「人が見捨てたり、見逃したり、見過ごしたりしているものの中に宝の山がある」——イエローハット創業秘話( 『凡事徹底』 鍵山秀三郎・著)

カー用品チェーン・イエローハットの創業者であり、「日本を美しくする会」の創設者でもある故・鍵山秀三郎さん。掃除をする、履物を揃えるなど、日常の些細なことに心をこめ、徹底して貫かれた鍵山秀三郎さんが、約30年前に上梓されたのが『凡事徹底』です。発売から30年経ったいまなお多くの人々の指針となっている本書から、イエローハット創業時のエピソードを一部を抜粋・編集してお届けします。
(本記事は弊社刊『凡事徹底』より一部を抜粋・編集したものです)

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人が見捨てたものの中に宝の山がある

私は昭和36年10月にこの会社を創業しました。創業といっても、本当にボロ自転車一台で自転車の行商から始まりました。商品もない、 場所もない、電話もない、何もないので、ひたすら行商で歩いて、歩いた先でものを売るようにしようと思いました。

しかもメーカーさんは、私が前に勤めていた会社からいろいろな圧力がかかっているために、私が行ってもだれもものを売ってくれない。私がお願いすると、いつならいいから来いといわれて、自転車で麴町から荻窪のほうまで行ったり、葛飾の先のほうまで行ったりしましたが、 「さっきまで待っていたけど、用があったから出かけてしまった」とか、 「もう帰ってくるはずだけど、連絡がないからわからない」と言われて、 すごすごと肩を落として帰りました。

そのとき、私が「約束が違うじゃないか」と声を張り上げたりしたら、今日の私どもの会社はなかったと思うのですが、これは事情があって私にものは売りたくないんだなと思い、いずれまたそういうときがあったらお願いしますということで、すごすごと引き下がってきたのです。

けれども、引き下がっただけでは仕事になりません。どういうことをしたかというと、メーカーさんが売れなくて、倉庫に積んでホコリをかぶっている商品を私が借りては売るということを続けてきたわけです。 それが日の目を見て、ヒット商品につながったこともありました。

よその会社でだれも扱わなかった商品を私一人が取り上げて、一生懸命自転車に積んで売り歩いて、30年を過ぎた今日もまだ続いている商品が一つだけあります。それは、リングカバーというハンドルにつける丸いカバーです。昭和36年11月から今日に至るまで、これだけ世の中が変わる中で、30年以上にわたって一つの商品を売り続けるというのは大変なことですが、そういうことが起きております。

しかも、この商品が翌年の37年は、月に何万本と売れるようになって、これが私の会社が成長していくもとになりました。ですから、人が見捨てたり、見逃したり、見過ごしたりしているものの中に宝の山があるということです。それから、自分が見捨てたり、見逃したりしている宝の山を他の人が拾っているということです。

こういったところに目をつけると、そんなに目を血走らして、鉢巻きを締めて歯を食いしばって仕事をしなくても、仕事はもっとおだやかにやっていけるのではないかと思うわけです。

前に山手線の車内に川柳が下がっていたことがあり、こういう家は 「あわんの呼吸」だなと思って見ていたのですが、「まだ寝てる 帰ってみたらもう寝てる」とありました。世の中には実にうまいことをいう人がいるなと思いましたが、そういうふうにならないようにするためには、 何も難しいことをしなくてもいいんです。帰ったら靴を揃える、自分のものだけではなしに家族のものも揃える、よそへ行っても揃えることです。私は今朝まで、用があってある温泉のホテルに泊まっておりました。

風呂場へ行くとスリッパが山のようになっていて、スリッパの上へスリッバが脱いであります。何十足もあると私もできないのですが、10や15なら人のものでもちゃんと揃えておいて入ります。出てくると、また山のようになっております。またそれを揃えて出てくるというふうにしております。

それから、お風呂場へ入っても、自分が使った腰かけの上にちゃんと洗い桶を伏せておきます。私が湯船の中に入って見ていると、新しく入ってきた人はみんなそういうところへ行きます。散らばっているところへは行きません。その人は元へ戻すかというと、また自分は散らばらせます。それで、私が揃えておくと、またそこへ行く。

だいたいそういうもので、人の揃えた履きものは履いていきます。そういう人が世の中には多いとつくづく思うのですが、そういう部類に入らないほうが人生がよくなるのではないかと思います。

私は人のスリッパを揃えてきて損をしたことはありませんし、人の洗い桶を片づけてひとつも損をしたことがありません。むしろ、私のような愚鈍な人間が世の中でなんとかやっていけるようになったのは、すべてこれのお陰だと思っております。

いまからでも遅くありませんから、ぜひやっていただきたいと思います。もう遅いなんて思う人は駄目です。いまから、今日から、やっていただきたいと思います。


(本記事は弊社刊『凡事徹底』より一部を抜粋・編集したものです)

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