2024年12月20日
中国唐代の禅僧で臨済宗の開祖・臨済義玄の言行をまとめた『臨済録』。「語録の王」とも呼ばれる禅門修行者のバイブルを臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺老師がやさしく紐解きました。『臨済録に学ぶ』は、令和2年に5回にわたり行われた弊社主催の連続講座を書籍化したもの。ぶれない心をいかに創るか――。激動の世にこそ、禅の教えが強い光を放ちます。本日はその中から、一部を抜粋してご紹介いたします。
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『臨済録』を講じるにあたって
「コロナ禍」「緊急事態宣言」「ロックダウン」「三密」「オンライン」「リモート」「対面」……。
令和2年(2020)、夏には東京オリンピックが開催されると期待に胸をふくらませていたのが、こんな聞いたことのない言葉や、あまり使わなかった言葉が、世の中にあふれるようになりました。
4月には、全国の学校が休校になり、5月のゴールデンウィークには、ほとんど誰も外出しないという事態になりました。電車に乗っても、誰もつり革を持つ人がいないという異様な光景を目にするようになりました。大きな変化でありました。私など50数年の人生では経験したことのないものでした。
これから世の中はどうなるのかという言い知れぬ不安に襲われました。これは将来歴史に残る一ページに、今自分たちは置かれているのだろうと感じていました。
お寺の暮らしも大きく変わりました。激変と言っていいでしょう。本来、広い寺というのは多くの人が集まることができるようにと造られたものです。そこに人が集まってはいけないということになったのです。
「不要不急」という言葉にも苦しめられることになりました。「不要不急の外出は控えてください」という一語によって、寺を訪れる人はいなくなってしまいました。またそれまで大勢の人が集まっていた、お寺の坐禅会、法話会、研修会などはすべて中止せざるを得なくなり、文字通りの閑古鳥の鳴く寺になったのでした。
多くの人が不安になっている時こそ、何かできることはないか、いろいろと考えて行ったのが、オンラインの活動でありました。これまで寺ではあまり取り組むことのなかった分野です。慣れないことでありましたので、試行錯誤を繰り返しました。直接会って伝えるのとは違って、なんとも言えないもどかしさを感じながらも、それでも何かを伝えなければ、何かを届けなければという思いで行ってきました。
そんな試行錯誤を繰り返す令和2年の9月に、この致知出版社主催の『臨済録』に学ぶ人間学講座が始まりました。致知出版社のセミナーは何度も行ってきましたが、受講者が誰もいないところで語るのは全く初めてのことでした。
しかし、歴史を学ぶと、唐代の禅僧たちは、激しい歴史の変動の中にあっても実にいきいきと主体性を失うことなく活動していたことがわかります。武宗の仏教大弾圧もありましたが、禅僧たちは、たとえ寺が潰されても、仏像が壊されても、経典が燃されても、それにめげることなく、かえっていきいきと生き抜いていたのでした。『臨済録』には、そんな激動の時代を生き抜いた臨済義玄禅師の力強い言葉が満ちあふれています。「よし、今こそ『臨済録』だ」と思ったのでした。
こで古来難解と言われる『臨済録』から今学ぶべきこととして次の三つを掲げてみました。
一 無位の真人
自己の素晴らしさに目覚める
二 随処に主と作(な)る
どんなところでも主体性を持つ
三 活潑潑地(かっぱつぱつじ)
いきいきと生きる
この3つのことを伝えたいと思って講義をしました。
しかしながら、オンラインでの講義というのはかなり苦労しました。何せ聴衆のいないところで話をするのであります。目の前にいるのは、撮影のスタッフのみでありますから、この致知出版社の方に講義をするのだと思って努力をしたものでした。ところが少しおもしろいことを言ってみても、誰も笑いません。反応の無い中で語るのは、流水に文字を書くようにはかないものでした。
オンラインということにまだ慣れない頃に始めたので、受講者もさらに減ってしまいました。それでも逆境の中を生き抜いた禅僧たちに学ぼうと心を奮い起こして全5回の講義をしました。
本書はコロナ禍の最中、オンラインで行っていることを念頭に読んでいただきたいと思います。5回の講義で『臨済録』をすべて講じることは無理であります。全体の構成を練って、まず第一回は、「心を伝える」と題して「臨済録に到るまで」の過程を話しました。臨済禅師は、「仏とは今私の目の前でこの話を聴いているあなた自身だ」と力強く説かれました。しかし、仏というのが遠い彼方にある努力目標のように思われていたところから、臨済禅師の教えのようになるには、色々な経緯がありました。そのことについて禅の初祖と呼ばれる達磨大師の教えから学び、そして臨済禅師の思想の根幹になると言ってもいい馬祖道一禅師について学びました。
第2回は「自己に目覚める」と題して、「臨済の開悟」について語りました。臨済禅師がどのように道を求めて、どのように真の自己に目覚めたのかについて講義をしました。
そして第3回は「真の自己とは」と題して、「無位の真人」という臨済禅師の教えの中核を講義しました。第4回は「正しい見解を持つ」と題して、臨済禅師が繰り返し説かれた「真正(しんしょう)の見解(けんげ)」即ち正しいものの見方について話をしました。
そして第5回目は「いきいきと生きる」と題して、「臨済録の実践」について語りました。この講座は一般の社会で活躍されている方を対象にしていますので、住友の伊庭貞剛や女性解放運動の平塚らいてう、山岡鉄舟などについて話をしました。単に『臨済録』本文を読むだけでなく、どのように実践に役立てるかについて講義をしてみました。
講義の底本としては岩波文庫の入矢義高先生訳注の『臨済録』を用いました。私は円覚寺の朝比奈宗源老師訳注の岩波文庫旧版『臨済録』をいつも参照しているのですが、ただいまこの本は入手困難となっていますので、入矢先生のものを底本にしました。
また本書には、たびたび駒澤大学教授小川隆先生のお名前が出てきます。小川先生には、多年『臨済録』についてご教示いただいてきました。長年禅の修行道場に身を置いてきた私にとって、最先端の禅学に触れることができたことの洪恩は計り知れません。本書の到るところに小川先生より教わったことが反映されています。先生にはここに厚く御礼申し上げます。
◎目次◎
第一講 心を伝える──『臨済録』に到るまで
第二講 自己に目覚める──臨済の開悟
第三講 真の自己とは──無位の真人
第四講 正しい見解を持つ──真正の見解
第五講 いきいきと生きる──『臨済録』の実践
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◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39 年和歌山県新宮市生まれ。62 年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3 年円覚寺僧堂で修行、足立大進管長に師事。11 年、34 歳の若さで円覚寺僧堂師家(修行僧を指導する力量を具えた禅匠)に就任。22年より臨済宗円覚寺派管長。29 年12 月花園大学総長に就任。著書に『自分を創る禅の教え』『禅が教える人生の大道』『人生を照らす禅の言葉』『名僧に学ぶ生き方の知恵』『十牛図に学ぶ』、共著に『命ある限り歩き続ける』『生きる力になる禅語』(いずれも致知出版社)などがある。
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