寂れた温泉街が、年間数百万人が訪れる観光地に——〝黒川温泉〟を創り上げた後藤哲也氏が語るリーダー像

年間100万人以上の観光客が訪れる熊本県の黒川温泉。地図にもなかった山奥の地域を、全国から脚光を浴びる温泉街に育て上げたのが、地元の旅館・新明館を営まれた後藤哲也氏です。「寂れた温泉街に何とか人を呼び込みたい」という一念が様々なアイデアを生み出し、困難を克服する原動力になったと後藤氏は語ります。2005年に『致知』で語っていただいた歩みを一部ご紹介します。
(本記事は『致知』2005年11月号 特集「開発力」より一部を抜粋・編集したものです)

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生き残りを懸けて洞窟風呂を掘る

<後藤>
どんなにしたらお客さんを呼べるか。「うちの旅館は山菜料理が売り物です」と言うてみたところで、人は呼び込めない。やはり温泉は温泉の魅力を開発する以外ない。でも、この旅館は川と裏山に挟まれた場所にへばりつくように建っとる。敷地は広げられない。

そこで僕は一慶を案じたとです。それなら裏山を掘って洞窟風呂を造ったらどうだろうかと。

——思い切ったアイデアですね。

<後藤>
父親に相談したら、猛反対でしたな。「事故が起きたらどげんするとじゃ。やめとけ」言うて。しかし、僕はほかに生きる道はないという思いがあったもんだから、反対を押し切って計画を断行したとです。

——どのように進んだのですか。

<後藤>
そりゃあ、並大抵じゃなかったですよ。

いまのように電気ドリルのようなもんはないでしょう。ノミと金槌で掘り進めていきました。岩盤にぶつかると朝から晩まで頑張ってみても2センチほどしか掘れないこともあった。 時々、岩にひびが入ると、岩をまとめて取り除けるものだから、思わず歓声を上げたりもしましたな。

大分の耶馬渓にある「青ノ洞門」は禅海というお坊さんがノミ一つで掘ったといわれとりますが、僕がやったのもそれと似とります。設計図があるわけじゃなし、いつになったら完成するとも分からん毎日でしたが、三年ほどするとお客さんに入っていただくだけの空間ができました。

——お客様の反応はいかがでしたか。

<後藤>
これが当たったとです。「珍しくて雰囲気もよか」言うて多くの人に来ていただいた。「なんとかお客さんに喜びを与えたい」という僕の思いをしっかり酌んでもらえたわけですな。

もちろん、僕はそれで満足したわけじゃありません。女性専用風呂、混浴風呂とそれからも拡張を続けました。 途中から電気ドリルができて、職人も二人雇って掘り続けたとです。お客さんのお世話や農作業をこなしながらの作業で、なかなか思うようにはいかんじゃったですが、裏山を掘り始めてから十年後にいまのような形ができ上がりました。

——そうでしたか。

<後藤>
ちょうど洞窟風呂が一段落した頃から、僕は「お客さんをもっと呼び込める方法はなかろうか」と勉強を始めました。それは自分でも感心するくらいに、よう勉強しました。

自慢話に聞こえるかもしれんが、僕はいま庭づくり、川づくりでは有名な男です。景観も建物も、どこが良いか悪いか、どこを改良するとよいかがすぐに分かる。全国から地域おこしの依頼がたくさん寄せられます。これも若い時に徹底的に勉強したおかげだと思うとります。

日本庭園からなぜ観光客が減ったか

——どのような勉強をされましたか。

<後藤>
1つには、京都とか軽井沢とか人の集まる場所で観光地巡りをして、 研究したとです。いまと違うて昭和30、40年代の京都は民家にしても庭にしても本当の日本の伝統が息づいていた。

僕はいつも巻き尺を持っとりまして、雰囲気のいい古い建物があると 「すんませんが、見せてください」とずうずうしくお願いして、屋根の高さや柱の寸法を測らせてもらいました。それに木が好きだったものだから、 寺の庭づくりも随分研究しました。その頃の京都では、剪定された松があって池には鯉が泳ぐ日本庭園が大層観光客の人気を集めとったとです。ところが、じーっと観察を続けるうちに観光客の動きにだんだん変化が出てきたとですな。

——変化というと。

<後藤>
伝統的な日本庭園の観光客が減って、今度は自然の木が植わっている庭のあるお寺の客が増えている。一体これは何事じゃろうか?そう考えました。いま振り返ると、この時の気づきがなかったら黒川温泉のいまはなかったでしょう。

木を植えたらお客様が集まってきた

(中略)

<後藤>
これまでを振り返って思うのは、観光地に限らず、その地域なら地域で、そこにしかない雰囲気をつくり上げることです。

故郷の木を植えて故郷の雰囲気をつくって、お客さんに 「二度も三度も来たい」と思わせりゃ、 イベントも要らん。宣伝にもお金をかけんでいいんです。

考えてみなさい。東京で暮らしよる人が、田舎に来てまで鉄筋の似たような建物に泊まりたいと思いますか?

せっかくの故郷の雰囲気があるのに、 自分だけが儲けたいと思うて立派な鉄筋のホテルを建てるケース、景観を一度と元に戻せんようにしてしもうたケースが、日本にはたくさんあるじゃなかですか。それは結局は自分が損しとることです。

自分だけが儲かろうと思っても、そんな世の中じゃなか。自分一人で生きられん時代に入ったわけですよ。そう思うと、いまこそ常に全体の一体化に目を向けられるリーダーが必要じゃなかでしょうか。


(本記事は『致知』2005年11月号特集「開発力」より一部を抜粋・編集したものです)

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