2024年11月18日
映画化もされ、一躍脚光を浴びたベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』。〝ビリギャル〟として親しまれる同書のモデル・小林さやかさんは現在、出版や講演活動を通して日本の教育を変えるために奔走されています。今年(2024)5月に米コロンビア大学教育大学院を修了して間もない小林さんに、恩師・坪田信貴先生との出逢い、留学での体験、ビリギャルの物語で伝えたいメッセージについて語っていただきました。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
「小さなできるを大きなやる気に変える」
私がモデルとなり、累計100万部を突破した『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の出版から早10余年。出版や講演を通して、いまも変わらずビリギャルとして活動させていただいています。これらもビリギャルの著者である坪田信貴先生との出逢いから始まったことを思うと、感謝してもし切れません。
地元・名古屋の中高大一貫校に入学した私は、受験勉強の反動から夜遅くまで遊び回るように。素行不良で停学になることもしばしば。ついには大学への内部推薦は受けられないと告げられました。
そうして迎えた高校2年の夏、母の薦めで面談に行ったのが坪田先生の勤める個人塾でした。周りの大人に煙たがられていた私にとって、坪田先生は私の話に真摯に耳を傾けてくれる、初めての大人でした。2時間話し込んだ末、先生はこう呟かれたのです。
「君みたいな子が慶應に行ったら、ドラマチックだよなあ」
慶應がどんな大学かさえよく知りませんでしたが、先生の語りから未知の世界が待っている気がして、ワクワクが止まりませんでした。様々な人と出逢えるかもしれないという好奇心に突き動かされ、慶應を目指そうと決めました。
とはいえ、当時は偏差値20台で学年ビリ。周りからは「受かるはずない」と罵られる有り様でした。それでも諦めなかったのは、傍で支えてくれる母がいたからです。母は常に私の意思を尊重してくれ、塾に通いたいと伝えた時は涙するほど喜んでくれました。たとえ失敗しても、学びの機会と捉える母に育てられたからこそ、臆することなく挑戦できたように思います。
心理学を専攻していた坪田先生もまた、モチベーションを引き出す天才でした。先生は私のモチベーションが下がらないように、当時の私の学力に適した小学4年生レベルにまで立ち返り、一から基礎固めをさせてくれました。
「小さなできるを大きなやる気に変える」。日々の小さな成長感覚を何よりも優先してくれた坪田先生の指導が、私の心に火を点けました。毎日15時間勉強し続けるうちに、みるみる成績は上がっていく。何度も挫けそうになりながらも、精いっぱい努力を重ねた先に、慶應義塾大学総合政策学部への入学を果たしました。
自分の能力より一段難しい問題をクリアしていけば、やがて大きな景色が見えてくる。坪田先生に教わった〝生きる知恵〟は代え難い財産です。
教育を変えるには、子どもが触れる大人のあり方を変えなければならない
充実した大学生活を経て、ウエディングプランナーとして働いていた2013年、ビリギャルが出版。私も講演で全国を飛び回るようになり、多くの保護者や子どもたちと接する機会に恵まれました。
そこでひしひしと感じたのは、人は努力したプロセスには目もくれず、結果からしか判断しないということです。「さやかちゃんはもともと頭がよかった。うちの子には無理」などの否定的な声を耳にすることが少なくありませんでした。中には第一志望に不合格となり、「あんたを信じた私が馬鹿だった」と母親に言われたことがトラウマになっている高校生もいました。
周りにいる大人の姿勢が子どもたちの可能性を潰しているのではないか。その現状に疑念を覚えました。教育を変えるには、子どもが触れる大人のあり方を変えなければならないと思い至り2019年、聖心女子大学大学院に進学したのです。
大学院では私だからできたのではなく、環境や努力の方法次第で誰しも成長できるということを科学的に説明するために認知科学を研究。研究すればするほど、本場アメリカで学びたいとの思いが沸々と湧き、コロンビア大学教育大学院に留学しました。2022年、34歳の時です。
講義はおろか、オリエンテーションの内容さえ分かりません。クラスで英語ができないのは私一人でした。ただ、不安よりも期待感に満ち溢れていました。「ここで頑張ればさらに成長できる」。未来の姿を思い描くことで、自分自身を奮い立たせたのです。
ついていくのに必死でしたから、講義を録音しては繰り返し聞く。皆が2時間で終わる課題も、2日かけて取り組みました。また、授業ではたとえ恥をかいても最初に発言することを心掛けました。
這いつくばるように坪田先生の教えを実践するにつれ、少しずつ言葉が分かるようになる。自ずと自信に繋がり、思う存分研究に没頭できたことで、今年(2024年)5月にオールAで卒業することができました。
ビリギャルの物語を理論立てて解き明かした成果は、近著『私はこうして勉強にハマった』にまとめました。今後はこの研究を基に、大人のあり方を変える教育ビジネスを立ち上げたいと考えています。
死ぬ気で頑張った経験は一生の宝物になる
「君が死ぬ気で何かを頑張ったといえる経験こそが、君の一生の宝になるんだよ」
受験を間近に控えた高校3年の冬、坪田先生からもらった言葉です。30歳を超えて初めての留学に踏み出せたのも、過去の自分に背中を押されたからに他なりません。勇気を振り絞り挑戦を重ねた経験が、人生軸を築いていくのだと心から実感しています。
だからこそ、結果ではなくプロセスに焦点を当ててほしい。失敗は成長するために必要なステップだと、思える環境をつくってあげてほしい。そうすれば、一人ひとりの才能が花開く幸せな社会に繋がる。これが私の切なる願いであり、ビリギャルの物語で伝えたいメッセージです。
(本記事は月刊『致知』2024年11月号 連載「致知随想」より一部抜粋・編集したものです)
◇ 小林さやか(こばやし・さやか)
1988年名古屋市生まれ。高校2年の時に出会った恩師・坪田信貴氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称:ビリギャル)の主人公。慶應義塾大学卒業後、ウエディングプランナーを経て、“ビリギャル本人”としての講演や執筆活動などを展開。2019年聖心女子大学大学院へ進学、21年3月修了。22年9月米国コロンビア大学教育大学院の認知科学プログラムに留学。24年5月修了。著書に『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)『ビリギャルが、またビリになった日 勉強が大嫌いだった私が、34歳で米国名門大学院に行くまで』(講談社)がある。
◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください