「お菓子の心は平和の心」 洋菓子の名店 ベルン・倉本洋一社長が貫いてきた思い

ベルン・甲子園本店

1968年、高校野球のメッカ・甲子園球場で知られる西宮の地で、僅か4坪半のお店からスタートした洋菓子店のベルン。以来、様々な困難を乗り越えながら、「甲子園サブレ」「夢マドレーヌ」「幸せのHappy Rings」®︎「想いdeキャッチボール」(姫路お菓子博2008年「金賞」受賞)など、人々に寄り添い長く愛される洋菓子づくりを貫いてきました。創業者の思いを継ぐ二代目社長の倉本洋一さんに、これまでの歩み、ベルンが大切にしてきた〝心〟をお話しいただきました。

(本記事は『致知』2025年3月号 連載・致知随想に掲載されたものです)

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ベルン 創業の原点

【倉本】

「出逢いは神様からのご褒美です」

生前お世話になっていた托鉢者・石川洋(よう)先生からいただいたこの言葉を座右の銘として、私は「ベルン」という洋菓子店を兵庫県西宮市で営んできました。

1968年、先代の父が26歳の時に母と二人で立ち上げた4坪半の小さなお店。これがベルンの始まりです。地元・西宮(甲子園)の皆様に喜んでいただけるお菓子づくりをモットーに、これまで数多くのお菓子を手懸がけてきました。

甲子園銘菓の「甲子園サブレ」もその一つ。「サブレ」とは仏語で「砂」を意味します。「砂(土)」を持ち帰る甲子園の伝統をお菓子で表そうと、いまから52年前に父が開発した商品です。

石川洋先生の言葉どおり、一つひとつのご縁を大切にして今日までお店の営業を続けてきました。とある出逢いから生まれた商品の一つが、「想いdeキャッチボール」です。

バターの優しい香りに、チョコ生地とイチジクをアクセントに加えたこのお菓子は、西宮商工会議所の勉強会でご縁をいただいた地元の武庫川女子大学様と一緒に手懸けたお菓子です。

人それぞれの想いを、キャッチボールのように受け継いでいく。そんなイメージをお菓子に表現できたら……。

そう考えた私は、父が若い頃に先輩から教わり自分なりにアレンジして開発した「マドモアゼル」という商品に着目しました。このお菓子に今度は私がアレンジを加え、武庫川女子大学の皆さんにパッケージのデザインをしていただいて商品が完成しました。

このお菓子には、幼い頃の父との思い出も重ねています。多忙な仕事の合間を縫ってキャッチボールの相手をしてくれた父。当時は独立して間もなく、母と一緒に早朝から深夜まで働きづめの毎日を送っていましたが、その生い立ちも苦労の連続でした。

長崎県の壱岐島に生まれた父は、2歳の時に戦争で父親を亡くし、8歳の時に病気で母親を亡くしました。14歳の時には親代わりに面倒を見てくれていた祖母まで失いますが、親戚の力添えで何とか中学校を卒業。福岡に出て、洋菓子店に職を得ます。

一緒に入社した仲間は、昔ながらの厳しい指導に耐えかね早々に辞めていきましたが、帰る家のない父は歯を食いしばって頑張り抜き、店一番の職人になりました。さらなる高みを目指して洋菓子の本場・神戸へ移ってからも、コンクールで賞を総なめにするほどに活躍。そして修業先で出逢った母と一緒にお店を始めたのです。何の後ろ盾もなかった父は、友達が遊びに行くのを横目に必死でお金を貯め、独立を果たしたのでした。

子供ながらに両親の頑張りがよく分かっていた私は、二人に構ってもらえなくてもお菓子屋を悪く思うことはありませんでした。最初は後を継ぐつもりはなく、高校を出て4年間アメリカ留学もしましたが、結局は家業に入る道を選んだのです。1998年、26歳の時でした。

お菓子を通じた「夢づくり」を追求する

ベルンのロングセラー・甲子園サブレ

父には菓子づくりから店舗運営まで様々なことを学びましたが、何よりも心に刻んできたのが仕事に向き合う父の姿勢です。職人気質で口数は少ないけれども、内に秘めた並々ならぬ負けじ魂で当社の土台を築いてくれたことには、感謝しかありません。父に認めてもらいたい。この思いこそが、私を突き動かす原動力だったのかもしれません。

父の元で一緒に働き出して10年ぐらい経った頃でしょうか。私が自分で企画してつくったお菓子がヒットするようになってくると、少しずつ経営を任せてもらえるようになりました。

私が社長になってからまず取り組んだことは、父がワンマンで進めていた経営をチームで運営していける体制にしたことです。その一環で手懸けたのが、経営理念の策定でした。当社を導いてきた父の想いを踏まえたものにするため、大切にしてきたものは何かと尋ねたところ、父はポツリとひと言、「お菓子の心は平和の心」と答えました。

お菓子は平和でなければ食べられません。またつくり手の心の状態がそのままお菓子に表れるもの。お菓子づくりを通して、お客様に笑顔になってもらいたい。夢をカタチにしていきたい。父の想いを私なりに解釈し掲げたのが、「まごころづくり、夢づくり」という経営理念でした。

父が熱心に受け入れていた中学生の職場体験にいまも力を注いでいます。またいまは無くなりつつある地元の名産・鳴尾(なるお)イチゴを守るため、武庫川女子大学様と一緒に鳴尾イチゴを素材にした「ほろほろクッキー」の開発にチャレンジしたのも、この経営理念、そして冒頭にご紹介した「出逢いは神様からのご褒美です」という言葉を大切にしてきたからかもしれません。

将来的には、お年寄りと一緒にお菓子の素材となる果物をつくりながら、子供たちに食育やものづくりの大切さを伝えていける「ハッピーファーム」の創設を長期的な経営ビジョンに掲げています。

お菓子は人を一瞬で笑顔にすることができる魔法です。私はこのお菓子づくりを通して、地域やご家庭に少しでも多くの笑顔と幸せをお届けできるよう、これからも出逢いを大切に、心を込めてお菓子をつくり続けていきます。

ベルンという洋菓子店で一緒に「夢づくり」というキャッチボールを続けてきた父はいま、病の床(とこ)にありますが、私の取り組みをきっと喜んでくれていると思っています。

尊敬する先代のお父様(写真=左)と共に

●倉本洋一(くらもと・ひろかず)=ベルン社長


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