2024年11月23日
大吟醸の「黒龍」や純米酒の「九頭龍」など、日本酒を代表する高級銘柄として国内外で高く評価されている黒龍酒造。今年で創業220年の節目を迎えた同社を率いるのが水野直人氏です。そんな水野氏に、心に刻む父の教えと日本酒が持つ価値について語っていただきました。
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一歩先ではなく半歩先を行く
──お父様からは、どんなことを学ばれましたか。
<水野>
8年前に82歳で亡くなりましたが、褒めることをしない、すごく厳しい人でしてね。
会社の方針を巡って随分喧嘩もしましたけど、執着心っていうか、人に負けたくないっていう気持ちと、人がやっていないことをするという思いが非常に強くて、高い希望を持ちながら挑戦を続けていました。
いろんなことを言われましたけど、特に印象に残っているのが、「実るほど頭こうべを垂れる稲穂かな」。偉くなって周りからチヤホヤされても自分を見失ってはならない。地位が高くなるほど頭を低くするような人間でなければあかんと。
もう一つは、「一歩先を行くのではなく、半歩先ぐらいにしなさい」と。
父は若い時から新しいチャレンジをどんどんやって、失敗もたくさんしているんですけど、その時に先輩経営者から言われたそうです。
一歩先では時代がついてこない。飛躍的にやり過ぎると失敗すると戒めてくださったのだと思うんです。
この二つは印象に残っていて、2005年に41歳で社長を継ぎ、すべての責任を自分で負うことになってからは特に心に刻んできました。まぁ実際には、一歩先まで行ってしまっていることが多いかもしれませんが(笑)。
日本酒はもっと評価されていい
<水野>
それから父は、同じ醸造酒としてワインに強い関心を抱いて、フランスやドイツを歴訪して随分影響を受けたようです。
僕も当社に入った時から、世界中で飲まれているワインにとても興味がありましてね。
醸造に携わる人たちがどういう思いで造り、どんなお客さんに求められているのか。それが知りたくて、ワインの銘醸地であるフランスのブルゴーニュや、アメリカのナパバレーに何度も足を運んで勉強を重ねました。これはいまも続けています。
そこで影響を受けたのは、熟成すること。
ワインにはヴィンテージがあって、年代物の高級酒があるじゃないですか。日本酒ってそれがないんですよね。
ヴィンテージもののワインのような価値の高い日本酒を造りたいと、若い時から思っていたんです。
──日本酒にこれまでにない価値を付加したいと。
<水野>
そうして入社当初からテストを重ね、2018年に発売したのが「無二」という熟成酒です。
これは氷温熟成といって、マイナス5℃の氷温保存が可能な専用セラーで、5年以上熟成させたヴィンテージ原酒でありながら、日本酒本来の香りや味わいを残しつつ、熟成によって生まれるまろやかさをミックスした新しい日本酒です。完成するまでには熟成環境を変え、温度帯を変え、数え切れないほどテストを重ねました。
続けていくのは本当に大変で、僕の集大成ともいえるお酒なんです。
販売の仕方にもこだわって、初めて入札制を取り入れました。
まず、酒屋さんやソムリエさんなど、食に携わるプロフェッショナルに集まっていただき、そのヴィンテージの背景をプレゼンテーションしましてね。
試飲していただいたら、いままでに飲んだことのないお酒だと、皆さんびっくりされました。ある方は、球体のお酒を飲んでいるみたいだと、独特の表現で評価してくださったんです。
それを元に酒屋さんに値段を決めていただいたんですが、安いものでも10万円、高いものだと30万円以上の販売価格となりました。
新しい価値を生むことができた喜びは格別ですが、日本酒はもっと評価されていいと僕は思うんです。そのために、少しでも付加価値の高いお酒を造ってお客様に発信できる仕組みをつくっていきたいと思ってきましたが、この「無二」を通じてそれを形にすることができたのはとても大きかったですね。
(本記事は月刊『致知』2024年11月号 特集「命をみつめて生きる」より一部抜粋・編集したものです)
◉『致知』2024年11月号 特集「命をみつめて生きる」に水野氏がご登場!!◉
北陸の一級河川・九頭竜川の流域で220年の歴史を刻んできた黒龍酒造。かつては主に品評会のために造られていた大吟醸酒を、全国に先駆けて商品化した同社の日本酒は、左党を唸らせる高級酒として高い支持を集めています。革新の連続で今日を築いてきた社長の水野直人氏に、命をみつめて取り組む酒造りについてお話しいただきました。
~本記事の内容~
◇時代に合ったよい酒を追求し続けて
◇会社組織での酒造りとブランディングの大切さ
◇顧客の元に届くまでのすべてが大切
◇価値観を共有できる店と一緒にやっていく
◇一歩先ではなく半歩先を行く
◇日本酒はもっと評価されていい
◇ゼロ杯を一杯に
◇日本酒が教えてくれること
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◇水野直人(みずの・なおと) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
昭和39年福井県生まれ。東京農業大学醸造学科卒業後、協和発酵工業(現・協和キリン)入社。平成2年黒龍酒造入社。17年同社社長に就任。
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