには力がある
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