2025年01月18日
◎最新号申込受付中! ≪人間力を高める2025年のお供に≫標高1000メートルの信州・飯綱高原に広がる癒やし、気づき、学びのコミュニティ「いのちの森『水輪』」。夫婦で代表を務める塩澤研一氏とみどり氏の活動の原点は、出産時のトラブルで最重度の障碍を負った愛娘・早穂理さんの誕生でした。子育ての中で心が乱れたときに心に刻んだ稲盛和夫氏の言葉と、繰り返し行ったという心を引き戻す訓練とは──。
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「いま、ここ、自己」から「いま、ここ、愛」へ
<塩澤みどり(以下、みどり)>
飯綱高原へ移ってきた当初はほとんど人が来ませんでしたから、否応なしに一日中自分の心と向き合っていました。
朝起きた直後は、私の心は気持ちよいまどろみに浸っているんですけど、覚醒してくるに従って早穂理のことで頭がいっぱいになり、この先どうなるんだろうと不安で居ても立ってもいられなくなってしまう。
人間の心というのは常に常に変化しているわけです。
<塩澤研一(以下、研一)>
本当にその通りですよ。
<みどり>
稲盛塾長は、「悪しきことを思えば悪しきことが実現し、善きことを思えば善きことが実現する」とおっしゃいました。
私はこの言葉を心に刻んで、一日の終わりに、きょうは何を考え、どういう意識で過ごしたのか、自分のものの感じ方や考え方を見つめるようになりましたね。
当時はまだ差別意識も強くて、早穂理ちゃんの家から吹いてくる風に当たると馬鹿になるから、窓を閉めようなどと、いろんな陰口を叩かれました。それが山へ上がってくるきっかけにもなったんですね。
けれどもそうやって自分を見つめ続けているうちにふと思ったんです。あの意地悪なおばさんたちは、私にいろんなことを味わわせるためにいてくださったんだなと。すごく嫌だったあの方たちに、また意地悪をしてちょうだいって心の底から思えたんです。
<研一>
周囲の陰口には随分悩まされましたが、みどりさんが自分を見つめ続けてそこまで心境を高めたことは素晴らしいと思います。
<みどり>
早穂理は言葉を話すことができなくて、ただ「あーあー、うーうー」という声を発するだけなんです。だから彼女が訴えていることを察するためには、心を本当に澄まして、言葉にならないいのちの音を聴けるようにならないとダメだと思ったんですね。
そのためにどうしたらいいんだろうって随分考えたんですが、ある時ふと、テレビは線で繋がっていなくても遠くの映像をアンテナでキャッチする。あ、心も同じだなと思ったんです。
早穂理が発する周波数に私が合わせられるようになっていかないと、この子は生きられない。よその健康な子を見て「あの子はいいな」「早穂理は何でこんなふうに生まれちゃったんだろう」って心を乱していたら大事なことを取り逃がしてしまう。
そう考えて、心が乱れる度に「いま、ここ、自己。いま、ここ、自己」と心を引き戻す訓練を懸命に繰り返してきました。先ほど、早穂理に真夜中に食事を食べさせたり、便にまみれてしまったパジャマを何度も着替えさせたりして、思わず涙がポロポロ溢れてきたというお話もしましたけど、そうして心がネガティブに傾きかける度に、「あ、いけない。いま、ここ、自己。いま、ここ、自己」と。
繰り返し、繰り返しそれをやり続けているうちに、「いま、ここ、自己」が「いま、ここ、愛」になって、愛に満たされていくんだということが分かってきたんです。
(本記事は月刊『致知』2025年1月号 特集「万事修養」より一部を抜粋・編集したものです)
↓ 対談内容はこちら!
◆マイナスの考え方をプラスに
◆運命の子早穂理の誕生
◆僕たちがやるべきなのはこれではない
◆もう一度できることがあるのではないか
◆稲盛塾長から学んだ成功の秘訣
◆「応援して報われた」と言われる生き方を
◆四度にわたる危篤状態を乗り越えて
◆自己を深めいのちを輝かせて生きるために
◆「いま、ここ、自己」から「いま、ここ、愛」へ
◆早穂理はすべてを教えてくれる先生
◆愛といのちを育む思いやりの輪を広げていきたい
◇塩澤研一(しおざわ・けんいち)
昭和22年長野県生まれ。前頭葉脳損傷という重度の障碍を負った娘・早穂理の養育体験を踏まえて様々な社会活動を展開。平成4年水輪の会を設立し、心と体といのちを大切にする実践活動を展開。18年いのちの森文化財団を設立。23年公益財団認可。㈱水輪ナチュラルファーム代表取締役。㈲グリーンオアシス代表取締役。いのちの森クリニック事務局長。
◇塩澤みどり(しおざわ・みどり)
昭和22年長野県生まれ。出生時に前頭葉脳損傷という重度の障碍を負った娘・早穂理との生活の中で、様々な葛藤を体験。平成4年水輪の会設立を出発点に、心と体といのちを大切にする実践活動を展開。18年いのちの森文化財団を設立。23年公益財団認可。水輪の会代表。いのちの森クリニックカウンセラー。