【取材手記】〝アジアNo.1〟女性シェフが命懸けの仕事で掴んだもの


~本記事は月刊誌『致知』2025年3月号 特集「功の成るは成るの日に成るに非ず」に掲載の(「命を懸けて仕事と勝負する」)の取材手記です~

「世界を変えようと思うなら、命を懸けないといけない」

およそ半年前、あるインタビュー動画を目にした筆者は、その内容に衝撃を受けました。もっとも、その年齢離れした仕事哲学に感銘を受けたからです。

「本気で世界を変えようと思うなら、命を懸けないといけない」

インタビューに答える女性は自身の壮絶な半生を振り返り、そう語りました。

インタビューに答えていたのは、東京・代々木上原「été(エテ)」オーナーシェフの庄司夏子さん。2022年、「アジアのベストレストラン50」において、日本人女性初となる「アジアの最優秀女性シェフ賞」に輝き、36歳という若さで料理界の最前線をゆく実力者です。

そんな庄司さんが25歳の時にオープンしたフレンチレストラン「été」は、〝1日1組限定〟というユニークな業態をとっています。

オープン以来1日1組にこだわるのは、お客様に全力で向き合いたいからです。いつだってお客様あっての我われですから、目の前のお客様にいかに満足してもらえるか、それがすべてであり、どんな状況下でもこの店にだけは来たいと思っていただけるような唯一無二の存在を目指しています。


お客様の趣向を事前にスタッフで共有することはもちろん、「あの国を旅行した時の料理が忘れられない」など、時にお客様との何げない会話を汲み取りながら料理をお出しします。一皿をお客様と共につくり上げていく感覚ですね。

海外のイベントに参加する関係で、直近の予約しか受けつけていないそうですが、それでも2、3か月先まで予約はいっぱい。オートクチュールのように個別最適化された最高級のサービスを求めて、連日国内外から人が訪れます。

大リーガーの大谷翔平、サッカー界のレジェンド・デヴィット・ベッカム……。これまで来店したビッグネームは数知れず。もちろん著名人だけでなく、一般の方々からも愛されています。

1日1組ということで、一生に一度の特別なタイミングで利用してくださるお客様も多いです。まさに毎日が勝負で、この勝負を逃したら死ぬと思って仕事をしろと、日々自分に言い聞かせています。

1日1組——。失敗が許されない状況下で闘う庄司さんの言葉は、鋭く心に突き刺さってきます。一流人は一様に「仕事は闘いだ」と言いますが、言葉の端々にそんな切迫感を感じさせる60分間となりました。

庄司夏子(しょうじ・なつこ)
平成元年東京都生まれ。駒場学園高等学校食物調理科を卒業後、「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」「フロリレージュ」で修業を積む。26年24歳でパティスリー「フルール・ド・エテ」、27年フレンチレストラン「エテ」をオープン。「アジアのベストレストラン50」において、令和2年日本人女性初の「最優秀ベストリーシェフ賞」、4年「最優秀女性シェフ賞」を受賞。

「été」 誕生の原点

庄司さんは、調理科のある高校を出た後、高校の先生の伝手で、当時ミシュランの一つ星を獲っていた代官山の「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」に入社。その後、店が閉じたのを機に南青山の「フロリレージュ」へ移ります。

一流料理店で修業を積む中、独立に踏み切ったきっかけとは何だったのか。実を言うと、庄司さんはフロリレージュ時代に、一度料理の世界から身を引いています。

フロリレージュで働いていた時、父が危篤状態になったんです。ある日家に帰って来たら、「お父さんはあと2週間で死ぬかもしれない」と母から告げられました。当時、私は夜遅くに帰宅し、リビングで仮眠して出勤するような生活でしたから、父がそこまで深刻な状態になっているとは知らなかったのです。

とはいえお店が忙しく、スーシェフという責任のある立場を担っていたことから、ろくにお見舞いにも通えないまま父は息を引き取りました。22歳の時です。

死に目にも会えず、遺体安置所で冷たくなった父に触れた時、途轍もない後悔と恐怖感に襲われました。私は人として最低なことをしてしまった。このままでは、いつも応援してくれる母にも同じことをしてしまうのではないか……。それで、もう料理の世界からは身を引くつもりで店を辞めたんです。

自分が料理をする意味とは何なのか……。早朝から未明まで、文字通り身も心も仕事に捧げてきた生活から一転、自らと向き合いました。そしてそれは、仕事を通じてではなく、久し振りに「料理」というものにまっさらな自分で向き合った瞬間でもありました。
思い出されたのは、料理人を目指す原点となった中学生時代。自分のつくったシュークリームをおいしそうに頬張り、喜ぶ友人の姿でした。

自分には料理しかない——。料理をする喜びに再び目覚めた庄司さんは、そうしてもう一度料理の世界に戻り、独立を決意したのです。

然は然りながら、当時は弱冠22歳。独立にあたっては、想像以上の過酷な現実が待ち受けていました。
本誌では、難航した資金調達、追い詰められた庄司さんが取った驚きの行動、そこから事業を軌道に乗せるまでの軌跡を辿っています。

店の人気のきっかけとなったマンゴータルト「フルール・ド・エテ」

道を切り拓く人の条件

2022年にアジアの頂に立ち、現在も世界一を目指して研鑽を続ける庄司さん。道を切り拓く上で何を大切にしてきたのでしょうか。その一部を抜粋して紹介します。

私は起業の経験を通して、世界を変えようと思ったら命を懸けないといけないと学びました。

仕事に集中している間、当然友人と会えない寂しさもあります。結婚や出産、周りからいろいろな報告を受けるのですが、いまは脇目も振らず前進する時だと割り切っています。

本気で世界を変えようと思うなら、人並みの幸せを諦めなければならないこともあるんですね。

それでも続けられる理由は、全身全霊を尽くして仕事をし、お客様からいただく感謝の言葉です。どんな辛さもあの瞬間の幸せには代えられません。

そのほか誌面では、過酷な修業時代に学んだこと、「été」の由来、「勝つか、死ぬか」の世界で掴んだ仕事の要諦、今後の目標など、全3ページを使って、庄司さんの半生・仕事観を余すところなく紹介しています。詳しくはぜひ本誌をご覧ください。

▼『致知』2025年3月号 特集「功の成るは成るの日に成るに非ず」
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