2024年12月07日
1881年、時計の輸入販売と修理業として創業され、時代の流れに即応しつつ飛躍的発展を遂げたセイコーグループ。十代目社長で現在は代表取締役会長CEOとしてグループを率いる服部真二氏もまた、不採算事業会社の立て直しなど様々な改革をしながら、その伝統と歴史を引き継いできた一人です。同社社長へ就任時に見舞われた逆境を振り返っていただきながら、その処し方について語っていただきました。(対談のお相手は、服部氏の高校・大学の同期であり、TOMAコンサルタンツグループ会長の藤間秋男氏です。) ◎今年、仕事でも人生でも絶対に飛躍したいあなたへ――
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逆風の中で取り組んだよき社風づくり
<藤間>
服部さんも経営者としていろいろな苦労を乗り越えてきたことでしょうね。
<服部>
私にとっての最初の逆境は2001年、部品会社であるセイコープレシジョンの社長をやっていた時です。
就任した頃は多角化として取り組んだ事業がことごとく不調で経営難に陥っていました。唯一の黒字だったカメラのシャッター部門も、世の中のデジタル化の流れによって業績は低下する一方だったんです。
社長就任2年目、私は希望退職を募り20%もの従業員を削減する苦渋の決断をしました。人事部長も責任を取って辞めていきましたけれども、この時は本当に辛く苦しかったですね。
自分の責任で問題を解決せねばならなかった経験は経営者としての自覚を深めるきっかけともなりました。
<藤間>
その気持ち、僕もよく分かります。
<服部>
セイコーの社長に就任した2010年も、それ以前から経営陣が起こしたトラブルによりガバナンスの改革が急務でした。社会からの厳しい目に晒される中で舵取りをするのは容易ではありませんでしたけれども、立て直しを任された私が何より重点的に取り組んだのは社風を変えることでした。
それまでは失敗を許されない減点主義の風潮があり、上の人に突っ込んだ話はできませんでした。この上意下達の風潮をボトムアップへと変えることに力を注いできたんです。
ボトムアップが醸成されるにつれて、幹部は部下の意見を少しずつ取り入れるようになりました。社内ではお互いに「さん」付けで呼び合うよう周知し、役員会の席次も、ネクタイも廃止。社員は自分の意見を堂々と言えるようになりました。
<藤間>
服部さんが理想とする会社に近づいたのですね。
<服部>
「伝統はつくるべくして、守るべからず」という言葉が私は好きなんですけれども、私がセイコーの社長に就任するまで、銀座の象徴でもある和光(セイコーハウス内の時計、宝飾の高級専門店)は日曜休業が慣例となっていて、「銀座でなぜ和光だけが休みなんだ」という苦情がステークホルダーから相次いでいました。
調べてみると、「日曜日が休みだから入社した」「歩行者天国で買ったアイスクリームを舐めながら子どもが入店されても困る」といった意見がありましたが、私はこれを改革する道は一つしかないと。それは公の場で発表することでした。
<藤間>
公の場で発表する。
<服部>
2010年の株主総会で、「和光は私の責任において日曜日もオープンします」と宣言したんです。社内の了解は取りつけていませんが、この選択肢しかありませんでした。
<藤間>
いやその話は初めて聞きましたが、穏やかなイメージの服部さんがそれだけの大胆な決断をされたことに僕は驚きました。
普段はいろいろな意見に耳を傾けるけれども、ここぞという時には周囲からどう批判されようとも「俺はこう思う」としっかりと筋を通す。
これは経営者の姿勢としてとても重要だと思いますね。
(本記事は月刊『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」より一部を抜粋・編集したものです)
↓ 対談内容はこちら!
◆旧交を温め続けて
◆ソリューションカンパニーとして社会の課題を解決
◆会社のパーパスをいかに人生と結びつけるか
◆日本一多くの百年企業を創り続ける
◆一営業マンとして知った現場の心
◆数々の改革で経営を改善に導く
◆経営者の心得を教えられた松下幸之助の言葉
◆逆風の中で取り組んだよき社風づくり
◆百年企業になるために大事な要件
◆日本文化の根源は「時」と「自然」と「道」
◇服部真二(はっとり・しんじ)
昭和28年東京都生まれ。慶應義塾高校、慶應義塾大学経済学部を卒業。昭和50年に三菱商事に入社。59年に精工舎(現セイコータイムクリエーション)入社。平成15年にセイコーウオッチ社長に就任。22年にセイコーホールディングス(現セイコーグループ)社長に就任。24年に代表取締役会長兼グループ最高経営責任者(CEO)に就任。29年には一般財団法人服部真二文化・スポーツ財団を設立し、世界に挑戦する音楽家とアスリートに服部真二賞を授与している。令和5年春の叙勲において旭日中綬章を受章。
◇藤間秋男(とうま・あきお)
昭和27年東京都生まれ。慶應義塾高等学校、慶應義塾大学商学部卒業後、大手監査法人勤務を経て、130年続く藤間司法書士事務所の新創業として社員数ゼロで、57年藤間公認会計士税理士事務所を開設。 平成24年分社化し、 TOMA 税理士法人、TOMA社会保険労務士法人などを母体とする200名のコンサルティングファームを構築。 創業35周年を機に会長に就任。その後TOMA100年企業創りコンサルタンツを設立。著書に『永続企業の創り方 10ヶ条』(平成出版)『中小企業の「事業承継」はじめに読む本』(すばる舎)『社員を喜ばせる経営』(現代書林)『100年残したい日本の会社』(扶桑社)など多数。