2025年02月16日
▼独立、転勤、転職、昇進、第二の人生……この春、新たなステージに挑戦するあなたへ世界人口の増加などにより水不足が年々深刻さを増している中、水問題解決のため国内外で活動を続けるのがグローバルウォータ・ジャパン代表の吉村和就氏です。日本が水不足による危機的状況を克服し、水資源に恵まれた豊かな国であり続けるためのヒントとなる江戸時代の暮らし方とは。
(本記事は月刊『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」より一部抜粋・編集したものです)
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300年前にSDGsを実践していた日本
世界の水問題がこのように深刻化する中、日本の置かれた状況も厳しさを増しています。
東京大学の沖大幹たいかん教授の提唱する「仮想水」という概念があります。現在、日本の食料自給率はカロリーベースで38%。残りの62%を海外からの食料輸入に頼っています。これは、その62%の食料生産に要した他国の水を輸入しているとも言えるのです。
これをもし国内で賄うとすれば、約600億トンの農業用水を確保しなければならない計算になります。
現在日本が農業用に使用している2倍以上の水が必要になり、たちまち水不足に陥ってしまいます。結局、いまの日本の食料は世界の水資源によって支えられているというのが現実であり、今後世界の人口がさらに増加して食料が逼迫してくれば、日本に供給する余裕はなくなっていくでしょう。
こうした危機的状況を克服し、2050年の日本を豊かにしていく上で着目していただきたいのが、江戸時代のノウハウや経験です。
江戸時代は、鎖国政策により海外からほとんど物資を輸入していませんでした。しかし当時の人々は、国内で調達できるもので生活をすべて成り立たせていたのです。
農作物はもちろん、山で伐採した木材で家をつくり、い草を加工して畳をつくり、夜の灯りは胡麻や菜種油・ロウソクで賄っていました。着ているものが古くなれば雑巾にし、それも使い古せば火にくべて燃料にし、燃やした後の灰は肥料や陶器の釉として使いました。
人糞も貴重な肥料(金肥)となって農作物を実らせ、町の各所に設けられた公衆便所から放流された小便は、そこに含まれる栄養素(窒素、リン、カリウム)によって江戸湾を豊かな漁場にし、江戸前名物の海苔、佃煮や寿司ネタとなる豊富な魚介類をもたらしました。身の回りにあるものを徹底的に使い切り、循環させ、持続可能な社会を実現していたのが、人口約3,400万人の江戸時代末期だったのです。
私が国連にいた時にSDGsについて議論が行われた際、そんなことは日本では既に300年も前からやっていたと発言すると、参加者から驚きの声が上がり、早速スピーチを頼まれたものです。
水資源が逼迫する今後は、日本に昔からあるこうした優れた知恵に、最新のAI技術を加味して、世界各地の水の使用量や汚染度などをきめ細かくモニタリングすることで、限られた水資源を有効利用して、確実に行き渡らせることが十分可能となります。
これに加えて、現在の大都市を中心とする大規模集中型の街づくりを、河川流域を中心とする小規模分散型の街づくりに転換していくことも有効です。
江戸時代の末期には全国に約280もの藩が存在しましたが、それぞれ他藩からエネルギーの供給を受けることなく、自立して社会を運営していました。この歴史に学び、日本に113ある大河川の流域を中心とする経済圏を形成していくことで、地域毎に十分な水資源を確保できると共に、独自の資源や特色を活用し持続可能な社会を構築していくことで、地方創生も可能になると私は考えています。
(本記事は月刊『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」より一部を抜粋・編集したものです)
↓ 記事内容はこちら!
◆世界で展開される熾烈な水の争奪戦
◆生成AIや6Gが水を「がぶ飲み」する
◆300年前にSDGsを実践していた日本
◆人口が一億人を下回っても幸せな国であるために
◇吉村和就(よしむら・かずなり)
昭和23年秋田県生まれ。大学卒業後、企業勤務を経て、平成10年国連ニューヨーク本部、経済社会局・環境審議官に就任。17年グローバルウォータ・ジャパン設立、代表に就任。著書に『水ビジネス―110兆円水市場の攻防』(角川書店)『図解入門業界研究 最新 水ビジネスの動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など多数。