2025年02月10日
日本を取り巻く安全保障の現状は年々厳しさを増すばかりです。一方、それに対する国民の危機意識は極めて低いという他ありません。私たちは直面する危機をいかに克服し、2050年に向けて、どう未来をひらいていくべきなのか。航空自衛隊空将を務めた織田邦男氏と陸上自衛隊陸将を務めた番匠幸一郎氏に、指揮官としての長年の経験を踏まえて語り合っていただきました。
自衛隊が組織として重視していること
<織田>
今回のテーマは「2050年の日本を考える」ということですが、国防に限らず将来の日本の鍵を握るのは何よりも「人」だと私は思います。
第3代アメリカ大統領トーマス・ジェファーソンが「最大の国防は、よく教育された市民である」という言葉を残していて、これを初めて聞いた時は胸に突き刺さる思いがしました。
私は自衛官を退職した後、三菱重工の顧問をしながら2つの私立大学で安全保障について講義をしてきましたが、学生の関心がとても高いことに驚きました。だけど、安全保障は公立の大学ではどこも教えていないんです。というか、教えることがタブーなんですね。
<番匠>
残念なことですね。
<織田>
世の中を見れば、例えばロシアとウクライナの停戦がどうなるのか、そのことの日本への影響はどうなのかは大きな関心事でしょう? だけど、日本のメディアで報じられるのは、政治とカネの問題ばかり。それはそれで大事ではあるのでしょうが、極めて大きなことが世界で起きようとしているのにそれを教えてくれる人がいない。まぁ世界の常識から見たら、日本はかなり歪だと思います。
今回の特集テーマが哲学者・森信三先生が語られた「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」という言葉によるものだと聞いて共感しましたが、その言葉はあくまでも「若者がしっかり教育されている」ことを前提としたものだと思うんです。
番匠さんもそうでしょうが、自衛隊ではコンビニでたむろしているような、国歌も歌えない若者をゼロから教育し直す。すると彼らは見違えるように成長します。要するに教育を受ける場がそれまで与えられなかっただけなんですね。
<番匠>
その通りですね。私は入隊した若者に「私か公か、個人か集団か、自由か規律か、権利か義務か、楽しいことか厳しいことか」という対立概念を話してきました。
「君たちはこれまで、私という個人の自由や権利、楽しいことの中で過ごしてきたかもしれない。しかし、これからは逆に、公のために、集団で、規律、義務が求められる中で任務を果たさなければならない。そのためにも強くなくてはいけない」と。
また、入隊したばかりの隊員たちの中には、直立不動の姿勢ができない、相手の目を見て話せない、大きな声が出せないという者も多くいます。しかし、1週間も訓練すれば皆ができるようになるんですね。これまで教えられていなかっただけです。
自衛官の職務以前に、一人の人間として何が大事であるか。それが自衛隊が組織として重視していることだと思います。
(本記事は月刊『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」より一部抜粋・編集したものです)
◇織田邦男(おりた・くにお)
昭和27年愛媛県生まれ。49年防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊。F4戦闘機パイロットなどを経て、58年米国の空軍大学へ留学。平成2年第301飛行隊長、4年米スタンフォード大学客員研究員、11年第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長などを経て、17年空将。18年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部隊指揮官)。21年航空自衛隊退職。東洋学園大学客員教授を経て現在麗澤大学特別教授。著書に『空から提言する新しい日本の防衛』、共著に『日本を滅ぼす簡単な5つの方法』(共にワニ・プラス)など。
◇番匠幸一郎(ばんしょう・こういちろう)
昭和33年鹿児島県出身。55年防衛大学校卒業、陸上自衛隊入隊。第一線部隊勤務などを経て、平成12年米国陸軍戦略大学卒業。第三普通科連隊長兼名寄駐屯地司令、第一次イラク復興支援群長、幹部候補生学校長、陸上幕僚監部防衛部長、陸上幕僚副長、西部方面総監などを歴任し、27年退官。30年まで国家安全保障局顧問。現在は防衛大臣政策参与、拓殖大学特任教授、政策研究大学院大学客員教授、全日本銃剣道連盟会長などを務める。共著に『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書)『失敗の本質を超えて』(日本経済新聞出版)など。
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